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ランク昇格試験4


 ギルド本部の外に出ると、夕日が眩しかった。

 入り口の広場で、しずくと葵がすでに待っていた。


「あ! 結城さん、お疲れ様です!」

「お疲れ様。……結城さん、なんかすごい音聞こえましたけど、無事でしたか?」


 二人が駆け寄ってくる。

「おう、なんとか生きてるよ。そっちのEランク試験はどうだった?」


「筆記はバッチリです! 実技も、二人で協力してゴブリンを倒せたので、多分合格してると思います!」


「結城さんは? Dランクの試験、難しかったんじゃないですか?」

 葵が少し心配そうに見上げてくる。


「筆記は前職の事務の仕事と一緒だったから良い線行ってると思うぞ。

実技は……ま、まあ、生き残るっていう条件はクリアしたはずだ」


「…もしかしてまた何かやらかしたんですか?」

 葵のジト目を笑って誤魔化し、俺たちは「結果発表が楽しみだな」と言い合いながら、その日は解散した。


 ◆


 そして、2日後。

 ギルド新宿本部のロビーは、昇格試験の結果発表で賑わっていた。


「結城さん! やりました、私たちEランクに昇格です!!」

 しずくと葵が、真新しい緑色のEランクギルドカードを握りしめ、嬉しそうに飛び跳ねている。


「おめでとう! これで受けられるクエストの幅も広がるな!」

「はいっ! 結城さんの結果はどうでしたか? 受付でカード、もらってきました?」


「おう、今さっき急いで受け取ってきたところだ」

 俺は、ドドンキの袋から、封筒に入った真新しいギルドカードを取り出した。

 封筒を開け、中からカードを引き抜く。


「どれどれ、俺も無事にDランクに……ん?」

 俺の動きが、ピタリと止まった。

 カードの色が、おかしい。

 Dランクなら青色のはずだが、俺の手に握られているカードは、鈍く光る『銀色』だった。


「……結城さん? どうしたんですか?」

「いや、なんか……色が違うような……」

 俺は恐る恐る、カードの表面の印字を読み上げた。


【冒険者:結城誠】

【ランク:C】

「…………は?」

 俺の口から、間抜けな声が漏れた。

「ええええええっ!?

Cランク!? 結城さん、Dランクの試験を受けたのに、なんでCランクになってるんですか!?」


「いや俺が聞きたいよ!!」

 パニックになる俺たちの前に、受付嬢の雨宮さんが小走りで駆け寄ってきた。


「あ、結城様! 新しいギルドカードのご確認はお済みですか?」

「雨宮さん! これ、印字ミスですよね!? 俺、Dランクの試験を受けたはずなのに、Cになってるんですけど!」


 俺がカードを突きつけると、雨宮さんは「ふふっ」と微笑んだ。


「印字ミスではありませんよ! 結城様は今回の昇格試験において、筆記試験は驚異の『100点満点』。

さらに実技試験では、あのAランクの剛堂教官を素手で受け止めて大剣を粉砕し、反動で気絶させるという、圧倒的な戦闘能力を証明されました!」


「いや、あれは試験官の剣がボロくて勝手に折れただけで……!」


「剛堂教官の報告書には『完敗だ。俺の渾身の技を無防備な腕一本で防がれた。あの男の底は全く見えない』と書かれていましたよ!」


 あの脳筋教官、自分の剣の手入れ不足を認めたくなくて、俺のせいにして美化しやがったな!?


「そのため、特例中の特例として、ギルドマスターの権限により『Dランクすら飛び級してCランクへの昇格』が決定いたしました! おめでとうございます、結城様! 登録からわずかな期間でCランク到達は、新宿支部でも最速記録です!」


 パチパチパチパチ! と、雨宮さんが拍手をする。

 周囲の冒険者たちが「マジかよ、あのおっさんCランクかよ」「すげえバケモノじゃねえか」と驚愕の眼差しを向けてくる。


 しずくは「結城さん、かっこいいですー!」と目を輝かせ、葵は「……やっぱり、ドジを演じてただけじゃないですか」と呆れたようにため息をついている。


「…………」

 俺は、銀色に輝くCランクのカードを見つめながら、静かに、そして深く絶望していた。


 Cランク。

 それはもはや「初心者」や「中堅の入り口」ではない。

 ギルドから名指しで危険な魔物の討伐依頼(指名手配クエスト)が回ってきたり、防衛戦の際に強制召集されたりする、ガチの『主力級』の扱いだ。


 平和で安全な、スライムやヒカリゴケを追いかけるだけの悠々自適な冒険者ライフは、この瞬間に完全に崩れ去ったのである。


「解せん……」

 俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「俺はただ、のんびりとお金を稼いで、美桜にすき焼きを食べさせたかっただけなのに……! なんでこんな、目立つポジションに押し上げられてるんだよォォ……!」


『おめでとうございます、マスター! これで報酬の単価も跳ね上がりますね!』


『猿芝居が、結果的に「実力を隠す不気味な強者」という評価に直結してしまいましたね。因果応報です』


 能天気にはしゃぐエク子たちの声を聞きながら、俺は銀色のカードを黄色いドドンキの袋の奥深くに封印した。


 平和なFランクおじさんの日常は、終わりを告げた。

 これからは、Cランク冒険者『結城誠』として、より面倒くさく、より厄介なトラブルに巻き込まれる日々が幕を開けることになるのだった。


(いやでも、蒼竜のアイテム売るならアリなのか…?)

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