表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【存在強奪】 ~やけくそでダンジョンに素手特攻したら、存在もスキルもステータスも奪える能力に目覚めました~  作者: 仁科異邦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/246

丸腰、死闘


「……この場で中身を確認させてもらうぞ」

 まどかから受け取った封筒を、俺は事務所から出る前にその場で開封した。


 中に入っていたのは、一枚のリストだった。

 そこには三種類の魔物と、特定の部位が記されていた。


『鉄裂き熊の剛胆胆ごうたんたん

『猛毒タランチュラの麻痺毒腺』

装甲百足そうこうむかでの魔力核』


「いずれもCランクに相当する強力な魔物のレアドロップね」

 まどかが冷たい声で解説を補足する。


「通常のドロップ率はどれも一桁パーセント以下。

ベテランのCランクパーティーが連日潜って、一ヶ月で一つ手に入るかどうかの希少素材よ。

……もちろん、手に入れてくればギルドのような不当なピンハネはしない。

正規の市場価格、しめて『三百万円』で買い取らせてもらうわ」


「三百万……?!」

 思わず声が漏れた。

 三万で買い叩かれたあの屈辱を思えば、破格の、いや、これが本来の正当な対価だ。


 この女は、俺の足元を見てタダ働きさせるような真似はしない。

 実績には金で報いるという裏社会のドライな誠実さがあった。


「期限は一週間。もし命が惜しくなったなら、そのまま逃げても構わないわよ。ジャージのおじさん?」


「……三日後、またここに来る」

 それだけ言い残し、俺は黒犬の事務所を後にした。



「マスター! Cランク魔物の三連戦なんて、今のステータスじゃ自殺行為ですよ!」


 再び不法侵入した中級ダンジョン『第12エリア』の地下階層。

 松明の灯りもない薄暗い迷宮を歩く俺の肩で、エク子がホログラムの腕をバタバタと振って抗議していた。


「わかってる。だが、三日もかける気はない。今日、今から三体すべて狩る」

「えええっ!? ドロップ率が一桁のレア素材を三種類も集めるなんて、いくらなんでも確率的に……あ!」


「そうだ。俺にはお前がくれた【存在強奪】の『初回ボーナス』がある」


 初めてその種族の概念を強奪した際、ドロップアイテムが100%確定で全種類手に入る例外システム。

 つまり、俺は目当ての魔物を『一匹ずつ』倒すだけで、この理不尽な依頼を確実にクリアできるのだ。


「なるほど! 他の冒険者が何百匹も狩ってようやく手に入れる素材を、マスターなら最短の三殺で終わらせられるんですね!」


「そういうことだ。……来たぞ」

 俺が足を止めた直後、前方の暗がりから巨体がヌッと現れた。


 リストの一つ目。

 全身を鋼のような硬い毛で覆い、両手には金属すら引き裂く爪を持つ『鉄裂き熊』だ。


『グルルォォォォッ!!』

 熊が咆哮と共に、丸太のような腕を振り下ろしてきた。

 ジャージ姿で盾を持たない俺にとって、防ぐという選択肢はない。回避一択だ。


「甘いっ!」

 強奪したステータスでギリギリ躱し、懐へ飛び込んで顎へアッパーを放つ。

 ゴツンッ! と岩を殴ったような衝撃が右腕に走った。


「硬っ……!」

『ガアッ!!』

 熊が痛みに激昂し、反射的に裏拳を放ってきた。

 躱しきれず、鋭い爪が俺の左腕を掠める。ジャージの袖が紙切れのように裂け、肉が浅く抉られて鮮血が舞う。


「くそっ!」

「マスター! 無理しないでください! 相手はCランクの凶悪な猛獣です!」


 痛みに顔をしかめるが、すぐに【自己再生 Lv1】が発動し、傷口がジリジリと熱を帯びて止血されていく。

だが、完治には時間がかかる。これ以上の被弾は命取りだった。


「なら……硬い毛皮の上からじゃなく、内部を破壊する!」

 俺は熊の次撃をかいくぐり、相手の巨体に密着する。


 両手で熊の首の皮を掴み、全身の【筋力】を総動員して、強引に頭部を捻り上げた。


『ギャ、ガァァッ!?』

 もがく鉄裂き熊、それに振り落とされない様にしがみつく。

「そのまま……折れろぉぉっ!!」

 そして、ついにその時が来た。

 バキィィィンッ!!


