表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/126

知りたくなかった事実2

 

 【裏社会の巨大シンジケート・黒犬くろいぬ】。

 それは、俺にとって決して無関係な組織ではなかった。

『マスター? 心拍数が異常に低下しています! 顔色も真っ青ですよ!』


「……あ、あはは。嘘だろ、おい……」

 俺の口から、乾いた笑いが漏れた。

 美桜の命を繋ぐ1億円を稼ぐためなら、相手がヤクザだろうがマフィアだろうが構わないと思っていた。


 必要悪だと、自分に言い聞かせていた。

 先ほどリビングで見た美桜の笑顔を守るためなら、俺は泥を被る覚悟だった。


 だが、現実はどうだ。

 俺が『黒犬』に流した希少な魔物素材。

 そして、それを換金して得た金。


 その裏取引は、巡り巡ってNULLという巨大な闇の組織を潤し、奴らの活動を支援することに繋がっていたのだ。


「まさか……俺は……」

 激しい吐き気が込み上げてきた。

 天道さんような悲劇を二度と起こさないために覚悟をしたはずだ。

 あいつらをぶっ殺して、天道さんを取り戻すと誓ったばかりだった。


 それなのに俺は、妹を救うという大義名分の下で、天道さんを地獄に突き落とした奴らに、自ら力を与えていたのだ。


「う、あ……ッ、ああああああッ!!」

 俺は端末をベッドに落とし、自らの髪を狂ったように掻きむしった。


 滑稽だ。あまりにも滑稽すぎる。

 復讐を誓いながら、敵を潤すための歯車になっていたなんて。


『マスター! 落ち着いてください! マスターは知らなかったんです! 美桜ちゃんを助けるために必死だったんですから、マスターのせいじゃありません!』


『マスターの精神状態が危険水域に達しています。

……マスター、悔やんでいる暇はありません。

むしろ、この繋がりを利用すべきです』


 トラ子の冷徹な指摘に、俺はハッと息を呑んだ。

(……そうだ。悔やんでる暇なんてない)


 俺は、震える手で再び端末を拾い上げた。

 過去は変えられない。

 だが、俺が『黒犬』という組織にドロップアイテムを卸していたという事実は、彼らとの取引ルートを持っているという証明でもある。


 それは裏社会に食い込み、NULLへと辿り着くための最大の武器になる。

「……ペナルティが明けたら、黒犬のトップ……ボスの『柊宗一郎ひいらぎ そういちろう』に会いに行く」


 裏社会を牛耳る冷酷な男。

 俺がドロップアイテムを卸していた末端のブローカーたちを束ねる、真の黒幕だ。


 躊躇している暇はない。

 あの男がどこまでNULLの正体を知って取引しているのか、力ずくでも吐かせてやる。


「トラ子、柊宗一郎のパーソナルデータをこの裏ファイルから洗ってくれ。裏社会の経歴じゃない、ギルド本部が把握している過去だ」


『了解しました。……検索結果、ヒットしました。これは……』


 トラ子の声が、珍しく戸惑いを帯びた。

 画面に表示されたのは、数十年前の古い一枚の写真と、当時のパーティー登録簿だった。


『柊宗一郎の過去の冒険者記録です。彼はかつて、Sランクパーティー【銀の天秤】に所属していました。そして……当時のパーティーリーダーの名前は』


 写真に写っていたのは、若き日の柊宗一郎と、その隣で大剣を担いで豪快に笑っている、見覚えのある男。


「……片桐、ギルドマスター」

 俺は言葉を失った。

 新宿ギルドの最高責任者である片桐と、裏社会の組織『黒犬』のボス・柊宗一郎は、元・同じSランクパーティーの仲間だったのだ。


『うわっ、これって超重要NPC同士が裏で繋がってたパターンのやつですね! ギルマスさん、絶対何か情報を持ってますよ!』


「……ああ。片桐さんがNULLと直接繋がってるとは思えないが、かつての仲間である柊のことについて、何も知らないわけがない」


 俺は端末の電源を切り、暗闇の部屋で仰向けに倒れ込んだ。

 深淵を覗けば、深淵もまたこちらを覗き込む。


「……順番を変えよう、まずはもう一度片桐さんに会いに行く」


 全てを知るべき時が来た。

 壁の向こうからは、母さんと美桜の穏やかな生活音が聞こえてくる。


 俺は、その日常を絶対に守り抜くと誓いながら、数日後に迫る『反逆の時』に向けて、ただ静かに精神を研ぎ澄まし始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