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閑話:検討

 会議室を開けると、PCを睨んでいる里田先生がいた。

「お座りください」

 私たちは席についた。


「左のディスプレイは病室のカメラで、右のディスプレイはノートPCの画面になります。真ん中のカメラはノートPCのInカメラで、佐藤さんの表情を確認できます。では、再生します」


 私たちが病室に入ってくる。

「佐藤さんは糸井先生たち3人も入ってきたことに戸惑っているように見えますね。そし佐藤さんの奥さんを見て、長谷川さんを見て少し考えているように見えますね」

 私にもそう見える。


「長谷川さんがノートPCの設定を始めると、『何が始まるのだろう?』と考えている感じに見えますが、いかがですか?」と糸井先生が言う。

「主人はノートPCが気になっているように見えます」

「そうですね。私の操作よりノートPCに目が釘付けという感じですね」


「マウスに驚いているように見えますが、マウスなんて昔からあるでしょ? どうしてでしょう?」と里田先生が言う。

「もし、佐藤さんが96年と思っているなら、マウスは有線で、無線はないです」

「ということは、まだ長谷川さんの記録の世界にいると思っている可能性がありますね」と里田先生が言う。


 ノートPCの画面が遥翔の方に向けられたので、ノートPCのカメラが遥翔の顔を捉え、表情がわかりやすくなった。


「画面を見て、何か考えていますねぇ。わかりますか?」

「96年当時のSolarisのバージョンは2なんですけど、11で違うからかもしれません」

 2と11じゃだいぶ違いそうだよね。


「見栄えが違うのですか?」

「画面上にバージョンは出ていませんし、見た目が少し違いますが、知っている人間には違いはわかります」


「ユーザ名、パスワードを間違わずに入れていますね。リハビリも進んでいるようだ」

 遥翔はユーザ名、パスワードを入力するが、違和感がある…

「ちょっと待ってください」


「はい」

「そのノートPCを見せていただけますか?」

 私は、ノートPCを借りて、開き、パスワードを見た。


「タイピングが速すぎます…」

「佐藤さんはタイピングが苦手だったのですか?」


「いえ、速かったと思いますが、問題はキーボードです」

「キーボード? 普通に見えますけど…」


「パスワードに『@』の文字が含まれています」

「確かにキーボードですね」と長谷川さんが言う。

「それが?」


「このノートPCは『@』の位置が違うのです。主人は『@』のようにあまり利用しない文字はキーボードの文字の場所を見る癖があります」

「このノートPCは英語キーボードですから、配置が違うので、JISキーボードを使っている人は探すと思いますが、佐藤さんは難なく入力しています」


「佐藤さんは日頃、JISキーボード?を利用していたのですね」

「JISキーボードというのがわかりませんが、このノートPCとは配列が少し違います」


 里田先生は再生を再開し、「ウィンドウを開く動作も迷いがないですが、コマンド入力もスムーズですね。佐藤さんはコマンドをよく利用するのですか?」と聞く。

「使っているところを見たことがないです」


「そうですか。長谷川さん、佐藤さんはコマンドで何をしているのかわかりますか?」

「コマンドはログインした環境を確かめていると思いますが、何を確かめているのかはわかりません。再生を止めていただけますか?」


 里田先生は再生を止めた。

「佐藤さんは長谷川の記録の世界にはいないと思います」

「どうしてそう思われたのですか?」と里田先生が言う。


 長谷川さんは画面のウィンドウを指でさしながら、「佐藤さんはviコマンドを利用しています。長谷川はemacsを利用するからです。ですから、私はSolarisにemacsを入れていました」と言う。

「長谷川さん、emacsは長谷川さんの記録に出てきていたので知っていますが、viコマンドとは何ですか?」

「exというラインエディタのvisual版です」


「はい? ま、いいや。まとめると、佐藤さんはタイピングが今まで違い、使うコマンドは長谷川さんの記録の世界とも違うということですね。これでは、長谷川さんの世界にいるかどうかははっきりしないということですね」


 だまって私たちのやりとりを聞いていた糸井先生が里田先生に向かって、「寝言は長谷川さんの記録を佐藤さんが読んでいたで済ませることができます。ですが、英語キーボードを難なく操作し、あのSolarisというOSを躊躇なく使ったということは何ですか? 長谷川さんの記録は文章で、キーボードの操作やOSの操作まで表現されていません。これをどう説明しますか?」と言った。


「あのう… 警察から頂いたドライブレコーダーの音声を全て見直しました。長谷川さんを駅まで車で送っていくことはありましたが、そこでは翔(かける)の話をしているだけで長谷川さんの記録の話はしていませんでした。主人は何気ない会話にヒントがあると思っている人ですから、長谷川さんから記録の内容を聞いていないと思います」

「…もう少し根本的に考え直す必要がありそうですね」

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