はやおし
(困ったなあ…これ、正直に言ったらコタツと戦争じゃないの?)
トキトが責任から逃れられる要素が確実にゼロ。
完全にお前のせいだよ。
そう言われてるに等しいわけだ。
当たり散らせる隙間もありゃしない。
「スージツ前から、魔力とも怨念トモつかないモノが、川の水に混ジッテ流れるようになって、怖いと言っているデス」
「んー、ここはちょっと、翻訳しないで聞いてほしいんだけど」
「ナンでしょうか?」
「原因私だって言ったら、そいつら怒るかな?」
「ショージキですねトキトサマ…サグってみます」
言って、水中のヴェルグルと会話してるヴェルグルが、なにか合図する。
主なやりとりはテレパシーなんだろうか?
あと、微妙に近寄ると耳に何か感じるのは、こいつらの会話に関わる何かか。
イルカの超音波で話をしているような感じの。
「悪魔の侵攻が確認デキないなら、そのまま帰るとイッテます」
「毒を流しやがって!殺すまで追い詰めるぞ!みたいな姿勢では、ないのね」
「基本的に、人間と敵対したいワケではナイノデ…ソレに今の王様はオンケンハとキイテます」
「よかったぁ…じゃあ適当に、敵じゃないことだけ強調して帰ってもらおうか、よろしく!」
思ったより、すごく使えるヴェルグルがいるものだ。
理解力があるなら、安心して任せられる。
どこかの脳筋とは大違いだ。
落ち着いてみていると、ヴェルグルは思いのほかかわいく見えてくる。
それなりのオシャレは心得ているし、無駄に胸を張ったり、コロコロ表情が変わったり、見飽きない魅力がある。
この困って頭を抱えている表情も、また何とも言えないまったり感が。
ん?
「…何にもないよね?」
話の通じるゆかいな仲間に、私は一任したのだ。
まさか。
「ナニカ、王様が納得するオミヤゲが頂けると…」
「その程度なら、海で見ないもので何とかなるんじゃないの?」
それほど、難しくないだろうと気楽に。
「そ、そうでスカ」
また会話に没入。
また何か得意げに胸を張ったり、驚いたり、楽しげだなあと眺めているトキト。
「どう?」
一息ついた、水に入ってないヴェルグルから経過報告を聞く。
「…エット…」
得意げに笑って会話していたんだし、ここから攻撃されたりはすまい。
「魔王を人間側で倒すのナラ友好関係を結ブということになりマした」
「うんうん、殺されたいかなクソ小人」
満面の笑みのトキト。
私のことを言いおったか?殺すって?
「アト、国宝を譲るコトでワレラに手は出さないと」
「どっから出てきたその話」
「サイショの敵対行動に関してハ、見逃す代わりにワイロクレ…とも…」
「これ帰ったら、お前は無事じゃすまないとわかっているな?」
「……ハナシちゃんいまシタ、変な水流したのがトキト様ダト…」
「交渉大失敗だねえヴェルグルちゃん」
ずっと、凍ったようにニッコニコの笑顔は崩さない。
内心が見えているなら、絶対トキトに話しかけないだろう。
この世にいる誰でもだ。
どうしてくれようか、こやつめ。
水から、それぞれ上がってくる。
頭の差があって言いくるめられたのか、あいつらがあくどいと言うほど強欲だったのか、単純に小人が馬鹿だったのか。
任せたのは私だ、後悔はすまい。
後で見てろよヴェルグルども。
「では、お手からですかね」
「……わん」
なお、水辺から視点を、人間側に戻してみれば。
レイお嬢様が四つん這いで犬の真似をしていた。
何が…。
ただ、関わったら負けな気がする。
ユウリ、そいつと幸せに暮らせよ。
「と~いうことで!こいつらの適当なお土産をみんなで考える会にお集まりいただき、今日も誠にありがとうございます!」
「…不思議なノリで騒ぎ出すわね急に…」
ウブは企画番組のノリを知らないのだから、仕方あるまい。
「…がんばります!楽しくします!」
変にやる気を出しているカナと。
「クイズー」
「モヤットー」
「ガッテーン!」
「ダンスデー」
「アフロヲー」
「デカク!シロー!」
馴染みすぎのヴェルグルが、おかしいんだ。
ユウリとレイは、別の世界に行っているようなので置いてきた。
実質、種族の存亡をかけた戦いを避けるか始まるか…。
それがカナ、お前の両肩にかかっているんだ、頼んだぞ。
「シンサインはー、こちらの五名のミウノコタツのカタガタ!」
「ハナセませんガ、チャンと聞こえて点数も出セマース!」
思いもよらない方向にしっかり形になっていやがる!
