閑話:会議録
私が長谷川さんにメッセージを送ろうと、入力を始める。
「佐藤さん、電話でお願いします。私も話がしたいので、できればスピーカーで…」
「わかりました」
私は長谷川さんに電話した。
「もしもし、佐藤建築事務所の佐藤です。長谷川様でしょうか?」
「はい。どうしました?」
「今、病院にいて隣に糸井先生がいます」
「糸井です」
「こんにちは」
「佐藤建築事務所で長谷川さんとの会議は録音していたのをご存知ですよね?」
「はい」
「その音声データを糸井先生に開示したいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい。問題ないです」
「ありがとうございます」
「長谷川さん、こちらでデータを解析してその結果で、質問が発生するかと思います。近々、こちらにいらっしゃいますか?」
「近々というか、今日の15:00から検査です」
あと、30分後!?
「では、検査が終わったら、佐藤様の病室に来ていただけないでしょうか?」
「わかりました。伺います」
「ありがとうございます」
糸井先生を見ると、話は終了という雰囲気があったので、「失礼します」と言って電話を切った。
「佐藤さん、会議の文字起こしを私のメールアドレスに送っていただけますか?」
「わかりました」
私はiPhoneを操作して、糸井先生にメールする。
「送りました」
「…ありがとうございます。受け取りました」
糸井先生はタブレットを眺めているが、指は動いていない…
「10時間分以上あると思いますけど、長谷川さんが来るまでに読めるのでしょうか?」
「問題ないです」
勝手に文章が上に上がっている… 自動スクロール!? しかも速い! この速度で読めるの!? だったら映像より速いかも。
私はカバンからウェットティッシュを取り出し、遥翔が付けている機器に触らないように空いている部分で血がついているところを拭う。
早く起きて… 翔が待っているわよ。
すると、遥翔が何やら喋った。
聞き取れたのは「…ようかん…」だけだ。
洋館? 遥翔が作るのは和か洋かと言われると、洋だけど…
古風な洋館のテイストを入れた建築スタイルを変えるってこと?
「どうしたのですか? 長谷川さんご来られましたよ」と糸井先生が声をかけてきた。
「えっ? 遥翔が寝言を言ったので… 長谷川さん来ていただきありがとうございます」
「いいえ、問題ないです」
「佐藤さんは何と言いました?」
「あまり聞き取れませんでした。洋館と言っていたように聞こえました」
「『ようかん』ですか… 聞こえた部分の前後で判断しないと誤認する可能性がありますよ。前後に聞こえていない文字があるかもしれません」
「『ようかん』の前後?」
「例えば、海洋監視とかの可能性もあります」
「『かいようかんし』… あっ『ようかん』が含まれますね… でも、遥翔の仕事を考えたら洋館と思います」
「それは、西洋風の建築様式の洋館ですか?」
「そうです」
「あのう、和菓子の羊羹じゃないでしょうか?」
「あっ。その可能性もありますね」
「いえ、和菓子の羊羹で間違いないと思います」
「長谷川さん、どうしてそうお考えなのでしょうか?」
「糸井先生と佐藤さんにお渡しした健一の記録に羊羹の話が出てきます」
「私も最初に和菓子の羊羹を思い浮かべました。しかし、先ほど長谷川さんの旦那様が佐藤建築事務所での会議の文字起こしでは、長谷川さんの旦那様が書かれた記録の内容は出てきません」
糸井先生はすべて会議の文字起こしテキストを全部のこの短時間で読んだのね…
「そうなのですか… 私は健一が佐藤さんに話しているものと思っていました」
「はい。佐藤さんの寝言と長谷川さんの旦那様が書かれた記録の内容は非常に相関性が高いです。会議以外でお話しされた内容があるかもしれません」
「遥翔の性格上、ないと思います」と私は断言する。
「そう思う理由をお聞かせいただけますか?」
「遥翔は何気ない会話にお客様の要望のヒントがあると思っています。それを大切に思っているので、寝言に言うぐらいですから、とても重要なヒントだと思っているはずです」
「なるほど…」
「では、私たちがお願いしていた建築は洋風建築にしてくださるつもりだったのでしょうね」
「建築スケッチはなかったので、そう考えていたのかもしれません」
「長谷川さん、いただいたご主人の記録ですが、続きはないのでしょうか? アメリカ赴任の終わりまで書くと記載されていましたが、途中ですよね?」
「…はい。途中です。事故があったので…」
「事故? 差し支えなければ、教えていただけないでしょうか?」




