悪意と憤怒 そして無上の喜び
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ソフィア 視点 ( 最初の頃に出て来た、ジール侯爵令嬢です)
「今日はなんだか、騒がしいわね」
私はブドウを摘みながら、光の無い瞳でつぶやく。
「今日はルアナ王国の、第一王子殿下が、視察に来ているらしいわよ」
「あら、ラーシュ殿下のお姿もあるわ!」
お父様に捨てられ、修道院に来てから、どのくらい時間が経ったのだろう…。
私は、ただただイオ様を、お慕いしていただけなのに…それにしても、べらべらとうるさいわね。
「ねえ、あの黒髪で、長身の方はどなたかしら?凄い美丈夫ね」
「ラーシュ殿下とフレイア様と歩いてらっしゃるわね、きっと高貴な方よ」
「隣のご令嬢、なんて奇麗なの、あのつややかなブドウみたいな髪色、素敵ね」
私は作業している修道女をかき分け、視察に来た集団を注視する。
「…………イオ様」
私は久しぶりに見る、イオ様の神々しい光に、しばし見入る。
…………イオ様の隣には、あの女!
まさか本当に結婚したんやないでしょうね!
見つめる私の視界の中で、イオ様は愛おしそうに、目を細めてあの女を見つめて、そっと腰に手を回す。
見上げるあの女の手が、イオ様の髪に触れる。
「あの女さえ、いなければ!」
お腹の底から、ブクブクと湧き上がる怒りで、体が熱くなり、地に響く低い声が出た。
ブドウを摘むために持っていた剪定鋏を握りなおす。
消えてしまえ!
私はあの女目掛けて駆けだした。
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イオ 視点
「リノア、足元は大丈夫?」
畑のボコボコした通路で、リノアが転ばないように腰に手を回す。
「イオ。ありがとう。クリス様に進められて、ペチャンコの靴を、履いてきたから大丈夫よ」
そう言いながら、俺を見上げたリノアが、前にはらりと落ちた髪をすくい、俺の耳に戻す。
その時、背後に膨れ上がる、黒い感情を感じて、振り返る。
ソフィア!
落ちくぼんだ眼に、ギラギラとした悪意をまとい、髪を振り乱し、鋏を振りかざして迫りくる。
俺は咄嗟に、リノアを庇い抱きしめる。
同時にアルトとラノが、ソフィアを吹き飛ばし、転がったソフィアをバルドル様が足で踏みつけた。
ソフィアは気絶したのか、バルドル様に、何度も踏みつけられているのに、ピクリとも動かない。
気がつくと、リノアが眼を閉じていて、俺の腕から力なく、崩れ落ちそうになり慌てて支える。
「リノア、リノア!返事をしてくれリノア!」
リノアが全く反応しない。
一度ならず二度までも、リノアを傷つけようとするとわ!
許さない。絶対に許さない。
俺は破裂しそうな怒りに、身を震わせる。
「リノア、起きてくれ」
必死にリノアの顔を撫で、肩を揺らす。
(この馬鹿たれ!リノアを揺さぶるな!)
(イオ、落ち着いて、リノアは今、大切な時なのよ、私達が守るために寝かせているの)
突然、スパロー様とプロテア様の声が頭の中で響く。
「寝かせている?」
「そーだよ~。イオ! リノアは、あんなの見ちゃダメ」
「悪いのみたらだめ、リノアのお腹、ピンクと水色ビックリする」
「そうそう。驚いて、泣いちゃう」
アルトとラノが、頭の上を飛びながらおしゃべりしている。
ピンクと水色?
(イオ、よく聞いて)
またプロテア様の声が、頭の中で聞こえる。
「はい」
俺はリノアをぎゅっと抱きしめる。
(リノアのお腹に、昨日新しい命が来たのよ。まだ本人も、気がついていないわ)
俺は怒りから一転、喜びで体が震えた。
思わずリノアを抱き上げて、クルクル回る。
「イオ、悪い子!リノア大事大事」
ラノが叫び、アルトに頭をかじられる。
「いくらでも齧っていいぞ、俺は今幸せだー」
(*^▽^*)




