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適性なしの冒険者2


「こちらの『筋力測定機』は、戦車の大砲を受けても傷一つ付かない特殊合金『アダマンタイト』でコーティングされています。

結城様の全力の打撃を、このパッドに叩き込んでください。その衝撃値から、初期の筋力ステータスを割り出します」


 戦車の大砲も防ぐ金属か。

 俺はパッドの前に立ち、小さく息を吸い込んだ。


「トラ子。これ、全力で殴っていいのか?」

「ダメに決まっています。アダマンタイトの耐久限界値は把握していますが、マスターの現在のフルスイングは、それを容易に凌駕します。

壁ごとビルを粉砕したくなければ、出力制限『0.1%』。

……指先でデコピンする程度、あるいは本当に軽くコツンと叩く程度に留めてください」


 デコピン程度でいいのか。

 俺は「才能なしの無力な男」を演じるため、一切の溜めも踏み込みも作らず、ただ腕をスッと伸ばして、コンコンとドアをノックするような、極めて軽いストレートをパッドに向かって放った。


 ――ドォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

「…………は?」

 雨宮さんの手から、バインダーが滑り落ちた。


 俺の『軽いノック』が直撃した瞬間。

 アダマンタイトでコーティングされていたはずの分厚いパッドは、中央からひしゃげるように爆縮して吹き飛んでいったのだ。


 パラパラと崩れ落ちる測定器。

 修練場にいた他の冒険者たちも、爆発音に驚いて一斉にこちらを振り返っている。


「マスター……出力10%出てましたよ。調整が甘いです」

「いや、だって……ただ撫でただけだぞ!?」

 俺が自分の拳を見て呆然としていると、雨宮さんが幽鬼のような足取りで、ぽっかりと空いた壁の穴に近づいていった。


「あ、アダマンタイトのパッドが……粉々に……? なんで……? 適性なしで、魔力もゼロの人が……? もしかして、金属疲労……? いや、でも最近替えたばかり……」


 ブツブツと呟きながら、雨宮さんの目は完全にハイライトを失っている。


 彼女はゆっくりと振り返り、俺の1980円のジャージ姿を上から下まで見つめ直した。

 どう見ても、この適性ゼロのジャージ男が戦車以上の破壊力を持っているとは思えない。導き出される結論は一つ。


「……結城、様」

「は、はい」

「……大変、申し訳ございません。本日、当ギルドの測定機材が、……致命的なエラーを起こしているようです」


「あ、や、やっぱり? !そうですよね、機械ですもんね。壊れることもありますよね!」

「はい……。本来なら正確な数値を測るのですが……機材の修理に数日かかるため、本日は暫定措置として、最低ランクでのご登録とさせていただきます」


 雨宮さんは、深く一礼した。

 俺のような適性ゼロの男がアダマンタイトを砕くわけがない。

 当然、「機械が最初から壊れかけていた」と判断したのだ。


「最低ランクっていうと……」

「はい。まずは『Fランク冒険者』からのスタートとなります。

実績を積んでいただければ、ランクは順次上がっていきますので……あの、才能がなくても、地道に薬草採取などを頑張れば、きっと道は開けますから!」


 雨宮さんは両手でガッツポーズを作り、俺を励ましてくれた。

 俺は、内心ホッと胸を撫で下ろした。

 いきなりSランクだのAランクだのと言われて目立ってしまえば、Aランク級の素材を換金する前に変な組織に目をつけられるだろう。


 今は目立たず、Fランクから地道に活動するのが一番安全だ。

「全然構いませんよ。励まし、ありがとうございます。Fランクでお願いします」


「はいっ……! では、こちらが結城様の『冒険者ライセンス』になります」


 数分後。

 俺の手には、鈍い銅色に光るカードが握られていた。


【氏名:結城 誠】

【ランク:F】

【職業:前衛(適性なし・詳細不明)】


「よし。これで堂々とギルドの買取所が使えるぞ」

 俺はライセンスをドドンキの袋に放り込み、ギルドの出入り口へと向かった。


 受付の奥では、雨宮さんが「測定器壊れてたのかなぁ」と頭を抱えているのが見えたが、見なかったことにしてそっと扉を閉めた。


 こうして。

 Aランク最深部の蒼竜を単騎で撲殺した俺は、『才能ゼロのFランク初心者』として、正規の冒険者デビューを果たすことになったのである。

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