そんで進行の水に浸かってたやつがしっかりバニーっぽい飾りしてる。
さてはお前ら、プロかよ。
ヴェルグル、そういうときだけは働くのな!
「と、ということで…海に住んでる輩には貴重品だぞ!価値があるぞと言うものを出して、いかにも国宝級だとだまして帰らせるという特大ミッションです」
「のっけから当人たち目の前に騙すってワード使ってるけどいいのそれ…」
「気付かせるな!こじれる!」
ウブ、お前には一片の期待もしていない。
邪魔な一言だけは言うな。
たのむ。
「ではスタート!」
「カツオブシー」
「アルアルアルアル!」
「バカパクー」
「スーパーヒトシクンデー」
お前らにも天才的な知識は期待してないからなヴェルグル。
「海にないもの、で、考えるといいんです?」
「そうなるなあ、できれば見たことないやつで」
「干し肉とかでいいんじゃないの?」
なるほど、干したものは確かに海では見つからないな。
騙せるか?
「オットオ、三点、一点、五点!コレハ低い!」
「めっちゃ辛口でやってくるじゃん海のやつら!」
ちゃんと反応してるのむしろ面白くなってくるからやめてくれるかな?
「私は、もうねえ、揃えて持ってくるの面倒だから、木の置物とかイカダじゃダメなのって思うくらいに考えてるんだけど」
「ア~、二点二点二点、評価ナシ!厳シィ~点が並ビマシたね~」
「案外むかつくなおまえら!!」
唐突に始まった大喜利は、想像よりもかなり難航する。
宝石合計8
鉄合計18
弓合計4
服合計20
草合計1
種合計23
愛情合計3
ヴェルグル合計0
厳しいのと、ちょっと緩いのが真っ二つ。
あと、なかなか騙せるかどうかの境目にも行けない。
てごわい。
「ドサクサニ、ワレワレが売ラレヨウトシテイルゾー」
「ウッタエルゾー」
「ゼッタイオスナヨー」
「えらいな、ちゃんと気付いたか」
「…さすがに、知能なめすぎじゃないかしら…」
「いやいや、こいつらとの付き合いが長くなったら、こんなもんじゃすまんぞウブくんや…」
「何なのその口調」
しかし、本当にどうしたものか。
やらかした上に機嫌も取れないのは、さすがにトキト自身のプライド的にもよろしくない。
意味自体はないが。
「どぉ…しよ…もう丸い石を地球儀だって騙すくらいしか思いつかないよ…」
「騙すが前提なのが思いつかない理由なんじゃってだんだん思ってきたわ…わたし」
「…では、そろそろ私の出番でしょうか」
「「変態だ!!」」
「ユウリです」
ウブとトキトの漫才めいた何かに、内心少し戸惑いつつ、そろりと割って入るユウリ。
真剣に考えすぎて、もはや石と化しているカナを横目に、何か自信ありげな態度は興味をそそる
。
「ひとまず、談笑でもしながら心を落ち着けるほうが、いい考えというものは浮かぶものです、トキト様」
ふんわりと笑う。
「敵意がないと見せて落ち着いて食事をする時なら、暗殺に手を変える場合でもそのままで可能ですし、ね」
「想像以上におまえ、強烈なキャラしてるな…」
「愛というものは女を強くするものと昔から決まっているものです」
流れるようにトキトの口に人差し指をさっと指し、ユウリは楽しそうな表情で支度を始める。
準備、とは言っても、基本は指示と表現するほうが正しいものである。
「はぁい、皆様よくできました」
ヴェルグルが、転移空間からいくつもの樽を運び入れてくる。
見た覚えが全くないものだ。
ただ、前の世界で見知った樽とは違い、固定のリングは明らかに鉄ではないモノっぽい。
そしてその、さらにすぐ後ろからは。
「……まだ動いてるんだね、その魔法生物」
四本足の、見た覚えのある作り物が、荷物を持って姿を見せる。
「そのうち、いなくなるものなのですか?この子たちって」
「知ってるものは、バッテリー切れで内部の魔力使い切ると砂みたいになった記憶だけどねぇ」
