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【存在強奪】 ~やけくそでダンジョンに素手特攻したら、存在もスキルもステータスも奪える能力に目覚めました~  作者: 仁科異邦


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慈愛の残滓

「ガ、ハアァァァァァッ!!」

 肋骨が砕ける音。

 臓器が破裂する感覚。

 俺の身体は風車のように空中で振り回され、地面に叩きつけられ、再び虚空へと蹴り上げられる。


 かつてない、圧倒的なピンチ。

 視覚も、聴覚も、ただ途切れることのない暴力によって完全に破壊されていく。

(あ、が……ッ……)


 意識が遠のく。

 これが、強者の暴力か。

 俺がこれまで無自覚に敵に押し付けてきた「圧倒的なステータス」という理不尽。

 それを自分自身が味わわされる絶望感。


 勝てない。何もできない。適性ゼロの無能だったあの頃のように、ただ蹂躙されるのを待つことしかできない。


「終わりだ、人間。貴様の肉も、魂も、そしてそのふざけた力も……すべて我が消化してやる」

 ヴァレフォールの声が聞こえた。


 空中でなす術なく落下していく俺の真下で、悪魔公爵が巨大な両腕を広げていた。

 その頭上に、空を覆い尽くすほどの超巨大な『泥と溶岩の混合魔法』が展開される。


 俺のステータスと悪魔の魔力が完全に融合した、文字通り一撃で九州を消し飛ばすほどの極大の破壊球。


「死ね、イレギュラー」

 圧倒的な質量と熱量が、俺の視界を完全に黒と赤で塗り潰していく。

 動けない。指先一つ、ピクリとも動かすことができない。

(……ごめん、エク子。……約束、守れそうにない……)


 死を覚悟し、俺が静かに瞳を閉じた。

 その、次の瞬間だった。

 ――ピタッ。


 世界から、すべての『音』が消え去った。

「……え?」

 俺は、閉じていた目をゆっくりと開いた。

 信じられない光景が広がっていた。


 俺の顔面まで残り数センチというところまで迫っていた極大の破壊球が、空中でピタリと静止している。


 山々に吹き荒れていた暴風も、吹き上がる溶岩の飛沫も、空を覆っていた赤黒い瘴気も。

 眼下で傲慢な笑みを浮かべていたヴァレフォールでさえも、瞬き一つすることなく、まるで写真のように完全に凍りついていた。


 時間が、止まっている?

 絶対的な静寂に包まれたモノクロの世界。

 その中で、俺の目の前の空間にだけ、温かく、ひどく懐かしい『純白の光』がふわりと浮かび上がった。


『……もう。しょうがないですねマスターは、これは特別ですよ』

 鈴を転がすような、透き通った少女の声。

 純白の光の粒子が集束し、そこに一人の少女の幻影シルエットが形作られる。


 かつて俺に力を与え、俺を導いてくれた存在――『エク子』の、システムに僅かに残されていた『残滓』だった。


「お前……エク子、なのか……?」

 声にならない声で、俺は空中に浮かぶ彼女の幻影に呼びかけた。

 彼女の姿はノイズ交じりで、どこか半透明だ。


 エク子の残滓が、静止した空間の中でそっと俺の頬に手を伸ばした。物理的な感触はない。


ただ、温かい波長だけが、俺の傷ついた魂に染み渡っていく。

『……ある程度の痛みや代償はごめんなさい、でもマスターには生きてて欲しいのです』

 彼女の言葉に含まれた『痛みや代償』。

 それが意味する重さを、俺は本能で理解した。


 彼女が自らを犠牲にして消滅するわけではない。これはあくまで彼女が俺の魂の奥底に残してくれていたメッセージであり、膠着した状況を打破するための『きっかけ』に過ぎない。


 代償を払うのは、俺だ。本来の器の限界を超えて強引に神の力を引き出すことで、俺自身の肉体と魂に跳ね返ってくる『激痛と反動』のことだ。


『慈善スキル【脅威に立ち向かう者に力を(アガペー・オブ・レジスタンス)】を使ってください』

 エク子の手が、俺の胸の中央――心臓の奥底へとスッと沈み込む。


『本当は格が上がってから使えるはずのスキルなので制約はありますが、これでなんとかなるはずです』


 本来ならば限界を超えてステータスを百倍にまで跳ね上げる極光アガペー

 だが、今の俺の器とシステム制限により、その倍率は「十倍」へと留められる。


 それでも十分だ。俺のすでに限界を突破している規格外の数値を、さらに十倍に引き上げるという、絶対的な奇跡。

『応援してます、マスター』


 彼女が最後に残した微笑みと共に、エク子の残滓が光の粒子となって空間に溶け込んだ。

 役目を終えた幻影は消え去り、後に残されたのは、彼女が俺の心臓の奥底で回してくれた『反逆の鍵』だけだった。


 純白の光が、俺の全身を包み込む。

 俺の心臓の奥底で、圧倒的な力が溢れてくる。

【システム介入を確認。大罪スキル『強欲』の裏層より、美徳スキル『慈善』を強制解放します】


【スキル『脅威に立ち向かう者に力を(アガペー・オブ・レジスタンス)』を発動。全基礎ステータスを一時的に10倍にスケーリングします】


 バツンッ!!!!!

 止まっていた時間が、強烈な衝撃と共に一気に動き出した。

 俺の顔面めがけて迫り来る極大の破壊球。

 だが。

「……遅い」

 俺の口から漏れた声は、先ほどまでの絶望に満ちた掠れ声ではなかった。


 時間が止まっているかのように錯覚するほど、すべてが遅く見える。

 俺は、俺自身を飲み込もうとしていた超高密度の破壊球めがけて、無造作に右の裏拳を放った。


 ――パキンッ。

 それは、ガラス細工を叩き割るような、あっけない音だった。

 俺の裏拳が触れた瞬間、悪魔公爵が全魔力を注ぎ込んだ極大の破壊球は、抗うことすら許されずに一瞬で霧散し、光の粒子となって消滅したのだ。


「……なっ!?」

 眼下で勝利を確信していたヴァレフォールの四つの瞳が、信じられないものを見るように見開かれる。


 俺の全身からは、これまでの黄金色のオーラを完全に覆い尽くすほどの、眩いばかりの『純白の極光アガペー』が爆発的に噴き上がっていた。


 肉体の損傷はすべて光の波長によって覆い隠されている。

 今の俺に宿っているのは、全身の細胞が破裂しそうなほどの、圧倒的で、暴力的で、そして優しすぎる奇跡の力。


「テメェは俺のステータスをコピーしたと言ったな」

 俺は、特売ジャージの焼け焦げた裾を払いながら、悪魔公爵を見下ろして冷酷に言い放った。


「だが、それは数秒前の話だ。……今の俺には、遠く及ばねえよ」

 俺は深く腰を落とし、純白のオーラを右拳に限界まで集束させた。


 悪魔の顔に、明確な『死の恐怖』が張り付く。

 エク子が俺を信じて遺してくれた、この反撃のきっかけ。


 俺は大地を蹴り、純白の彗星となって悪魔公爵めがけて突撃した。

この後の展開どうしよう……。

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