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俺は犯罪者?

 今日から、歩行のリハビリを開始する。

「ベルトをつけますね」

 股下と腰にベルトが付けられる。

 まるで、パラシュートのハーネスのようだ。

 そして、俺の体につけたベルトは天井の機器に接続される。


「立ってください」と補助をされ立ち上がる。

 特に右足が痛い… ハーネスで体重を支えてくれると思ったが、転倒防止に近いようだ。


「補助されているので、楽でしょ?」

「これで、補助が効いているのですか…」

 俺は小鹿が最初に立ち上がるような状態だ。


「はい。今、20kgほど補助しています。手すりを持ったままでいいので歩いてみてください」

 俺は両方に手すりがある道の手すりを強く握り、力を入れて体を浮かし、足を動かす。

 これだけで、手に汗が出るわ。

 額には脂汗がでる。


 何も言われないということは、端まで歩けってことだよな…

 身体中の筋肉も関節が悲鳴をあげているが、何とか体を動かす。

 だが、三歩目で右足が崩れ、倒れると思ったが、ベルトが体を支えてくれたので転倒しなかった。

 右足に力を入れて立とうとしたが立てない。


「ものすごい頑張りです。今日はここまでにしましょう。明日はもっと歩けますよ」

 ものすごい頑張り? え? やりすぎた? 明日はこれ以上になるのか!?

 俺は息があがりまともに動けない。

 吊り下げの機器を使って車椅子に座らされる。

 明日は筋肉痛と関節の痛みでまともに動けるとは思えない…

 学校をズル休みする子供の気持ちが初めてわかったような気がする。


 部屋に戻ると、ベッドに寝かされた。

 はぁ。終わったと思ったら、「筋肉中の水素イオンが溜まりやすくなっていますので、ストレッチしますねぇ」と有無を言わさずストレッチが開始される。


 おっさんが、痛いとギャーギャー騒ぐのは恥ずかしいので、ストレッチを耐える…

 看護師さんはストレッチしながら、「お子さんに歩く姿を見せれるように頑張りましょうね」と言った。


 ん? お子さん? お子さんって俺の? 看護師さんは何を知っている?

 俺は、「いま、おこさ…」と言いかけたが、ストレッチでまともに喋れない。

 止めてもらうため、言おうとするがストレッチが続いているので、「ちょっ… まっ…」と言う。


 看護師はストレッチで声が出てしまっただけだろうと思っているのか、気にせずにストレッチを続ける。

 やっとストレッチが終わったが、ぐったりだ。

「では、明日」と言って看護師が出て行ってしまった。


 俺は力が入らないので、天井を眺めながら考える。

 看護師が『お子さん歩く姿を見せれるように』が気になって仕方がない。

 看護師が嘘か勘違いをしていなければ、俺には子供がいるということだ。


 俺には記憶がなく、自分の名前さえわからない。

 子供がいるというのだから、俺の素性はわかっているはずだ。

 だが、名前を呼ばれていない。

 どうしてだ?


 俺に子供がいるなら家族はいる。

 じゃ、以前に考えた『なぜ家族が来ないか』の仮説

 仮説1:事故で家族が一緒に乗っていて、家族も入院中か死亡

 仮説2:俺に家族はいない

 仮説3:俺は犯罪者で逃亡中に事故?

 の仮説1と仮説2はなくなった。


 ということは、残るは仮説3だけ… この仮説3はあっているのか?

 この病院は他者との接触を禁止していないように見える。

 普通の病院だよな?

 犯罪者は監視がついたりする警察病院じゃないのか?

 あっ。俺の体が自由に動かせないから監視は不要。

 だから普通の病院で問題ないとも考えることができる。


 今のところ、仮説3に矛盾はない。

 不本意だが、俺は犯罪者と考えるか。

 どんな犯罪を犯したかわからないが、情報収集が必要なのは変わらない。

 だが、不用意に俺の状況が相手?に知られるのも良くないような気がする。

 俺が犯罪者なら、後で反抗的な態度は良くないと判断される可能性があるから、従順に応対をするしかないな。

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