蒼竜との戦いに向けて(特訓編①)
特級エリクサーを持つAランクエリアボス、『蒼竜』との決戦に向けて、まどかが用意してくれた数億円の最新鋭スーツを「己の筋肉」で破壊してしまった俺は、再びドドンキで買った1980円のジャージに身を包み、安アパートの四畳半で横になっていた。
目の前には、ホログラムで投影されたホワイトボード。
そして、なぜか黒縁メガネをかけ、指示棒を持った教師モードのエク子が宙に浮いている。
「はい、注目! これより『第1回・どうやってあのデカいトカゲを脳筋で殴り殺すか会議』を始めます!」
「ネーミングに悪意しかないが、まあいい。続けろ」
エク子が指示棒でホワイトボードをビシッと叩く。そこには俺のステータスと、蒼竜の推定データが並べられていた。
「まず、マスターの致命的な欠点を洗い出します。欠点その1! 【知力20による魔法耐性の完全欠如】! 蒼竜のブレスをまともに食らえば、ジャージが消し飛ぶどころか、マスターの細胞が原子レベルで消滅します!」
「……ブレスを拳で殴り返すのは無理か?」
「マスターは脳筋であってそういうステキ仕様ではありません! 物理でエネルギー波を相殺できるのは漫画の中だけです!」
「ちっ。じゃあ避けるしかないか」
「欠点その2! 【遠距離攻撃手段ゼロ】! 蒼竜は空を飛びます! マスターがいくら拳を素振りしても、風圧で押せるのはBランクまでです! 空からブレスを連発されたら、マスターはただの『よく動く的』です!」
「……最悪、岩でも投げつけるか。あるいは、飛んでる奴の足首を掴んで強引に地面に引きずり下ろす」
「欠点その3! 【ジャージが紙装甲】! 戦闘が長引けば長引くほど、マスターが全裸になる確率が跳ね上がります! 万が一、全裸の状態で討伐完了してしまった場合、協会のゲート付近にある監視カメラに『パンイチの変態がAランクを討伐した』という伝説が残り、社会的に死にます!」
「それが一番の死活問題だ!! 絶対に避けねばならん!」
俺が机を叩いて立ち上がると、エク子も大きく頷いた。
「というわけで、結論です! 魔法を撃たれる前に懐に潜り込み、空を飛ばれる前に足をへし折り、服が燃える前にワンパンで沈める! これが最適解です!」
「おお! シンプルでいいじゃないか!」
「はい! ただし、それを実現するためには、今のマスターのステータスではまだ火力が足りません。
蒼竜の受動防壁を素手でぶち抜くには、……圧倒的な基礎ステータスの底上げが必要です!」
つまり、結局のところ「もっと筋力を上げて殴る」という、知力20らしい原始的な結論に行き着いたわけだ。
「よし、作戦(?)は決まった。残された時間、寝る間も惜しんでBランクダンジョンを周回するぞ」
◆
それからの俺は、まさに鬼神の如き勢いでダンジョンを駆け回った。
ターゲットは、第5から第7エリアに点在するBランクの魔物たちだ。
「オラァッ!!」
巨大な毒グモ『ポイズン・タランチュラ』の甲殻を、右ストレートで粉砕する。
毒液を浴びるが、毒耐性と耐久が仕事をして、俺の皮膚はシュワシュワと音を立てるだけで、ダメージにはならない。(ただし、ジャージの袖は少し溶けた)。
『――条件達成。【存在強奪】が発動します』
『――【筋力】(+3)』
『――【耐久】(+2)』
「よぉし、次だ次! 休んでる暇はねえ!」
俺は息をつく間もなく次のターゲットへ向かった。
Bランクとはいえ、もはや俺にとっては格下になりつつある。
得られるステータスの上昇幅は一桁台にまで落ち込んでいたが、塵も積もれば山となる。
一匹倒してプラス3なら、百匹倒せばプラス300だ。
ゴガンッ!!
今度は『アーマー・グリズリー』という、全身を鋼鉄で覆われた巨大な熊の魔物を、強引なアッパーカットでカチ上げる。
『――【筋力】(+4)』
『――【敏捷】(+2)』
「マスター、いいペースです! ただ、ジャージの裾がさっきの熊の爪で破れて、短パンみたいになってますよ!」
「気にするな! まだ布面積は半分以上残ってる! セーフだ!」
完全に基準がおかしくなっている俺は、狂ったように拳を振るい続けた。
魔法を使ってくる魔物は、詠唱が終わる前に【敏捷】で距離を詰めて殴る。
硬い魔物は、【筋力】に物を言わせて無理やり装甲ごとへこませる。
毒や罠は、【耐久】と【自己再生】でゴリ押しする。
戦うたびに、ほんの少しずつだが、俺の肉体は確実に蒼竜へと届く次元に近づいている気がする。
「……ふぅ。これで今日だけでBランク50体目か」
額の汗を拭い、泥と魔物の体液でドロドロになった半袖半ズボン状態のジャージを見下ろす。
その時だった。
『――規定強奪数の蓄積を確認』
『――【例外システム】の根幹機能がアップデートされます』
『――ユニークスキル【存在強奪】のレベルが上昇しました』
「……あ?」
突如として、俺の脳内にこれまで聞いたことのない、重々しいシステム音声が響き渡った。




