仕事開始
月曜日、Sun社のワークステーションにログインしてメールを開くと、日本から大量のメールが届いている…
内容はJavaの動作に関するものばかりだ。
Javaの振る舞いに関する質問、バグ修正依頼、速度改善などだ。
Java関連の問題はすべて送り付けられているような気がする。
会社に入って3年目の人間に何でも聞かないで欲しい。
俺は学生の時からUNIXの管理者をしていたし、情報系だったから入社したら2000万ほどのUNIXをすぐに与えられた。
しかし、他の部署は数人に1台のDOSのPCなんてところもあるらしい。
PCが目の前になくて、どうやって仕事をするんだと思ってしまう。
俺は、入社直後から、先輩と技術の話が同等でできた。
入社してしばらくすると、新たにJava言語が出てきた。
Javaは人気が出て大勢が一斉に勉強し始めたから、先輩や別の部署の人に教えることもあった。
社内の質問回答もよくやっていたから俺は社内では知られていた。
しかし、Sun社のメールは上司にしか教えていないのに、届いたメールの量はえぐい。
仕方がないので、メールをさばく。
Javaの振る舞いに関するものなんて、ググれ! ググる?… ググるってなんだ?
まぁいいや。
Usenetに英語で投稿すれば、誰か答えてくれると回答。
速度改善なんか、Javaのソースを見れなくてもできるだろうから、そっちで頑張れと回答。
もちろん、メールの文面はオブラートを2枚程度被せて回答している。
ということで、緊急度の高いものはバグ修正依頼から手をつける。
えっと、コードトレースするんだから、VSCodeを起動して… ない…
じゃ、eclipse… ない… あれ?
JBuilderはあるけど、よく落ちるし重いから却下。
emacsを起動して、デバッグする。
ブレークポイントを設定して動作をトレースするのが早いはずだが、デバッグモードで起動するとJavaがよく落ちる。落ちなくても速度は何倍も遅くなるので、ブレークポイントに到達するに10分以上かかる。
これじゃデバッグなんてできん!
しかたがないので、emacsにjtagsを入れてコードをトレースする。
jtagsを利用すると関数の定義にジャンプするのが簡単だ。
LinkdListにnullが入るじゃん。
しかも、LinkdListにいろんなオブジェクトを入れるな。genericsぐらい使えよ。ん? SunのJavaのコードもgenerics使ってない…
JavaがNull safeじゃないのがダメなんだよ!
Optionalとか使えよ!
JavaDocをWebで開いても、Optionalがない… genericsもない…
何でないんだ?
少し混乱したが、わかるものはサクッとメールを返す。
1時間追っかけても取れないものは関係がありそうなバグリストの内容をメールして終了とする。
すなわち、完全解決までは面倒をみない。
こうでもしないと、大量のメールをさばけない。
俺は黙々と調べては回答を繰り返していた。
すると、部屋のドアがノックされた。
振り返ると、作業員が立っていた。
メキシコ?訛りの英語で『ゴミを回収します。ホワイトボードは消しますか?』と言われた。
ふと、ホワイトボードを見ると、俺のTODOリストと消すなと書いてある。
あっ。日本語で消すなと書いても読めないか…
『ゴミだけでいいです』
俺は、消すなは英語に変え、作業を続けた。
すると、急に部屋の照明が暗くなった。
振り向くと、電気がついた。
俺のブースは人感センサ付きの照明だったようだ。
ディスプレイに目を戻すと、時間は20時だった。
優佳に電話できる時間が過ぎている…
俺は、優佳に「忙しくて電話できなかった。ゴメン。明日は電話する」とメールして帰った。
上司も誰もいないから帰る時間は自由だ。
次の日、会社の俺のブースに入ると、ホワイトボードのTODOが消えている…
はぁ。英語で消すなと書いたのに…
今回はかなり96年当時の技術の話がてんこ盛りです。
わからない単語が多いと思いますが...
Usenetは当時の世界最大の掲示板で、Webが流行る前はUsenetが情報交換の中心でした。
96年当時のJavaは出た直後で、文法がかなり違いました。




