アメリカ生活の準備 その2
Union Bank of Californiaの支店の扉を開けると、窓口の女性が声をかけてきた。
『愛、今日はどうしたの?』
『彼の口座を作りたいの』
ネイティブ間の会話は速い…
『愛がつれて来るんだから、社員よね? 未成年に見えるけど』
『未成年じゃないはずよ。長谷川さん、年齢を教えて』
『26です』
『26!? 愛、彼は26って言ったわよね? アジア人は若く見えるわね』
『そうね… それより、書類の準備をして』
『わかったわ』
愛さんは俺に向かって、「長谷川さん、入社何年目?」と聞いた。
「入社3年目です」
「3年目!? 3年目で赴任? 若いとは聞いていたけど、これほどとは思わなかったわ」
「上から順に赴任を打診して、最後が私だったのです。バブルが崩壊して新入社員はほぼ取らなくなったので、うちの部署には配属がないです」
「でも、能力がないと打診もしないでしょ?」
「大学では研究室のコンピュータの管理者をしていたので、インターネットはそれなりに知っていたからですかね」
「インターネット?」
「コンピュータの通信ですね」
「あっ! 私、CompuServeからAOLに乗り換えたいから、相談するわ」
「AOLってAmerica Onlineですか… パソコン通信はしないのですが…」
『愛? いいかな?』と、記載用紙を指でトントンと叩く。
「長谷川さん、これに記載して」
俺は、書類に記載したが、住所は決まっていないし、書けないところだらけだ。
これでいいのか?と思っていたが、会社が保証するからOKらしい。
シンプルな小切手帳はタダだけど、ディズニーなんかの柄が入っているのは有料らしい。
俺は、シンプルを選ぶと、小切手帳の束を渡された。
使いきれないぐらいある…
金額を書いて、サインして渡せばいいだけかもしれないけど、安全なのか?
「時間があるわね。アパートに寄るわよ」
「わかりました」
車に乗り込むと、芝生の上にPromenadeと看板がある場所で、停まった。
「まずはここね。アパートの値段が毎年10%ほど上がっているのよねぇ。部屋はあるかなぁ…」と愛さんは呟きながら、平家の建物に入った。
そこには、スーツを着た女性がPCで仕事をしていたが、こちらを向いて『ご用件は』と言う。
『Hi! 彼が住む1ベットルームを探しているの』
彼女は俺を見た。
『このファイルに記載してください』
不合格ではないらしい。
俺は、名前を記載するが、年収で手が止まる。
それを見た愛さんが、「だいたいでいいです」と教えてくれるので、記載してスーツの女性に渡すと、顔を顰める。
『この年収じゃ住めないですよ』
確かに、俺の年収は少ないが、直接言われるとちょっと凹むなぁ。
『会社がアパート代を出すので、問題ないです』
『あなたと彼の関係は?』
『私は彼のsecretaryです。』
secretaryって、秘書!? そんなわけないけど…
『わかりました。案内します』
俺たちはスーツの人に案内される。
植栽が植えられた小道を進むと、3階建の建物が何限が見える。
『あの建物がランドリーで、三ヶ所あります』と離れのような小さな建物を指す。
『駐車スペースは地下です。カードキーをかざすとゲートが開きます。建物の外の駐車場はゲスト用です』
そう言われれば、建物の周りの駐車場には車が停まっていない。
そして、3階建ての建物の階段を登り始め、3階まで上がる。
『1ベットルームで空いているのはこの部屋です」と言いながらドアを開ける。
床はカーペットが敷き詰められているが、少し汚れている。
俺が、カーペットを見ているのに気づいたスーツの女性は『クリーニングが終了していません。カーペットは取り替えます。セキュリティデポジットは1ヶ月分です。退出時のカーペットの交換は必須ですので、最低500ドルはかかります』
500ドルって、7万弱か… 高いねぇ。
『ガスのコンロとオーブン、これが食洗機、冷蔵庫』と言いながら、設備を説明する。
オーブンデカ! 冷蔵庫もデカ! これが、1人用?
『こちらが、バス、トイレ、そして、ベットルームで、これが小さいですがクローゼット』
ベッドルームの壁一面がすべてガラス扉でそれがクローゼットだった。小さくない。
『このスイッチを左に回せば、ヒーターで、逆に回せばクーラーです』と言いながら、リビングの縦型のブラインドを開け、窓を開けてベランダに出る。
『毎月1300ドル、退去通知は2ヶ月前ならペナルティなしです。2ヶ月未満の退去通知の場合、2ヶ月分を払ってもらいますが、2ヶ月の間に次の居住者が見つかった場合は日割りでお返します』と言っているような気がするけど、会話が速すぎる。
1300ドルって… 17万!? 確かに、俺の年収じゃ住めない。
値段を聞いて愛さんは驚いていないのは、ここの相場なのかな?
費用は会社持ちだから、俺が決めるわけにはいかないので、愛さんを見ると、「許容範囲内です」と呟く。
『質問はありますか?』
ゴミ! どこに捨てる? ゴミってダスト?
『ダストボックスはどこですか?』
『ダストボックス?』
「ホコリ?」
「そっか。ダストだとホコリですね。ゴミです。ゴミをどうやって捨てればいいのですか?」
「ガーベージね」
「あっ。ガーベージコレクションのガーベージ…」
「ゴミのコレクション!?」
「コンピュータ用語ですので、気にしないで…」
日本語で喋っていても、ガーベージコレクションという言葉は通じたみたいで、スーツの女性に変な目で見られた
アパートには高さが1.5メートル、幅が3メートルぐらいの巨大な鉄の箱があり、そこに何でも捨てていいそうだ…
分別なんて言葉はない…
契約の明言は避けて、退出する。
愛さんにレンタカー屋さんまで送ってもらったら、「明日はSun社に行きますよね? 夕方に会社に寄ってください。あっ。社員証! これで入ってください」と社員証を渡されたので、社員証をカバンに入れている間に愛さんの車は出て行った…
レンタカー屋はいいんだけど、場所がわからん!
96年当時のアメリカの状況で、現在とは違います。




