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終末の異世界紀行  作者: 佐倉美羽
『人間の国』

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第3話 停滞――種の起源(農業革命)

 何かがおかしい。文明の発展が遅すぎる、とリカは顎に手を置いて頭をひねった。


 ――皆が手を取り合い、子を育て、次の世代へと繋いでいっている。それはいい。だけど、それを繰り返すだけで何も起こらない……


 リカが育てた新人類、ニューマン。彼らはあまりに無垢だった。人のことを慮ることはできるし、努めて争いを避けようとする。魔法技術を用いて、代わり映えのしない穏やかな日々を過ごしている。そして、穏やかなニューマン同士が結ばれ、そうでないニューマンは進んで一人になっていく。そして、生まれた子世代はさらに穏やかで無垢になっていく。まるで、高い所にある葉を食べられる種だけが交配を繰り返し、キリンが生まれるように。新人類は“誰かのため”という考えは強かったが、“己のため”という欲が根本的に抜けていた。


「リカさん、どうぞ受け取ってくださいな」

「リカー!あそぼー」

「リカ。ちゃんと休んでいますか?無理はしないでくださいね」

「はい。ありがとうございます。皆さんも、平和が一番ですよ」


 リカは折を見つけては水晶のような都市「人間の国」に降りて、ニューマンと交流を図った。皆が一様に純粋で疑うことを知らない。そして、驚くほど聡明。問題が起これば徹底的に話し合い、何とか落としどころを見つける。この部分に関しては人間よりも優っている。だけど、大きな不満はないが、それほど満ち足りていない。そんな様子であった。それでも、ニューマン達はリカを心から愛し、リカもそんなニューマン達を慈しんだ。


 大きな進歩があったとすれば、定住ができるようにリカがそれとなく教え広まった農業。家畜由来の伝染病が流行った時には大勢死んでしまった。だけど、生き残ったヒト同士が番になり、子は免疫を獲得していき、やがて薬という概念を生み出した時だった。


 ある日、リカは水晶のように煌めく街に降りて一人のニューマンに声をかけた。薬をいち早く発明したニューマンだ。

「あなたの作った薬、素晴らしいですね。これで多くの命が救われます」

 

 ニューマンは微笑んだ。


「これもリカのおかげさ」


 それは謙遜とも違う、本心から生まれる感謝の言葉。何かがおかしい。リカはそう直観した。だけど、その違和感の所在を、リカはいわば顕微鏡を用いて探していたのだ。近すぎる。だからこそ、見つけられない。


 リカは伝染病が流行ることも免疫を獲得することも見越していた。それでも人類の発展のために次々と死んで行くニューマン達。その凄惨な光景をリカは引き裂かれる思いで見ていた。死んで行った者たちの名前を一人一人覚え、目に焼き付けた。だけど、リカは心に誓っていた。自分が解決してはいけない。自分はヒトではなく神。在り方は隣人であり、救済者ではない。自分なしで生きていけるために、リカは心を鬼にして文明の種とそれに伴う試練を与え続けた。


 地震が起きた時。建物が倒壊し、多くのニューマンが下敷きになった。そして、力あるものは救助、魔法が使えるものは救命を覚えた。

 大雨が降った時。増水して、氾濫した川が町に押し寄せて多くのニューマンが溺れ死んだ。そして、技術があるものは治水、皆が生き延びるための災害対策を考えた。


 他、伝染病、飢饉、虫害、干ばつ、多数。


 死がもたらされる度に下界に降りて、ニューマン達を励まし、解法をそれとなく伝える。そして、聡いニューマン達は一致団結し、試練を乗り越えていく。そして、リカは大いに喜び惑星メタリカに豊穣と恵をもたらした。

 なのに――


「なぜ……?もうあたしなしでも生きていけるはずなのに……」


 ニューマン達は一向に自立せず、ただ決められた生活を繰り返すばかり。

 彼らの文明は皮肉にもリカに似て、維持、生存に特化しており、極めて受動的。そして、人々に個性はほとんどなく、“発展”を生む種が、もはや神しかなくなっていたことに、リカはまったく気が付いていなかった。リカは思慮深く、責任者が強く、平和を愛しすぎたがゆえに、愚かであったのだ。


 リカが何もしないと、何も発明されない。技術は同じものを使い続け、どれほど不便に思えても受け入れる。子どもたちは同じ遊びを繰り返し続け、誰もが社会に参画しながら、熱はどこにもない。そして――


「それは、いったい何の役に立つのでしょうか?」

「本当のことだと勘違いしてしまうかもしれませんね」

「文字は情報の正確な伝達のために使われるべきだと考えます」


 ニューマン達は芸術を理解できなかった。一様に“嘘”はいけないことだと断じ、生活のためにならないと捨て、受け入れなかった。

 リカが深く愛した文明“物語”が、けして生まれない世界。それが理想郷「人間の国」の真実であった。


 ――これは……。何か手を打たなくては……


「はふぅ」っと一息をついて、リカは大きく宙に腰掛けた。ヒト種が生まれてからここまで、片時も目を離さず見守ってきたが、大きな問題が出来てしまった。考えをまとめようと思い、カフェオレを片手に思索にふける。青く美しい惑星メタリカを眺めながら、どうにか文明を現代レベルまで育て、ニューマンを自立させる方法を探す。深く静かな海に潜るようなイメージで、その方法を考えこんでいた。


 一方、ニューマン達が収める人間の国にひとりの赤ん坊が生まれた。ゆらりと揺れる異質な魂。その赤ん坊は“思った”。


(うわ……なんか……機械みたいな世界だな……)


 母も父も同じような顔をし、同じ行動を繰り返す。感情、というものが一部欠落したような平らな態度。そんな世界を見た赤ん坊はやるべきことがすぐに分かった。


(息苦しいなぁ……よし!俺がもっと面白くしてやろう!)


 それは、善意とも悪意ともいえぬ感情だった。ただ――退屈なればこそ、当たり前に生まれる目標。極めて人間的な、意志の力。


 赤ん坊の名はファイ。

 ありとあらゆるモノを作るチート能力【クラフト】を携えた“転生者”。

 純粋で、争いのない平和の国に、墨を落としたように暗く蠢く、劇毒のような魂の輝きが、生まれてしまった。


 つづく

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