閑話:医科大からの電話
家で翔のご飯を食べさせていると、携帯が鳴った。
そこには、聖心医科大と表示されているのを見て、心臓が嫌な音を出す。
私は電話に出る。
「はい。佐藤です」
「こちらは聖心医科大の里田です。ご主人が昏睡状態です…」
私は目の前が真っ暗になり、その後の声が入ってこない。
「…佐藤さん、佐藤さん、聞こえますか?」と糸井先生の声が電話から聞こえる。
翔の鳴き声で我に返った。
私は翔に「大丈夫よ。びっくりしたね」と言って安心させる。
「…す、すみません」
「後でもう一度電話します」
「いえ、もう大丈夫です。遥翔、主人のことを教えてください」
「リハビリ中に血圧が低下し、倒れました。その際、頭を少し打っています。そのため、昏睡状態です」
「目覚めるのでしょうか?」
「現時点ではわかりません。病院で説明しましょうか? それともWeb会議の方がよろしいですか?」
「Web会議でお願いします」
「では、案内を送ります」
私はノートPCを取り出し、Web会議に接続する。
「すみません。里田先生が不用意に状況を伝えて混乱させました。私が説明します」
「あっ、よろしくお願いします」
「リハビリで、一時的に脳への血圧が低下したため倒れたようです。こちらの注意不足です」
「あっ、いえ。病院は遥翔の回復のために最善を尽くしていただいています。何事にもリスクはあるとわかっています」
「ありがとうございます。画面共有します。…早速ですが、頭を打ったことの影響ですが、MRIの画像で説明します。左が3日前のMRIで、右が現在のMRIです。ここが、海馬です。違いがわかりますか?」
「はい」
「右側、すなわち、現在の海馬に亀裂が見えます」
「今回の転倒で亀裂が発生したのでしょうか? 海馬は中心ですよね?」
「はい。海馬は脳の中心にあります。リハビリの映像を確認しましたが、少し頭を打っていますが、非常に軽くですのでリハビリでの転倒が原因とは考えにくいです」
「では、以前からあったということでしょうか?」
「事故時の海馬を損傷しており、閉じていた傷が開いたと言う可能性があります」
「では、手術で海馬が修復すれば目覚めるのでしょうか?」
「海馬の手術は難しいです。自然の回復を待つことになります」
「では、遥翔は目覚めない…」
「明日、もう一度、MRIを撮ります。海馬の傷と昏睡が直接的な関係があるかどうかはわかりません。違いがあるというだけです」
「はい」
「明日の午後であれば検査結果をご説明できます」
「明日、お伺いします」
私は翔をお母さんに預けて病院に向かと、会議室に案内された。
「お座りください」
「はい」
ディスプレイにはMRIの画像が表示されていた。
「こちらが、今日撮ったMRIの画像です。ごらんのように傷はほぼ塞がっています」
「よかったです。遥翔はまだ目覚めないのでしょうか?」
「昨日もお話しましたが、海馬の傷と昏睡は直積的な関係があるかどうかはわかりません」
里田先生がそわそわしているのを糸井先生が見て、ため息をつく。
「佐藤さん、里田先生が『仮説』を披露したいと言っていますが、聞きますか?」
「『仮説』ですか?」
「はい。佐藤さんが96年だと思い込んでいる『仮説』です」
「どうしますか? 科学的な根拠がない与太話と言っていい内容ですよ。無視してもいいですけど…」
「与太話… 聞かずに判断はできないので、お聞きします」




