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終末の異世界紀行  作者: 佐倉美羽
『人間の国』

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第2話 誕生――ワンダフル・ライフ(認知革命)

 リカは神になった。

 神の務めは人間の創造と、その文明を導くこと。なので、まずやらないといけないことは生命を誕生させること。人類を誕生させるのはその後である。


 でも、どうやって?

 答えはひたすら待つ。

 時間にして10億年ほど。


 リカは目の前にある巨大な地球儀をフワフワと飛び回りながら腕を組んで頭をひねった。どう見てもマグマに覆われた何もない惑星。名前はメタリカと名付けた。ここからどうやって生命が生まれるのであろうか。観察を続けていると、マグマが冷やされていき、やがて地表から染み出すように海のようなものができた。リカは思わず「おっ」と声を上げたが、いつも小隕石が惑星メタリカに落ちてきては、その水たまりを蒸発させてしまう。いっそ、隕石を払いのけてしまおうかとも考えたが、リカは気長に待つことにした。


 幸い、神の権限で現代の本は取り寄せることができる。ただし、そこに書かれている知識はすべて「結果」であり、いま目の前で起きている現象の理由はどこにも書かれていなかった。だからこそ、今は結果を信じて待つしかない。

 だが、これさえあればリカは無限に時間を過ごせる。どう見てもスマートフォン状の端末から神に相談もできたので、孤独はほとんど感じなかった。


 空中に腰掛けながら、本を読みふけ、生命の誕生や恐竜について理解を深めていく。バコーン、バコーンっという隕石が落ちる音をBGMにカフェオレを嗜むこと数億年。神の時間間隔は人間とは全く異なるものであり、リカの体感では数日間程度しか感じなかった。

 リカはついうたた寝をしていると、「あれ?」と違和感を感じ、目を覚ました。隕石の音がしない。そして、メタリカに目を向けると、そこには見事な海が出来上がっていた。そして、その海の底、熱水を噴き出す穴に、小さな生物がいた。


「す、すごい……。本当に生まれた……。原核生物……」


 辛抱強く世話をしていたサボテンに花が咲いたような感動がリカの胸を打った。このメタリカというテラリウムは、何もない無の惑星だった。なのに、小さな歯車が奇跡の連続で回りだし、こうして命が生まれたということをリカは感覚を通して理解した。

 そして、その営みを心の底から“美しい”と思ってしまった。


 “この小さくて、群れる命を、守っていきたい。平和な世界にしたい”


 いつそう願ったのだろうか。その願いは生まれたというよりも、心の奥深くに頼りなく横たわっていたような。暗く、深い海の底に討ち捨てられ、身動きがとれなかった。そんな願いであった。

 そこから、リカは積極的に惑星メタリカに干渉しだした。書を読み、地球の軌跡をなぞるように、力をふるった。新たな生命の誕生に喜び、恐竜の存在に興奮し、哺乳類の進化のために涙を流しながら隕石を落とした。だけど、どうしても、絶滅させることだけはできなかった。人間の誕生に影響しない生物群を残し、進化と退化を促し、間引き、その絶え間ない繰り返しの果てに、ついにヒト種が生まれた。


 例えば、大型でたくましい種、小型で手先が器用な種、華奢でとがった耳を持つ長命種、鱗を持った体の種、そして、ニンゲンの原型になる種。


 だが、それらヒト種は生存競争のために熾烈な争いを始めた。特にニンゲンの原型種は弱かった。自然淘汰寸前まで追い込まれるほど。


 ――ど、どうしよう……。このままじゃニンゲンの原型が滅ぼされるかも……。地球史ではそうならず認知の力で逆転したけど……。でも、それじゃあ、ほかのヒト種が……


 神は悩んだ。しかし、リカは善良だった。神としては致命的に甘く、人としては限りなく正しい。だからこそ、神であるリカはこの争いに介入した。


「健やかにあれ。争わず、奪わず、ともに生き、栄えるがよい」


 地球ではニンゲンの原型は「見えないもモノを認知してする能力」を獲得し、団結することで他の種を駆逐してまわり、地球の支配者になった。だが、リカにとって駆逐してよい生き物など存在しない。ニンゲンの原型だけを贔屓することなんてできなかった。


 なら、すべてのヒト種に認知の力を与え、神託を与える、それは平和を愛するリカにとって当然の帰結であった。そして、ヒト種は火に水をくべたように争いをやめて、神の声に耳を傾けた。


「よかった……」


 だが、このままではすぐに争いが起こってしまう。強いものが弱いものに攻撃する。まずはその構図を取り除こうと、リカは考えた。最もわかりやすい尺度、“力”。

 その差を埋めるのに使ったのが、地球にはない技術。魔法であった。

 身体能力の高い種には魔法適正を低く、逆の種は高く。すべての種が使えるが、力を平準化するように魔法体系を創る。

 リカは絶えず、人々に声をかけ続けた。争わず、奪わず、互いに助け合う。種族の差は個性に過ぎない。優劣ではない。

 そして、声は聞き届けられた。長きにわたる呼びかけにヒト種たちは応じ、これまでの遺恨を許し、それぞれ手を取り合った。

 これが惑星メタリカを一つの国とする理想郷「人間の国」の誕生であった。

 誰も傷つけられない、平和で平等な世界。

 だけど、リカはこの国の致命的な欠点に、まだ気づいていなかった。


 そう、この国には


 “欲”


 がなかった。


 つづく

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