↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/72

閑話:長谷川さんの癒えない傷

「糸井先生、待ってください!」

「佐藤さん、ここは病院です。お静かに」


「す、すみません」

「会議室で話をしましょう」

 私は翔(かける)を受け取ろうとすると、長谷川さんが「お話の間、私が翔(かける)君を見ていますよ」と言うので、私は長谷川さんに翔(かける)を預けた。


 会議室では、里田先生が居た。

「糸井先生、佐藤さんは翔(かける)君のことは認識できたようですけど、記憶を取り戻したのでしょうか?」

「佐藤さんは奥さんを認識できなかったようなので、まだわかりません」


 いつ、会話が途切れるのか待っていたが、話しかけるチャンスだ。

「主人は記憶を取り戻していると思います」

「翔(かける)君と呼びかけたからでしょ? 私もそう思います」と里田先生が言う。


「それもありますけど、私を認識しました」

「え? でも、『紬(つむぎ)さん。ごめん』と言っただけですよね? 『さん』付けですよ。思い出したとは言えないと思います」


「違うんです! 遥翔(はると)の癖なのです。謝る時だけ、『さん』付けなのです。で、あの口調。 私にはわかるんです!」

「そう言われても…」


「里田先生、再生していただけますか?」

「わかりました」

 里田先生は、PCを捜査して会議室のディスプレイに病室の映像を流し始めた。


「再生します。…佐藤さんは最初から翔(かける)君に注目していますね」


 再生は進み、長谷川さんと目を合わせる。

「長谷川さんは記憶しているようですけど、96年当時とは違うので、戸惑っているように見えますね」


 さらに再生は進み、糸井先生は私を示すが、遥翔は翔(かける)を見る。

「明らかに翔(かける)君に注目していますね。子供好きの男性はいますけど、ここまで反応するのは珍しいと思います。明らかに何か思い出したように見えますね」


 再生が進み、私が翔(かける)が使っているぬいぐるみを遥翔に投げつける…

 他の人がいるのに、ちょっと大人気ない… 客観的に見ると恥ずかしい。

 遥翔は私を下から見て、『えっと、紬(つむぎ)さん。ごめん』は遥翔が私に謝る時に出る言葉にしか見えない。

 でも、これは遥翔が私にしか見せない姿だから、説明しても伝わらない。

「ここからは、皆さんが病室を出た後です」


 遥翔は私たちが出て行った廊下の方を見ていたかと思うと、なにやらブツブツ言っている。

 何言っているの?

「佐藤さんは何か呟いているようですが、わからないですね。その後も言葉は発していません」


 里田先生は私が考え込んでいるのを、私が落ち込んでいると勘違いしたのか、「翔(かける)君は認識できました。佐藤さんのことをすぐに思い出すようになります」と励ます。


「写真を見せた時も子供の写真に注目する傾向がありました。今回も翔(かける)君を認識できましたので、改善していると思います。急がせることは良くありません。翔(かける)君に合わせることを繰り返せば、改善は速いと思います」

 やっぱり、わかってもらえないんだ…

「…はい」


 会議は終了となったので、私は廊下に出ると、廊下に座っている長谷川さんと翔(かける)を見つけた…

 長谷川さんは翔(かける)を見る目が、懐かしそうにも見えるし、悲しそうにも見える。

 翔(しょう)君のことを思い出しているのかな。


 私は長谷川さんにかける言葉がなく、しずかに長谷川さんの隣に座る。

「会議は終わりました? …どうしたのですか? 何か良くないことでも言われましたか? 大丈夫ですよ。きっと、記憶を取り戻します」

「え? あ、ありがとうございます」

 私は長谷川さんのことを考えていたが、口にできない。

 私は翔(かける)を受け取り、「預かっていただき、ありがとうございます」と言う。


「こちらこそ、ありがとうございます。翔(かける)君は可愛いわ」

 その後、しばらく長谷川さんと翔(しょう)君の話をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。