↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【存在強奪】 ~やけくそでダンジョンに素手特攻したら、存在もスキルもステータスも奪える能力に目覚めました~  作者: 仁科異邦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

183/317

麗奈への報告


 東京駅に到着した俺は、早速麗奈と連絡をとった。

 そして真っ直ぐに待ち合わせの場所へと向かう。


 指定されたのは、銀座にある会員制の超高級ホテルの最上階ラウンジだった。

 ジャージ姿で入り口に立った瞬間、黒服のボーイに全力で止められかけたが、中から出てきた白衣姿の麗奈が「私の客人よ」と一瞥しただけで、ボーイたちは蒼白になって道を空けた。


「……相変わらず、目立つ格好が好きね。っていうか、血と泥の匂いが酷いわよ。

スラム街のドブネズミでも、もう少しマシな匂いをしてるわ」


 個室のVIPルームに通されるなり、豪奢な革張りのソファに足を組んで座っていた柊麗奈は、手元のアンティークなティーカップを置きながら、呆れたようにため息をついた。


 何故か細身の体に羽織った白衣、そして知性と狂気を孕んだ鋭い瞳。

「悪かったな。こっちも色々と立て込んでて、シャワーを浴びる暇もなかったんだよ」


 俺はドカッと向かいのソファに腰を下ろし、肩に担いでいた黄色のドドンキ袋をテーブルの上にドンッと置いた。


「それで? 依頼していた『アレ』はちゃんと取ってきたんでしょうね?」

 麗奈は細い目をさらに細め、期待に満ちた視線をドドンキ袋に向けた。


 俺が奈落の御所へ向かった元々の目的は、彼女の新しい実験のために必要な素材、『暗黒龍の逆鱗』を調達してくることだった。


「あー……それなんだが」

 俺は後頭部を掻きながら、気まずく視線を逸らした。

「……ん? まさか、手に入らなかったの?」


「いや、違うんだ。倒したことは倒したんだよ、暗黒龍。

ただな、なんかダンジョンのシステムと同化する【迷宮接続】ってやつを起こしてて、最後はドロドロに溶けて別のモンになっちまったんだよな」


 それに、俺自身、エク子が消滅したショックと怒りで、逆鱗を剥ぎ取ることなど完全に頭から抜け落ちていた。

 殴り殺した時点で肉体も何もかも粉微塵になっていたし、そもそも素材が残っていたかすら怪しい。


「迷宮接続ですって……!? ちょっと待ちなさい、それって放置すれば迷宮氾濫スタンピードを引き起こす最悪のイレギュラーじゃない!

しかも特級ダンジョンなんて……。

あなた、そんな状態の暗黒龍と戦ったっていうの!?」


 麗奈は驚愕の視線を向ける。

「まあな。で、ドロドロに溶けたトカゲの残骸から出てきたのが、これだ」

 俺はドドンキ袋の口を開け、中から『それ』を取り出し、大理石のテーブルの上にゴトリと置いた。


 それは、星空をそのままガラス玉の中に閉じ込めたような、ソフトボール大の漆黒の宝玉だった。


 テーブルに置かれた瞬間、部屋の空気が一気に重くなり、照明がチカチカと明滅した。

「……は?」


 麗奈の動きが完全に停止した。

 彼女は信じられないものを見るように目を瞬かせ、それからゆっくりと俺の顔を見た。


「あのさ、誠。私が頼んだのは『暗黒龍の逆鱗』よ。……これ、どう見ても鱗じゃないわよね?

あんた、本当に馬鹿なの? 素材の形も認識できないのかしら」


 麗奈がこめかみを押さえて呆れ果てる。

「うるせえな、俺だって忘れてたわけじゃ……いや、忘れてたけど。

代わりにそれを持ってきたんだから文句ねえだろ。すげえ魔力だぞ、それ」


「はぁ……。まあいいわ、どうせダンジョンから拾ってきたガラクタか何――」

 文句を言いながら、麗奈が白衣のポケットから『鑑定用のモノクル』を取り出し、瞳に装着してその漆黒の宝玉を覗き込んだ、その瞬間だった。


「――――ッ!?」

 ガシャンッ!!

 麗奈の膝の上にあったティーカップが床に落ち、粉々に砕け散った。


 彼女はモノクル越しに宝玉を見つめたまま、全身をガタガタと震わせ、顔面を紙のように蒼白にしていた。


 普段の冷静沈着で傲慢な態度は見る影もなく、まるで神話の化け物にでも遭遇したかのように、口をパクパクとさせている。


「おい、どうした? 腹でも痛いのか?」

「こ、これ……っ! う、嘘でしょ……!? マナの密度が計測不能?!

