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凛と一緒2

 応接室を出て、ホクホク顔で1階のフロントロビーへと戻ってきた時のことだ。

「あ! 結城さーん!」

「結城さん、おはようございます!」


 声をかけてきたのは、いつものコンビ、しずくと葵だった。

 二人は俺の元へ小走りで駆け寄ってくると、俺の背中にピッタリと隠れているキャスケット帽の少女を見て、目を丸くした。


「結城さん、その可愛い女の子は誰ですか? 親戚の子?」

「あー……」

 俺は頭を掻いた。


 威圧オーラがない状態の凛は、ただの「ちょっと人見知りな美少女」にしか見えない。

 下手に嘘をついて後でバレるのも面倒だ。


「実はな、昨日調査に行った『黒曜の森』のダンジョンで、記憶喪失になって倒れてた子なんだ。

身寄りがないみたいだから、俺が保護者として引き取ることになってさ。名前は『凛』っていうんだ」


「ええええええっ!?」

 しずくと葵が、揃ってロビーに響き渡るような大声を上げた。


「しーっ! お前ら声がデカい!」

「だ、だって! ダンジョンで拾った女の子と急に同居って……お話の世界の主人公みたいな展開じゃないですか!」


「結城さん、ロリコンだったんですか……? 軽蔑します」

 葵がジト目を向けてくる。


「ち、ちげーよ! 俺は純粋な善意と、ギルドからの依頼でだな……!」

「あはは、冗談ですよ。でも、結城さんらしいですね。放っておけなかったんでしょ?」


 しずくが優しく微笑み、凛と同じ目線になるようにしゃがみ込んだ。


「初めまして、凛ちゃん。私はしずく。こっちは葵ちゃんだよ。よろしくね」

「……しずく? あおい? ……よろしく」


 凛は俺のジャージを握ったまま、ペコリと小さく頭を下げた。

 その小動物のような仕草に、二人の女子は「かわいい〜!」と完全にメロメロになっている。


 女子同士、すぐに打ち解けそうだ。これ幸いと、俺は二人に『深刻な悩み』を相談することにした。


「なぁ、二人とも。ちょうどいいところに会った。実は俺、深刻な悩みを抱えててな……ちょっと助けてほしいんだが」


「悩みですか? ダンジョンの攻略とかですか?」

「いや……『下着』だ」

 俺の言葉に、二人の動きがピタリと止まった。


「……はい?」

「昨日、ドドンキでとりあえずの服は買ったんだけど……さすがに俺、三十路のおっさんが女の子用の下着コーナーで買い物する勇気がなくてさ……。

仕方なく、凛には今、俺が買った『男物のトランクス』を穿かせてるんだ」


「――――最低です」

 葵の目が、絶対零度の汚物を見るような目つきに変わった。


 しずくも「結城さん……それは流石に、女の子として可哀想すぎます……!」とドン引きしている。


「ち、違うんだ! だって通報されたら嫌だろ!? そこでだ、お前ら二人にお願いしたい。

俺が金は出すから、凛の……その、下着とか、女の子らしい服を一緒に選んでやってくれないか?」


 俺が両手を合わせて懇願すると、二人は顔を見合わせて大きく頷いた。

「分かりました! 凛ちゃんの尊厳は、私たちが守ります!」


「行きましょう、凛ちゃん! 結城さんのセンス(ドドンキ)じゃなくて、もっと可愛くて綺麗なお店に連れて行ってあげますからね!」


「わぁい! おでかけ!」

 こうして俺は、年下の女子二人に引率される形で、新宿の街へと繰り出すことになった。


 ◆


 しずくと葵が案内したのは、新宿の大型デパートに入っている、若者向けの高級アパレル・ランジェリー専門店だった。


 白とピンクを基調とした店内。キラキラとした照明。漂う甘い香水と柔軟剤の匂い。

「お、俺は外で待ってるから……」


「ダメですよ結城さん! お金払う係なんですから、ちゃんと『待機スペース』に座っててください!」


 葵に背中を押され、俺は店内の一角にある小さなソファに押し込まれた。


 ……地獄である。

 周囲は、彼女の買い物に付き合わされているオシャレなイケメン彼氏たちばかり。


 そんな中に、1980円の紺色ジャージを着た、猫背で無精髭の三十五歳のおっさんがポツンと座っているのだ。

(トラ子……俺、隠れてていいか?)


『却下します。不審者度が跳ね上がるだけです。マスター、ここは「愛娘の成長を優しく見守る父親」の顔をして耐え忍んでください』

(父親って年でもないだろ! …父親って歳か、ウン)


 俺が羞恥心で冷や汗を流しながら待つこと数十分。

「結城さーん! お待たせしました!」

 試着室から出てきた凛を見て、俺は思わず息を呑んだ。


 ダボダボのパーカー姿から一変。

 淡いブルーのワンピースに、白いカーディガン。

 角を隠す帽子も、オシャレなベレー帽に変えられている。

 真っ白な髪と赤い瞳が、まるでおとぎ話のお姫様のように綺麗に映えていた。


「どうですか、結城さん! 私たちのコーディネート!」

「おじさん、これ、かわいい?」

 凛が嬉しそうにスカートの裾をつまんでクルリと回る。


「お、おう……。すごいな、見違えたよ。すっげえ可愛いぞ」

「えへへー!」

 俺が素直に褒めると、凛は顔を真っ赤にして照れ笑いした。


 結局、服数着と下着一式で、俺の財布から『7万円』が飛んでいった。

 ドドンキ基準で生きてきた俺には目玉が飛び出る金額だったが、ギルドからの臨時収入もあるし、何より凛が嬉しそうなので良しとしよう。


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