マウンテン or マウント?
新宿ギルド本部での騒動の後、俺たちは眩しい太陽の下、街中を歩いていた。
「はー、スッキリした! あの意地悪そうな支部長さん、顔真っ青だったね!」
「まあな。これで少しはギルドの連中も働きやすくなるだろうさ」
俺はジャージのポケットに手を突っ込みながら、上機嫌で歩く美桜の隣に並んだ。
長年の因縁を精算したことで、俺の心も不思議なほど軽く、晴れやかだった。
「それじゃあお兄ちゃん! 約束通り、パフェ食べに行こ! 私、ずっと行きたかったファミレスがあるんだ!」
「おう。特盛のやつ頼んでやるって約束したからな。どこにあるんだ?」
「こっちこっち! ギルドから歩いてすぐのところにあるの!」
美桜に手を引かれるまま、俺たちは新宿の大通りから少し入った場所にある、人気のファミリーレストランへと向かった。
店内は昼時を少し過ぎているにもかかわらず、若い女性や学生、そして冒険者らしき客たちで賑わっていた。
「いらっしゃいませー! 二名様ですか? お好きな席へどうぞー!」
店員に案内され、俺たちが窓際のボックス席へと向かおうとした、その時だった。
「あっ。……誠さん!」
「誠さんだ! お久しぶりです!」
不意に、少し離れた席から明るい声が飛んできた。
声のした方を見ると、そこには見覚えのある二人の少女が、ドリンクバーのグラスを片手に立ち上がり、こちらに向かって嬉しそうに手を振っていた。
活発そうなショートヘアの『葵』。
そして、三つ編みおさげの『しずく』。
どちらも、よく一緒にパーティを組んでダンジョンに潜っていた、
数少ない「まともな」冒険者仲間だった。
「おお、葵にしずくじゃないか。久しぶりだな!」
俺は懐かしさに目を細め、二人の席へと近づいた。
彼女たちとは、俺が色々とあった事もあり、すっかり疎遠になってしまっていた。
こんなところでバッタリ再会するとは。
「誠さん、最近ギルドでお見かけしないから心配してたんですよ!
相変わらず、そのジャージなんですね!」
「ふふっ。誠さんのお顔を見られて、なんだかホッとしました」
ひまわりのように笑う葵と、控えめに微笑むしずく。
二人の歓迎ぶりに俺も思わず頬を緩めたが、その直後、隣から『ジトォ……』という、ひどく冷ややかな視線を感じて肩をビクッと揺らした。
「……お兄ちゃん? この、可愛らしい女の人たちは、誰かな?」
美桜が、俺のジャージの袖をギュッと掴み、笑顔のまま目の奥を全く笑わせずに問いかけてきた。
俺は冷や汗をかきながら、慌てて紹介に入る。
「あ、ああ、紹介するよ。ええと……閑話(外伝)だと前に出た気がするけど、本編(この世界線)だとお前とは初めまして、だっけか?
この子たちは葵としずく。
俺がEランクの頃に、一緒にパーティを組んでくれてた人達だよ」
「えっ、かんわ……? せかいせん……? お兄ちゃん、急に何言ってるの?」
俺のメタ発言に美桜が首を傾げるが、俺はコホンと咳払いをして誤魔化した。
葵としずくも、俺の隣に立つ美桜を見て、パチクリと瞬きをした。
「誠さん。こちらの、すっごく可愛い女の子は……もしかして」
「ああ。俺の妹の、美桜だ」
俺がそう紹介した瞬間、美桜の瞳の奥でカチッ、と何かのスイッチが入る音がした。
「……へぇ。お兄ちゃんがEランクの頃の、パーティメンバーさん」
美桜は、俺のジャージの袖を掴んでいた手をスッと離し、代わりに俺の腕に『ギュッ』と自分の腕を絡ませて、ピタリと身を寄せた。
そして、葵としずくに向けて、極上の、しかしどこか底知れぬ圧力を秘めた笑顔を向けた。
「初めまして。『妹』の、結城美桜です。
……お兄ちゃんったら、隅に置けないね。こんなに可愛い女の人たちとコソコソ一緒にダンジョンに潜ってたなんて」
「コソコソって、お前な……普通に仕事で」
「しーっ。今、私がお話ししてるの」
美桜が俺の脇腹をツンと小突いて黙らせる。 そして、美桜は葵としずくに対し、丁寧なお辞儀をした。
「昔、うちの不器用なお兄ちゃんが大変お世話になったみたいで、妹としてお礼を言わせてください。
……でも、安心してくださいね。お兄ちゃんは今、私が毎日栄養満点のご飯を作って、しっかり『健康管理』も『私生活の管理』もしていますから。
これからは、私がずっとお兄ちゃんのそばで支えていくので、お二人は心配しないでくださいね」
ニコリ、と咲き誇るような美桜の笑顔。
しかし、その言葉の端々からは、「お兄ちゃんは私のものだから、これ以上近づかないでね」という、妹ポジションを最大限に利用した強烈な『マウント』のオーラが、バチバチと音を立てて放たれていた。
「あ、あはは……。美桜ちゃん、すごくしっかりしてるんですね。誠さん、愛されてるなぁ」
「え、ええ……。兄妹仲が良くて、羨ましいです……」
美桜から放たれる見えない威圧感(テリトリー主張)に、葵としずくがタジタジと引き攣った笑いを浮かべて後ずさる。
俺はいたたまれなくなり、美桜の頭に軽くチョップを落とした。
「痛っ! 何するのさお兄ちゃん!」
「お前な、変なプレッシャーかけるなよ。
……葵、しずく。せっかくだし、席、一緒にしてもいいか?」
「も、もちろんです! ささ、どうぞ!」




