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【存在強奪】 ~やけくそでダンジョンに素手特攻したら、存在もスキルもステータスも奪える能力に目覚めました~  作者: 仁科異邦


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深夜の戦い

 深夜、静まり返った住宅街。

 街灯の薄明かりだけが点々と灯るアスファルトの上に、俺は着地した。


 夏の夜気は生ぬるく、不快な湿気が肌にまとわりついていた。

 だが、それ以上に不快だったのは、周囲の暗闇からひたひたと押し寄せてくる、異様なまでの「殺気」だった。


 夜の静寂に潜む不自然な足音には流石に気がつく。

『マスター、敵の包囲網が縮まっています。距離にして約50メートル。……数は十人程度です』

 トラ子が冷静に敵の位置をプロットしていく。

 俺は新調したばかりのジャージのポケットに両手を突っ込み、あくびを一つ噛み殺した。


「こんな深夜に、随分と熱心なこった。ただの強盗や裏稼業のゴロツキにしちゃ、足並みが揃いすぎているな」


『……うむ、宿主よ。わらわにはハッキリと分かるぞ。

こいつらのマナの根底にあるのは、おぞましいまでの「停滞」と「依存」じゃ。

自らの鍛錬を放棄し、他者の力にぶら下がって万能感を満たしている者特有の、腐った臭いがするわ』


 グリ子が忌々しげに鼻を鳴らした。

 その言葉の意味は、すぐに物理的な形となって目の前に現れた。


 ザッザッと音を立てて暗闇から姿を現したのは、黒いトレンチコートに身を包んだ男たちだった。


「ヒヒッ……見つけたぜ、こいつがジャージ男か」

 手には得物を握りしめ、その顔には下卑た笑みが浮かんでいた。


「大人しく俺たちに従えよな?さもなきゃ、この有り余る力でテメェの四肢をぶち折って引きずっていくことになるからなぁ」 

 男たちは薄汚い笑いを漏らす。


『解析完了。対象の意識は正常ですが、彼らのマナ回路には外部から極めて強固な力が与えられている様です。

これは他者に力を分け与え、疑似的なバフ状態を維持させる能力です』


「なるほどな。力を与える代わりに、自分の代わりに動かせる手駒コマを作り出すって事か」


 俺はジャージのポケットから手を抜き、首を左右にゴキリと鳴らした。

 この能力には覚えがある、柊玄弥が暴走したあの一件だ。

 あの時、玄弥をそそのかし、裏から力を与えて操っていた黒幕。


「柊玄弥の時と同じ手口……『怠惰』スキルの力か」

 俺の言葉に、男たちの一人がピクリと眉を動かし、余裕ぶった笑みを深めた。


「へぇ……俺たちの組織やスロース様のことを知っているのか。

なら話は早い、俺たちはスロース様から直接この『力』を与えられたエリートってやつだ。

今じゃAランクの魔物だって余裕で狩れるんだぜ?

テメェみたいなジャージ姿の雑魚が、束になっても敵う相手じゃ――」


「御託はいい」

 俺は冷たく言い放ち、一歩前へ出る。

「人の力に寄生してるだけのダニが、いっぱしにエリートぶってんじゃねえ。

俺は明日も色々と忙しいんだ。……一瞬で終わらせてやる」


「ナメやがって! 殺せッ!!」

 リーダー格の男の号令と共に、十人の配下たちが一斉に地面を蹴った。


 ――速い。

 スロースから与えられたバフの恩恵か、彼らの動きは確かにAランク冒険者に匹敵するスピードだった。

 多方向からの同時奇襲。

 それぞれが持つ固有スキルが、俺の急所めがけて殺到してくる。


 だが。

「……遅えんだよ」

 今の俺から見えるコイツらは、まるでコマ送りのように見えていた。

(ここで派手に暴れたら、近所の家屋が吹き飛んじまうな)


 俺は深く息を吐き、極限まで自らの出力を『抑え込んだ』。

 無駄な破壊を周囲に撒き散らさないための、純粋な速度と技巧のみによる制圧を狙う。


 俺は男たちの放つ斬撃の隙間を、まるで風のようにすり抜ける。

 トンッ。

 すれ違いざまに、俺の手刀が一人目の首筋、頸動脈の急所を極めて正確に叩く。


「あ……」

 男は自分が何をされたのかすら理解できないまま、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。


「な、なんだと!?」

「消え、た……!?」

 驚愕に目を見開く残りの配下たちの間を、俺の黄色い影が縫うように駆け抜けていく。


 二人目、三人目、四人目。

 一切の風切り音も、地面を蹴る音も立てず。ただ静かに、俺は彼らの急所を的確に狙っていった。


 魔法を詠唱しようとしていた後衛の男の背後に回り込み手刀を一つ、そして逃げようと振り返った男の鳩尾に寸止めの掌底を一つ。

 バタバタとドミノ倒しのように黒いコートの男たちがアスファルトの上へ倒れ伏していく。


「ヒィッ! ば、バケモノ……っ!」

 最後に残ったリーダー格の男が、恐怖に顔を引き攣らせてへたり込んだ。


 俺はその目の前に静かに立ち、見下ろした。

「お前らエリートなんだろ? ほら、Aランクの力とやらを見せてみろよ」

「あ、あ、あああっ……!」


 男が震える手で短剣を突き出そうとした瞬間、俺のデコピンが男の額にクリーンヒットした。


 ペチン、という間の抜けた音と共に、リーダー格の男は糸が切れたマリオネットのように地面へと頽れた。


「……ふぅ。これで十人、全員制圧っと」

 俺はジャージのポケットに手を戻した。

 時間にして、わずか数十秒。

 

 電柱一本折ることなく、民家の壁に傷一つ付けることなく、完全に無音での完勝だった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。


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