全国ギルド会議にて3
もっとこう、会議の描画とか伏線とか考えられると良いんですけどね。
難しい……。
「ええ。数日前、東京郊外の拠点をアジトとしていた、NULLの幹部――自らを『怠惰』と名乗る男とその側近たちと接触しました」
ギルマスの声が響く。
俺は壁際で腕を組んだまま、微動だにせずその言葉を聞いていた。
「彼らは、物理攻撃を無効化し、相手の戦意を強制的に剥奪する『大罪領域』という恐るべき結界を展開しました。
我々の通常の戦力では、手も足も出ないほどの次元の違いを見せつけられました」
会場がざわつく。
「なんと……そんなバケモノが東京に潜伏していたのか?」
「それで、どうやってその『怠惰』を退けたのだ? 東京本部の精鋭部隊を総動員したのか?」
関西のギルドマスターが身を乗り出して尋ねる。
ギルマスは、一瞬だけ言葉を区切り、壁際に立つ俺の方をチラリと見た。
だが、すぐに視線を外し、淡々と嘘を織り交ぜた報告を続けた。
「……ギルドの総力を挙げた包囲網と、一部の『特殊なスキル』を持つ協力者の尽力により、なんとか敵の結界を打破し、幹部を退けることに成功しました。
敵は完全に無力化され、現在はこちらで身柄を拘束……いや、無害化された状態で処理済みです」
ギルマスは、俺が一人で怠惰をボコボコにして制圧したという事実は伏せた様だ。
この場で「後ろにいるジャージの護衛が一人で幹部を倒しました」などと言えば、不要な混乱と疑心暗鬼を生むだけだからだ。
更に大罪の力を俺が取り込んでいることが知れれば、このエリート連中が俺を「危険因子」として排除しようと動く可能性もある。
「…………」
その思考が頭をよぎった直後、ふと俺は、この円卓のどこか、あるいは護衛たちの立ち並ぶ壁際から、こちらを鋭く睨みつけるような視線を向けられたのを感じた。
だが、それはほんの一瞬のことで、俺が出処を探ろうとした時には、すでにその気配は周囲の熱気に紛れて綺麗に掻き消えてしまっていた。
「……なるほど、あの東京本部ですら総力戦を強いられる相手か。
我々の地方にも、いつそのような幹部クラスが現れるか分からないということだな」
「報告によれば、NULLの幹部は『怠惰』だけではない。
七つの大罪になぞらえた複数の幹部が存在し、それぞれが独立して動いているという情報もある。
各ギルドは、不審な魔力波長や未確認スキルの行使には最大限の警戒を払っていただきたい」
総裁が重々しく締めくくり、円卓には重苦しい沈黙が降りた。
ダンジョンの暴走という天災。
そして、NULLという人為的な悪意。
世界が加速度的に終焉へと向かっていることを、この場にいる誰もが肌で感じ取っていた。
◆
会議は白熱し、休憩を挟むことなく三時間が経過した。
俺は壁際に立ち続けながら、議論の行方を静かに見守っていた。
『マスター。彼らの議論は合理的ですが、本質には辿り着いていません。NULLの幹部を倒すだけでは、解決できないのですから』
『ふははっ。この程度の人間どもが集まって知恵を絞ろうと、結局は力ある者がすべてを喰らい尽くすだけのこと。
……なぁ宿主よ、こんな退屈な話、いつまで聞いているつもりじゃ?』
トラ子とグリ子はそれぞれの視点で会議を評価していた。
(分かった分かった、だけど俺はマスターの護衛なんだから、仕事はちゃんと最後までやるんだよ)
「……ん?」
ピクリと、かすかな異変を捉えた。
俺は腕を組み直し、顔を上げて周囲を見回した。
会場の空気は相変わらず白熱しており、各地方のマスターたちが連携のシステムについて議論を交わしている。
物理的な異常はどこにも見当たらない。
護衛たちも、微動だにせず彼らを見守っている。
だが、俺の魂の奥底で、チリチリとした不快感が警鐘を鳴らしていた。
それは、遠く離れた場所から――いや、このホテルの建物の外、京都の街のどこかから、かすかに、しかし確実に漏れ出している『魔力波長』。
それは湿り気を帯びた、ドロドロとまとわりつくような、極めて不快な気配だった。
『マスター。空間の位相に微細な歪みを検知。
……極めて悪意に満ちた、大罪クラスの魔力が、この会場に向かってゆっくりと接近しています』
トラ子の報告が、俺の直感を裏付けた。
(……来たか)
円卓では、総裁が本日の会議のまとめに入ろうとしている。
エリート冒険者たちは、まだ誰もこの微かな異常に気づいていない。
「……ギルマス、少し良いですか」
俺は、微かな声で円卓に座るギルマスに呼びかけた。
マスターは議論の最中であったが、俺のただならぬ気配を察知したのか、首だけを僅かにこちらへ向けた。
「どうした、結城」
「……何かが迫ってきています、ご注意を」
俺の言葉の意味を悟ったギルマスの目に、鋭い緊張が走る。
嵐の前の、息の詰まるような静けさ。
京都の空を覆う夏の熱気の下で、世界を呪うドス黒い泥が、着実にこの神聖な会議場へと忍び寄っていた。




