レベルアップの恩恵と、第二のAI(特訓編②)
『――ユニークスキル【存在強奪】のレベルが上昇しました』
無機質なシステム音声が脳内に響き渡り、俺は魔物の返り血を拭う手を開いたまま硬直した。
「……えっ。ユニークスキルって、レベル上がるのか!?」
「みたいですねマスター! 私も初めて知りました! ちょっとスキルの詳細画面を引っ張り出してみますね!」
空中にホログラムのウインドウが展開され、【存在強奪 Lv2】のテキストが表示される。
「えーっと……基礎ステータスの還元率がわずかに上昇。そして、これがメインですね。
『強奪した対象の、リポップ(再出現)禁止時間を1時間から【3時間】に延長』……だそうです!」
「……ああ、そういえばそんな効果もあったな」
俺はボロボロの短パン状態になったジャージのポケットに手を突っ込みながら、思い出したように頷いた。
俺の【存在強奪】は、文字通りその魔物の『存在そのもの』をシステムから一時的に消去するため、倒した魔物のリポップを強制的に阻害する効果がある。
「時間が1時間から3時間に延びたのか。でも、ぶっちゃけ今までこの効果を意識して使ったことないんだよな。
いつもはこの機能切ってるし、同じ場所で『あー、魔物湧かないなー』なんて観察することはないし」
「チッチッチッ。マスター、だから知力20の脳筋だって言われるんです!」
エク子が人差し指をチッチッと振りながら、ドヤ顔で解説を始める。
「いいですか? 蒼竜のようなAランクのエリアボスは、戦闘中に『お供の魔物(取り巻き)』を無尽蔵に召喚するフェーズが必ず存在します! ワイバーンや竜人兵などを次々に呼ばれれば、遠距離攻撃を持たないマスターは数の暴力で押し潰されてしまいます」
「……なるほど! だが、俺の【存在強奪】でその取り巻きを一度でも殴り殺せば……」
「はい! システムからその取り巻きの存在が消去されるため、ボスがいくら召喚魔法を使っても、3時間は『エラー』となって取り巻きが湧いてきません! つまり、強制的にボスの手足を縛り、蒼竜との【完全な1対1(タイマン)】の状況を作り出せるんです!」
俺は目から鱗が落ちる思いだった。
遠距離攻撃ゼロ、魔法耐性ゼロの俺にとって、雑魚に囲まれて遠くからチクチク魔法を撃たれるのが一番の負け筋だ。
だがこのスキル効果を逆手に取れば、取り巻きをワンパンで消去し、あとはデカいトカゲ本体をタコ殴りにするだけのシンプルな喧嘩に持ち込める。
「すげえ……! Aランク攻略に向けた、超絶有能な効果じゃないか! これなら一気に勝機が見えてきたぞ!」
『――さらに、ユニークスキルレベルアップのボーナス特典を受信』
『――マスターの戦闘プロセスを最適化するため、【サブAIサポート機能】を解禁します』
『――戦術支援AI『TRY』を起動します』
「……ん? なんだ、まだ何かあるのか?」
俺とエク子が顔を見合わせていると、俺の目の前の空間に、光の粒子が集まり始めた。
やがて現れたのは、エク子とは全く対照的な姿をした、もう一人のホログラムの少女だった。
銀色の長い髪をタイトにまとめ、黒を基調とした軍服のような、あるいはカチッとした秘書のようなスーツを身に纏っている。
冷たく知的なアイスブルーの瞳が、俺をジッと見据えた。
「――起動完了。初めまして、マスター。私は戦術支援AI『TRY』。
以後、貴方の脆弱な戦術的思考を補佐し、最適解への挑戦と生存戦略の構築を実行します」
流れるような、それでいてどこか冷ややかで事務的な声。
「おおー! 私の妹分ですね! よろしくね、トライちゃん!」
「馴れ馴れしくしないでください、エクセプションシステムのメインAI。私は貴方のリソースの99%が『物理演算(どうやって殴るか)』
に偏っているという致命的な欠陥を補うためだけに発現したのですから」
エク子が明るく手を振るが、新顔のAIは冷酷な事実を突きつけてそれを一刀両断した。
どうやら、相当に賢く、そして相当にキツい性格らしい。
「なるほど、TRY……トライか。うん、ちょっと呼びづらいな。エク子がエク子なんだから、お前は今日から『トラ子』だ」
「……はい?」
俺が直感でそう告げると、トラ子と呼ばれたAIは、氷のような表情を微かにピクつかせた。
「トラ子……? この最新鋭の論理演算AIに向かって、昭和の野良猫のような名前を? 正気ですか、マスター。
貴方のネーミングセンスは、処理能力の限界を疑うレベルで低俗です」
「文句を言うな。俺の頭の処理能力の限界はとっくに底を打ってるんだ。名前なんて覚えやすけりゃいいんだよ」
俺が胸を張って言い切ると、トラ子は信じられないものを見るような目で深くため息をついた。
「……はぁ。事前データで貴方の【知力:20】という絶望的な数値は把握していましたが、ここまでとは。
これでは、私の高度な演算能力を活かすための脳内リソースが足りません」
「おいおい、頭が良いAIなんだろ? 俺の頭がバカなら、お前もバカになっちまうのか?」
「いいえ。そんなこともあろうかと、私のシステムは『代替リソース』を利用する仕様になっています」
トラ子は眼鏡(いつの間にかかけていた)をスッと中指で押し上げ、俺のボロボロのジャージから覗く、異常に隆起した筋肉を指差した。
「私は、マスターの【筋力】ステータスを、そのまま私の【知力(処理能力)】として変換・流用します。現在、マスターの筋力は1500オーバー。つまり、私の頭脳は国家のスーパーコンピューターすらも凌駕する超絶天才レベルに達しているということです」
「筋肉を……知力に……?」
俺は自分の腕の筋肉を見つめた。
俺が鍛え上げた大胸筋や上腕二頭筋が、実は見えないところで超高速の計算サーバーとして使われているということか。なんだか筋肉がインテリジェンスな熱を帯びてきた気がする。
「お前、すげえな! つまり俺の筋肉が成長すればするほど、お前はどんどん賢くなるってことか!
…で、俺の知力も一緒に上がるのか!?」
「いいえ、マスターご自身の知力は永遠に20のままです。ただの脳筋です」
「辛辣ッ!!」
即答だった。
ツンデレというより、ただの「ツン」である。だが、この毒舌メガネAIの言う通り、俺の致命的な弱点であった「思考の浅さ」や「戦術の無さ」をカバーしてくれる存在は、Aランク討伐においてこれ以上なく心強かった。
「……まぁいい、お前たちの名前は『エク子とトラ子』だ。これで決定。これからよろしく頼むぞ、二人とも」
「「はい、マスター!(不本意ですが、了解しました)」」
俺は二人(?)の心強い味方を引き連れ、特級エリクサー奪取のための最終特訓を、さらに一段階上のレベルへと引き上げるのだった。
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