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ランク昇格試験2


「これより、Dランク昇格試験の『筆記試験』を開始する! 制限時間は60分。合格ラインは70点だ。……始め!」


 剛堂の合図と共に、一斉にペンの音が響き始める。

 俺も慌てて裏返されていた問題用紙を表に返した。

(クソッ……Dランクの筆記試験なんて、Eランクのドリルしかやってない俺に解けるわけが……)


 冷や汗を流しながら、俺は問題文の1問目に目を通した。


『問題1:Fランクの後輩を引率中、パーティの盾役が【猛毒】を受けた。手持ちの解毒薬は一つのみ。ギルドの生存マニュアルが推奨する「トリアージ(優先治療)の判断基準」と、その後の正しい「撤退陣形」を図示して説明せよ。』


「…………は?」

 俺は目を瞬かせた。

 次の問題を見る。


『問題2:火山系ダンジョンにて「爆炎岩」を採掘する際、素材の買取価格が暴落する【禁止された3つの採掘方法】と、納品前に必須となる【冷却手順】を記せ。』


「………」

『問題3:遭遇を避けるべき上位魔物(Cランク以上)と鉢合わせた場合、ギルドが規定する『デコイを用いた三段階の離脱手順』を、使用すべきアイテム名を含めて答えよ。』


 ――えっ?

 何これ。魔物の倒し方とか、弱点属性の話じゃないの?


『マスター。Dランクからは「一人前の冒険者」として、下位ランクの引率や、ダンジョン内での危機管理能力が求められます。

そのため、ただ魔物を倒すだけでなく、パーティーを全滅させないための生存戦術や、素材の正しい取り扱い知識が問われるのです』


『マスター…Dランクからは「一人前の冒険者」として、下位ランクの引率や、ダンジョン内での正確な状況報告が求められます。

そのため、ただの戦闘知識ではなく、パーティの管理能力、正確な書類作成能力、そして報酬の税務処理といったギルドの事務的なルールへの理解度が問われる様です』


 脳内でトラ子が解説してくれる。

「え、そうかのか?というかなんで分かるんだ?」

『案内の要旨に書いてありましたよ…』


「現場のリアルな判断力とマニュアルの熟知」が問われるのだ。

だからこそ、腕は立つのに頭が筋肉でできている冒険者たちがこの筆記試験で涙を呑んでいるのである。


(これ……)

 俺は、震える手でペンを握り直した。


 (俺が、ギルド支部で毎日毎日、アホみたいに処理させられてた『失敗報告書』や『素材の買取査定』の知識そのまんまじゃねえか……ッ!!)


 トリアージと撤退陣形? 「盾役を見捨てて全滅したバカなパーティの死亡報告書」を何百枚も処理した俺が間違えるわけないだろ!

 マニュアルの3ページ目に太字で書いてあるわ!


 爆炎岩の禁止採掘法?

 叩き割って価値をゼロにした冒険者に「買い取れません」って宣告して、窓口で何十回も泣かれたから冷却手順まで完璧に頭に入ってるぞ!


 囮を用いた離脱手順? 新人研修の時に教官相手にドヤ顔で答えたやつだ!

 知力20? 関係ない! これは『筋肉(手が覚えている社畜の実務経験)』だ!!


 カキカキカキカキカキカキッ!!!

 俺のペンが、異常な速度で解答用紙の上を滑り始めた。


 周囲の猛者たちが「うーん……トリアージってなんだけ……? 気合で治すんじゃダメなのか……?」


 「爆炎岩……とりあえず水ぶっかければいいだろ……?」と頭を抱えて唸る中、俺の周囲だけが、まるで期末テストで学年トップのガリ勉が爆走しているかのような凄まじい筆記音に包まれた。


「……な、なんだあのFランクの男は……」

 教壇から見下ろしていた試験官の剛堂が、俺の迷いのないペンの動きに目を見開く。


 開始からわずか15分後。

「終わりました。提出します」

 俺は誰よりも早く席を立ち、解答用紙を剛堂の教卓に叩きつけた。


「なっ……! この難問をすべて解き終えたというのか……!?」

「余裕ッスね。……じゃ、俺、実技試験の会場で待ってますんで」


 俺はフッと鼻で笑い、静まり返る教室を後にして、優雅に退出した。

 元・ギルド事務員の意地を見せつけてやったぜ。


 ◆


 数十分後。

 第5訓練棟の地下闘技場。

 筆記試験を終え、実技試験の会場へと移動してきた受験者たちは、みな顔面を蒼白にしていた。


 筆記で半分以上が脱落し、残ったのは俺を含めてわずか十名程度。

 彼らの前に、大剣を背負った剛堂が立ち塞がっていた。


「これより、実技試験を開始する。内容は……試験官との一対一の模擬戦だ」

 その言葉に、受験者たちが息を呑む。


「安心しろ。他の者たちは、別室でBランクの教官たちが相手をする。実力差を考慮し、3分間生き残れば合格というルールだ。……だが」


 剛堂は、鋭い眼光をギョロリと動かし、集団の一番後ろで欠伸をしていた俺を指差した。

「結城誠。お前の相手は……この俺が直接務める」

「……えっ?」


 俺の欠伸が止まった。

「他の奴らはBランク教官が相手なのに、俺だけAランクのアンタなんですか?」


「口を慎め。お前はFランクからの特別飛び級推薦だ。ギルド本部から直々に、お前の『本当の実力』を測るよう仰せつかっている」


 剛堂が、獰猛な笑みを浮かべて背中の大剣を抜き放った。

「筆記試験では見事な事務知識を見せたようだが、冒険者の本質は『暴力』だ。俺は新人だろうがFランクだろうが一切手加減はしない。……せいぜい、死なないように足掻いてみせろ」


『マスター。あの教官、完全にマスターを潰す気満々ですよ』

(クソッ……ギルド本部の野郎、飛び級の推薦状といい、俺の力を探るためにこんな面倒な教官をぶつけてきやがったのか!)


 周囲の受験生たちが「あいつ終わったな」「剛堂教官の模擬戦の合格率は1%未満だぞ」と哀れみの視線を向けてくる。


「さあ、前に出ろ、結城誠! お前の底力、俺の剣で暴き出してやる!!」

 闘技場の中央で、Aランクの凄まじい闘気を放つ大男。


 俺は大きなため息をつきながら、黄色いドドンキの袋を隅に置き、ジャージの袖をまくった。

「……仕方ねえ。お手柔らかに頼みますよ、教官殿」


 かくして。

 不本意ながらも、Dランクへの昇格を賭けた、最悪の試験官との模擬戦の火蓋が切って落とされたのである。


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