ま、まさか……『SS級アーティファクト』……いえ、『ダンジョンコア』そのもの……ッ!?」


 麗奈は震える両手で宝玉を包み込むように持ち上げ、目をひん剥いて俺を凝視した。

「ちょ、ちょっと待ちなさい! 暗黒龍が出る場所は極めて限られているわ。

しかも、特級ダンジョンクラスの魔力を持つ個体となれば……極東エリアでは【奈落の御所】しかない……」


 麗奈の並外れた頭脳が、今朝から世間を騒がせているあの『歴史的ニュース』と、目の前の異常な光景を急速にリンクさせていく。


「まさか……。今日、日本中を騒がせている【奈落の御所の踏破】……。あれ、あなたがやったっていうの……?」

 恐る恐る、信じられないものを見るような声で問う麗奈。

 俺は、その言葉に小さく息を吐いた。


「……ああ。そうだ」

 隠す意味もない。俺は深くソファに沈み込み、テーブルの上のコーヒーに視線を落とした。

 脳裏に、再びエク子の最期の笑顔が過ぎる。


「……でも、割に合わねえ戦いだったよ。俺は、勝つために……一番大事なもんを、引き換えにしちまったからな」

 俺の顔に浮かんだのは、誇らしげな英雄の表情でも、強者の余裕でもなかった。


 ただ、苦虫を噛み潰したような、深い喪失感と後悔に塗れた、ひどく惨めな顔だった。

 そのただならぬ雰囲気に、麗奈も何かを察したのだろう。

 彼女は一瞬だけ同情するような目を向けた……が、それはほんの数秒のことだった。


「……くっ」

「ん?」

「く、ふふ……っ。あはははははははっ!!」


 突如として、麗奈が顔を手で覆い、肩を震わせて高笑いを始めたのだ。

 その瞳には、先程までの動揺など微塵もなく、むしろ極限まで昂ぶった『狂気』と『探究心』が爛々と燃え盛っていた。


「あーっ、もう! 素晴らしいわ!

最高よ結城誠! あなたって男は、本当に私の常識データをことごとく破壊してくれる!!

迷宮接続を起こした特級ダンジョンを単独で踏破!?

しかもダンジョンコアを素手で引っこ抜いてお持ち帰り!? イカれてる! イカれすぎてるわ!!」


「おい、急にどうした。頭湧いたか」

 俺がドン引きして後ずさると、麗奈はテーブルを身軽に飛び越え、凄まじい勢いで俺に迫ってきた。


「ねえ誠! あなたの細胞、今すぐ私に提供しなさい! いえ、提供して!

特級ダンジョンを踏破して生存した人間の生体データなんて、世界中のどこを探してもないのよ!? 脊髄液! 脊髄液を少しだけ抜かせて!

あと脳のシナプスの電流も測りたいわ!!」


「バカ野郎、離れろ! 俺はモルモットじゃねえ!」

「いいじゃない減るもんじゃなし! 麻酔は極太のやつを用意してあげるから!!」


 文字通り目を血走らせて俺のジャージを剥ぎ取ろうとする麗奈を、俺は片手で頭を押さえて必死に引き剥がした。


♦︎


「……はぁ、はぁ、はぁ……。チッ、ケチね。

せっかく世界初の特級踏破者のデータが取れると思ったのに」


 数分の攻防の末、ようやく落ち着きを取り戻した麗奈は、乱れた白衣の裾を直し、咳払いをしてソファに座り直した。


「……まあいいわ。事情はだいたい察したわよ。暗黒龍の逆鱗が手に入らなかったのは残念だけど、この『奈落の根源』を見られただけで十分お釣りが来るわ」


 そう言って、麗奈は未練がましくテーブルの上のダンジョンコアを撫でた後、それを俺の方へスッと押し戻した。


「……いいのか? 代わりに持って帰ってきたんだ。研究素材にするならくれてやるぞ」

「馬鹿言わないで。ダンジョンコアなんて、今の私の設備じゃ解析すら不可能よ。

それに、そんな核爆弾みたいな代物を私が持ってたら、世界中の組織から命を狙われるわ」


 麗奈はふうと息を吐き、悪戯っぽく微笑んだ。

「これは、あなたが命を削って手に入れた戦利品でしょ。

あなたが持ってなさい。逆鱗の代わりの素材は、私のコネで適当なSランク素材を代用して実験を進めるから心配いらないわ。

それに面白いものも見れたしまどかとの件もチャラにしてあげる」


「……そうか。恩に着る」

 俺がコアをドドンキ袋にしまい込むと、麗奈は少しだけ真面目な顔になり、俺の目を見つめた。


「ねえ、結城誠。一つだけ聞かせて」

「なんだ」

「……その大事なもの、取り戻せそうなの?」

 彼女なりに、俺の心の空洞を気遣ってくれたのだろう。


 俺は少しだけ驚き、そして、ゆっくりと口角を吊り上げた。

「ああ。地獄の底からでも、絶対に引っ張り出してやるさ」


 その顔には、もう迷いはなかった。

 俺の返答を聞いた麗奈は、満足そうに「そう。なら、期待して待ってるわ」と笑った。


 特級ダンジョンの踏破劇は、世間を巻き込む巨大な渦の始まりに過ぎなかった。

 俺の魂の【格】を巡る次なる戦いは、もうすでにすぐそこまで迫っているようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。