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捕食者vsジャージの男2


「たべるッッ!!」

 少女は俺の胸に抱きついた瞬間、大きく口を開け、俺の首筋(ジャージの襟元)に全力でその牙を突き立てた。

 ――ガキィンッ!!!!!!


「――――あ、ぎゃっ!?」

 森中に、分厚い鉄板に杭打ち機を叩きつけたかのような、凄まじい金属の破断音が響き渡った。

 俺の首筋に全力で噛み付いた少女が、バキッという嫌な音と共に後ろにのけぞり、地面をゴロゴロと転げ回った。


「いっ、いたぁぁぁいっ!! なにこれ、かたいっ! 歯が、わたしの歯がぁぁっ!!」

 少女は口を押さえて、ポロポロと大粒の涙を流している。


 俺の皮膚は、アダマンタイトより硬い。

 少女の絶対捕食者の牙は、俺の皮膚を1ミリたりとも傷つけることなく、無惨に跳ね返されてしまったのである。


「お、おいおい、大丈夫か!? いきなり人に噛み付くからそんな風に歯を打つんだぞ!もしかして 虫歯か?」

 俺は慌ててしゃがみ込み、少女の背中をさすってやった。


「うぅ……っ、うわぁぁぁん! お腹空いたよぉ……! なんでたべられないのぉぉっ!」

 少女はついに、子供のようにワンワンと泣き出してしまった。


 完全に戦意(食欲)を喪失し、ただ飢えと痛みに泣き叫ぶその姿は、ダンジョンの生態系を崩壊させた恐るべきバケモノには到底見えなかった。


『……マスターの規格外の硬さが、対象の捕食本能を完全にへし折ったようです。

圧倒的な暴力の差による、ある意味で最も平和的な解決方法ですね』

(トラ子、なんかこいつ可哀想なんだけど。よっぽどお腹空いてたんだな)


 俺はドドンキの袋をごそごそと漁った。

 中から取り出したのは、今朝、ダンジョンに行く前にコンビニで買っておいた『特盛・唐揚げ&ハンバーグ弁当(タルタルソース付き)』だ。本当は調査が終わった後に俺の昼飯にするつもりだったのだが、背に腹は代えられない。


「ほら、お嬢ちゃん。お腹空いてるなら、俺の弁当食うか?」

 俺は弁当の蓋を開け、割り箸を割って、少女の目の前に差し出した。


 コンビニ弁当特有の、ジャンクで暴力的なタルタルとソースの匂いがフワッと広がる。


「……え?」

 少女が泣き止み、鼻をピクピクと動かした。

 魔物の肉の泥水のような味。冒険者の血肉の濃厚な魔力の味。


 そのどちらとも違う、複雑なスパイスと化学調味料、そして人間が作り出した『圧倒的な旨味の暴力』が、少女の嗅覚を強烈に刺激した。


「これ……たべもの……?」

「ああ。唐揚げっていうんだ。美味いぞ」

 俺が唐揚げを一つ箸で摘んで口元に持っていくと、少女は恐る恐るパクッとそれに食らいついた。


 ――サクッ、ジュワァァァ……。

 少女の赤い瞳が、限界まで見開かれた。

 衣のサクサクとした食感。

 溢れ出す鶏肉の肉汁。ニンニクと醤油の香ばしい風味。

 そして、濃厚なタルタルソースの酸味とコク。


「――――ッ!!!!??」

 美味い。

 美味すぎる。

 なんだこれは。今まで食べてきた魔物の肉や、さっき食べた冒険者の味が、一瞬にして『生ゴミ』に思えるほどの、圧倒的な美味しさ。


 脳内物質がドバドバと分泌され、少女の味覚が完全に破壊(上書き)された。

「おい、美味ひい……っ! なにこれ、おいしいっっ!!」


 少女はひったくるように俺から弁当箱を奪い取ると、手づかみで唐揚げやハンバーグ、そして白米を口の中に物凄い勢いで詰め込み始めた。


「こらこら、慌てて食うと喉に詰まるぞ。お茶もあるからな」

 俺は苦笑いしながら、ペットボトルの麦茶のキャップを開けて彼女に渡してやった。


 少女は「んぐっ、んぐっ!」と麦茶で流し込みながら、あっという間に特盛弁当を完食してしまった。


「ぷはぁ……っ!」

 少女は口の周りを弁当のソースでべちゃべちゃにしながら、ふぅっと大きなため息をつき、ポッコリと膨らんだお腹をさすって幸せそうに笑った。


 飢餓感。

 あんなに彼女を苦しめていた、胃袋の底に空いた虚無の穴が、コンビニの唐揚げ弁当の圧倒的なカロリーによって、完全に満たされていたのだ。


「……おじさん。これ、すっごく美味しかった。わたし、こんな美味しいの、初めてたべた」

 少女が、尊敬と親愛の情を込めたキラキラとした瞳で俺を見上げてくる。


 先ほどまでの絶対捕食者の狂気は完全に消え失せ、そこにはただのご飯を奢ってくれた近所の優しいおじさんによくなつく子供がいた。


「そうかそうか。まあ、俺も妹がいるからな、お腹空かせてる子供を見ると放っておけなくてさ」


 俺が彼女の白い髪をポンポンと撫でてやると、少女は「えへへ」と嬉しそうに目を細め、俺のジャージの袖をギュッと握りしめた。


「おじさん、もっと美味しいの持ってる?」

「ん? 今はもうないけど、街に戻ればもっと美味いもんがいっぱいあるぞ。……そうだ、君、名前は?」


「なまえ……? わかんない。おぼえてないの」

「そっか。迷子で記憶喪失ってやつか。なら、とりあえず俺と一緒にギルドに行くか? ご飯も食べさせてやるし、お家を探すのも手伝ってやるよ」


「うんっ! いく!」

 少女は迷うことなく、満面の笑みで頷いた。


(こいつ……さっきまで人食ってたバケモノだってのに、すっかり普通の子供みたいな顔しやがって……)


 俺は、袖を握ってくる少女を見下ろしながら、重い息を吐き出した。

トラ子の言う通り、こいつが冒険者を喰った元凶なのは間違いない。

 今ここで俺が首をへし折って討伐すれば、依頼は完了だ。


 だが……。

(こいつ自身が、ダンジョンの異常発生によって生まれた『エラー』だとしたら? ここでこいつだけを殺しても、また第二、第三の同じようなバケモノが生まれる可能性がある)


 ギルドの裏方として様々な異常事態のデータを見てきた勘が告げる。

 これは、単なる魔物討伐で終わらせていい案件じゃない。


「トラ子、こいつを俺の『監視下』に置く。

万が一こいつが少しでも人間に牙を剥きそうになったら、その時は――俺が確実に処理する」


『……マスター。了解しました。監視のサポートを実行します』

こうして俺は、行方不明事件の『元凶』である人食いの少女を、自らの監視下に置くという重い十字架を背負ってダンジョンの出口へ向かって歩き出した。


 ――この時、俺はまだ気づいていなかった。

 この『名前のない異形の少女』をギルドに連れ帰ったことで、ギルドがどれほどのパニックに陥るかということを。


 そして、彼女が居候としてボロアパートに住み着き、俺のエンゲル係数を爆発的に跳ね上げる原因になるということを。

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知性が低いを通り越してただのバカキャラになって来てて辛い。 事務を長年勤めさまざまな報告書や事務処理の知識は覚えている知力はあるのはテストから確定しているのに各所で全く生かせないバカなど都合が良い。序…
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