 鈍い骨の砕ける音が響き、鉄裂き熊は白目を剥いて巨体を沈めた。


『――条件達成。【存在強奪】が発動します』

 熊の存在がノイズとなって消え、傷ついた俺の左腕が瞬時に完治する。


 そして目当ての【鉄裂き熊の剛胆胆】がドロップしていた。

「ふぅ……一匹目、完了だ」


「ステータスも上がってますよ! さすがCランク、上昇値もエグいです!」

 休む間もなく、俺はダンジョンのさらに奥へと進んだ。


 二匹目は『猛毒タランチュラ』。

 牛ほどもある巨大な蜘蛛が、天井から音もなく強酸の毒液を吐き出してきた。


「おっと!」

 ジュワァァァッ!

 間一髪で避けた石畳が、毒でドロドロに溶けていく。もしジャージに一滴でもつけば、そのまま皮膚まで貫通するだろう。


「マスター、あいつは遠距離から毒と糸で削ってくる嫌らしいタイプです! 素手だと攻撃を弾けませんよ!」


「なら、弾かずに避けて、捕まえるだけだ!」

 俺は縦横無尽に走り回り、飛び交う糸と毒液を掻いくぐって跳躍した。


「これで終わりだ!!」

 タランチュラの頭上に張り付き、その八つの目玉のど真ん中に、全体重を乗せた踵落としを脳天へ叩き込む。


『ギシャァァァァッ!?』

 緑色の体液をぶち撒けながら、巨大蜘蛛が床に叩きつけられ、その『存在』が強奪と共に消去された。


 二つ目の依頼品、【猛毒タランチュラの麻痺毒腺】を確定ドロップでゲットする。


「……はぁ、はぁ……」

「マ、マスター、大丈夫ですか!? 息が上がってますよ!」

「連戦と、素手での力技は……さすがに堪えるな」


 装備さえあれば、剣で斬り伏せたり盾で毒を防いだりできる。

 丸腰での死闘は、常に死と隣り合わせの緊張感を強いられ、精神的な疲労が尋常ではなかった。


 だが、残るはあと一匹。

 最下層に近い広間。そこに、最後の標的である『装甲百足』がいた。


 全長五メートル。全身が黒光りする鋼鉄の甲殻で覆われた、不気味な多足の魔物だ。


『カチカチカチカチッ!』

 百足が巨大な顎を鳴らし、地を這うようなスピードで突進してくる。

「マスター、あいつの装甲はCランクの剣士でも刃が立たないほど硬いです! 今のマスターの拳でも、殴ればこっちの骨が砕けます!」


「知ってるさ……っ!」

 俺は迫り来る顎を紙一重でスライディングして避け、百足の腹の下へと潜り込んだ。


 しかし、腹側も分厚い装甲で覆われている。

「硬いなら……装甲の隙間を狙うまでだ!」

 俺は百足の節と節の間、わずかに装甲が薄くなっている関節部分に、両手の指先を力任せに突き立てた。


『ギチィィィィッ!?』

 百足が激痛に悶え、長い身体をくねらせて俺を押し潰そうとする。


 何トンもの質量が俺の全身を圧迫し、ジャージの下の骨が悲鳴を上げた。

 口の中に鉄の味が広がる。


「ぐっ……おおおおおっ!!」

 俺は【筋力】と【耐久】のすべてを腕に集中させ、装甲の隙間にねじ込んだ指で、百足の内部にある『魔力核』を直接探り当てた。


 そして、肉を引き裂きながら、強引にそれを引きずり出す。

 ブチブチブチッ!!


『キィィィィィ――……』

 魔力の源である核を素手で引っこ抜かれた装甲百足は、そのまま痙攣して活動を停止した。

『――条件達成。【存在強奪】が発動します』


 三度目のシステム音が響き、巨大な百足の死骸が砂嵐になって消滅した。

 極限の疲労と全身の打撲が、強奪したステータスと共に癒やされていく。


「や、やりましたマスター! 三匹とも討伐完了ですね!」

 最後の依頼品である【装甲百足の魔力核】が、傷一つない完璧な状態でドロップした。


 血と泥と体液でドロドロになったジャージのまま、俺は大の字になって冷たい石畳に仰向けに倒れ込んだ。


「はぁぁぁ、終わったぁぁぁ……」

 他の冒険者ならパーティーを組んで数週間かかる素材集めを、俺はたった数時間、たった三匹の討伐で終わらせた。


 丸腰での死闘という代償は大きかったが、この【存在強奪】の初回ボーナスがもたらす効率は、常軌を逸していた。


「帰ろう、エク子。あの氷の女の度肝を抜いてやる」

 俺はゆっくりと立ち上がり、血のついた拳を強く握り直す。


 三百万円の報酬、そして黒犬のボスへの道が、ついに開かれようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