閑話:ドライブレコーダー
糸井先生と私が診察室に戻り、椅子に座る。
「糸井先生、どうして私が主人に声をかけるのを止めたのですか?」
「佐藤さんは記憶喪失で、脳挫傷による脳の損傷で発生したものか、事故の記憶から心を守るために発生したものかはわかりません。脳の腫れは引いていますので、徐々に事故のことを聞いて、反応を確かめる必要があります。急いではいけません」
「…はい。わかりました」
糸井先生のおっしゃる意味はわかる。けど…
遥翔が私を見たら、全部思い出してくれるという期待はあったけど、実際は誰だろう?という感じで見られたのはショックだ。
「佐藤さんの反応を見て何か気づいたことはありますか?」
「反応ですか…」
私は糸井先生が手足を動かせるか聞いた時の遥翔の表情が気になった。
「何か気づいたことがあるのですね」
「気づいたということではないですが… 糸井先生が主人にマッサージをして、手足は動かせるようになったかを聞きましたよね」
「はい」
「その時の遥翔の表情は見たことがなかったです」
「そうですか… 佐藤さんを見ている限り、表情に事故の影響はないように思ます」
診察室の入り口ではなく、奥側のカーテンを里田先生が開けた。
「あっ。すみません。診察中になってなかったので…」
「緊急ですか?」
「警察が来ていまして… あっ。佐藤さん。ちょうど良かった。糸井先生、佐藤さん、一緒に来ていただけますか?」
「はい」と私が答えたので、糸井先生が立ち上がる。
里田先生の後をついていく。
病院側の人しか歩かない通路を抜け、会議室に入る。
そこには、見知った警察の人がいた。
「佐藤さんもいらっしゃったのですね。ちょうど良かった。携帯に連絡を入れたのですが応答がなかったので…」
私は携帯を見ると、着信の表示がある。
「あっ。すみません。気づきませんでした」
「本日は、ドライブレコーダーのデータが復旧できましたので、そのデータをお持ちしました。心的なんちゃらの治療のためと言われていました」
「心的外傷後ストレス障害です」と糸井先生が言う。
「あぁ。それです」
「やっぱり、糸井先生が要望されたのですね」
「佐藤さんには、事前に警察や医療機関等への情報提供の許可はいただいていましたが、よろしいですか?」
「はい」
「ここでお見せするのはいいのですが、事故の映像ですので、少々ショッキングです。佐藤さんは見ない方がよろしいかと…」
「見せてください」
「わかりました」
会議室のテレビに表示される映像を見ると、反対車線から突っ込んでくる車がはっきり映っている。
これは、避けようがない。
音が無いのでリアリティ感が少ない。
ん? 録音機能はあったと思うけど…
「ハンドルを操作して車は左を向いています。これは、対向車を避ける動作です。そのため、横からの衝撃となり、車が横転しました。ご主人の運転には全く問題がありません。 …大丈夫ですか?」と警察の人が聞いてくる。
「大丈夫です。あのう、録音されていると思いますが、音声は復旧できなかったのですか?」
「録音データもあります」
「全部いただけますか?」
「はい」




