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理不尽なる復讐者2


「おいおい。見ろよあれ」

 その時、嘲笑するような声が響いた。

 声の主は、金髪の生意気なエリート剣士、霧谷レオだ。


 彼は取り巻きの二人を連れて、俺たちを鼻で笑いながら近づいてきた。

「いい年したおっさんが、若い女の子二人に守ってもらうつもりか? 泥んこ遊びを楽しんでこいよ、お荷物さん」


「レオくん! 結城さんをバカにしないでよ!」

 しずくが抗議の声を上げるが、俺はしずくの肩をポンと叩いて前に出た。


「ああ、気をつけるよ。お前も、首輪の外れた魔物に背中を向けないようにな」

「なッ……テメェ! あの時はたまたま油断しただけで……!」


 図星を突かれて顔を真っ赤にするレオを無視し、俺は「行こうぜ」と二人を促してダンジョンの入り口へと向かった。


 その後ろ姿を、教官の鬼島が(あのアホ共、よりによって核弾頭みたいな奴に喧嘩を売りやがって……)と冷や汗を流しながら見つめていたことなど、レオは知る由もなかった。


 ♦︎


 新宿第4ダンジョン『旧都の地下遺跡』。

 Fランク向けのゴブリンやスライムが徘徊する浅層迷宮だ。


 鬼島教官の引率の元、3人1組のパーティたちはそれぞれのルートに分かれて攻略を進めていた。


「えーいっ!」

火炎球ファイヤーボール!」

 しずくのメイスと、葵の魔法が見事に連携し、ゴブリンを次々と撃破していく。


 俺は本当に何もせず、ドロップした魔石や素材を黄色いドドンキの袋にポンポンと放り込む『完全な荷物持ち』に徹していた。


「ふぅ……! 結城さん、私たちどうでしたか!?」

「完璧だったぞ。二人の連携、すごく息が合ってた。俺の出番なんて全くなかったな」


 俺が素直に褒めると、しずくは嬉しそうに笑い、最初はツンケンしていた葵も「ふふん、まあ私にかかればこんなもんですよ」と少し得意げに鼻を鳴らした。


 ダンジョンの攻略規定数をこなし、無事に研修の目的を達成した帰り道。

 俺たちのパーティは、他のグループとは少し離れた、最後尾の通路を歩いていた。


「よし、あとは地上に戻るだけだな。今日の晩飯は何にするかな……」

 俺がのんびりとあくびをした、その瞬間。

『マスター!! 前方から異常な魔力反応!!』

『警告します! 空間の魔力濃度が急上昇しています。これは……Aランクのエリアボスに匹敵する数値です!!』


 トラ子とエク子の悲鳴のような警告が同時に響き渡った。

「なんだと!?」

 Fランクの浅層ダンジョンに、Aランクのバケモノだと?


 冗談じゃない。俺のセンサーが、前方から近づいてくる『おぞましい悪意の塊』をハッキリと捉え、全身の産毛が逆立った。


「結城さん……? どうしたんですか、急に立ち止まって」

「二人とも、俺の後ろに下がれ。……何か、ヤバいのが来る」


 俺がしずくと葵を背中で庇うように立ち塞がった直後。

 薄暗い遺跡の通路の奥から、ズズズ……と、床を削るような重い足音を立てて『それ』が姿を現した。


「……見つけたぜェ。結城、誠ォォォォ……ッ」

 その姿を見て、俺は息を呑んだ。

 ボロボロの衣服。全身の血管が紫色に膨れ上がり、白目を剥いて涎を垂らしている男。


 彼から立ち上るドス黒い魔力のオーラは、空間を歪ませるほどに濃密だった。

「……龍牙、か?」

 黒犬の幹部であり、まどかを拉致した張本人。


 俺を待ち伏せしていたのか。

 それにしても、その異常なまでの魔力の暴走は明らかに正常ではない。


「ヒッ……な、なにあの人……!」

「魔力が、大きすぎて……息が……っ」

 背後のしずくと葵が、Aランク相当の威圧感プレッシャーに耐えきれず、その場にへたり込んでしまう。


 前方のルートは塞がれている。ここを教官の鬼島たちが通った時は何もなかったはずだ。奴は、完全に俺のパーティ(最後尾)を狙いすまして現れたのだ。


「……ひ、久しぶりィだなぁ……。会いたかったゼェェ、結城ィィ……ッ!!」

 紫色のオーラを吹き出しながら、龍牙が狂ったような笑い声を上げる。


「……なんの用だ、龍牙。お前の親父殿との約束は守ってる。

俺はあの日のことを一言も外に漏らしてない。なのにお前がここに来る理由がねえはずだ」


 俺が冷静に問い質すと、龍牙の顔が、さらに醜く、怒りに歪んだ。


「お前のォォォせいだろォォォがッ!!」

 龍牙の咆哮が、ダンジョンの壁をビリビリと震わせる。


「お前がッ! あの素材を持ち帰ったせいでェ! 親父殿にすべてバレたんだ!! 俺はシマも、金も、地位も、すべてを奪われたァ! 俺の人生は、テメェのせいで終わりになったんだよォォォッ!!」


 ドロドロとした理不尽な恨み言。

 まどかを拉致し、俺を脅迫した自業自得の報いであるにも関わらず、彼の濁りきった脳は「すべて結城誠が悪い」という結論しか導き出せなくなっていた。


「……なるほどな」

 俺は小さくため息をつき、黄色いドドンキの袋を静かに床に置いた。


 そして、震える二人の少女を背後に庇ったまま、Aランク相当の殺気を放つ狂犬を、真っ直ぐに見据えた。


「完全に八つ当たりじゃねえか。……いいぜ、かかってこいよ。お前のその腐った根性ごと、俺が物理で叩き直してやる」


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