たぶん、知らずにたまに触って、ユウリの生命力か何かが注がれているのだろう。
よりにもよって無意識で、トキトの吸収能力を防御し、さらに制御して見せたエネルギー制御の才能持ちだ。
そのユウリなら、供給も何らかの形で発現させていても納得はしてしまうだろう。
ありえないレベルの異常さと前置きはあって、だが。
「かわいいので、できればずっと大切にしたいものですね」
「…かわいいかなぁ…?」
あの場所の作成意図を辿ると、たぶん、もれなくこいつら殺戮を意図した兵器だ。
トキトが余計な介入をした結果、こうして持ち出されたり意図しない動きもしているようだが。
あのまま放置して何が行われていたか、冷静に考えると、この国の状況からしても恐ろしい。
何か起きても、現状トキトの手に負えないこととはなるまいが。
「あの、ちょっと…」
「ウブ君どうしたね、ちゃんと新しいもの考えてるかい?」
「…あの人たちの目、怯えてるっぽいけど」
「ソノカイブツ、見たことないけど何をスル気だって、二人水中に戻ってイッテます」
「ま、怖がるわなあ」
「かわいいのですが…」
説明は、ちゃんとした。
の、後。
「…お酒か…」
特殊な水。
なるほど、確かに水中生活だと混ざるから、基本なじみがないものかもしれない。
「私が昔聞いた、海の人と恋する女のお話でも、気に入っていた語りがありましたし、好感触は得られますかと」
「うちらで酒飲みなんていなかったと思うのに、よく持ってたなぁユウリ」
「特産のもので、家によく納められているものは差し上げるべきと思いましたので、取り急ぎ運んだものが役立つのはこちらもびっくりです」
「ユウリの来た理由も、実際謎なんだけど…?」
言いながらコタツたちを見る。
もう完全に出来上がって、宴と言って差し支えない。
これでダメと言われたら、もう弾き飛ばして消すこともやぶさかではない。
そこに、さらにの、この一言。
「誘拐事件の、本格的な決着に向けて、ですわ」
とうとうきたか、と、トキトはドキッとした。
【登場人物紹介】
トキト
異世界から転生して、その名で呼ばれている女の子
だいたい二歳か三歳と思われるが、魔法により基本は年頃の女性に変化をしている
前世は「近藤 まる」、さらにその前は「ナノ」という名であった
ヒメ
国王の実子ながら、王家のとある儀式に失敗したためか幼くして国外追放
その後唐突に連れ戻された末に継承権放棄の書面にサインさせられ国政から永久追放
あげく拉致されて国外に奴隷としてさばかれる直前まで来ていた王女
という何気に重い過去を持つ女性
当人はそれをさほど気にしていないので割と明るい
トキトと何気なくかわした「約束」がヒメにもトキトにも大きな転機を生む
刷り込みのようにトキトが懐くのは、トキトの肉体の記憶にはヒメに育てられた記憶が大半のためらしい
トキトに手を出したり傷つけるものは何人たりとも許さない構え。
ナイン
貴族令嬢誘拐の一連の事件以降トキト、そしてヒメに同行するようになる女性
ヒメより見た目は少し年上
ヒメのサポートをよく行っていて「ですので」が専らの口癖
警戒心が強く、よく他人を怪しんでいるが、怪しいのは常にお前だ
カナ・シーナ
貴族令嬢誘拐の一連の事件以降トキト、そしてヒメに同行するようになる女性
安易な鬱設定!の宝庫
当人の性格そのものはさほど暗い性格ではないが、トキトによく殴られる
ただ、常に控えめで、下手に出る性格ではある
妹がいて、名前はタノ
ウブ・キツカ
貴族令嬢誘拐の一連の事件以降トキト、そしてヒメに同行するようになる女性
正義感が強いが粗暴で、さらにそれを表にはあまり出さないのが持ち味
いわゆるツンデレ
傭兵家業の血筋を自称していて、武器の扱いにたけている
レイ・イバヤク・クアヤ
誘拐事件の実質首謀者とされクアヤ侯の元から拉致された一人娘
上流階級のプライドと作法、顔の広さでは誰にも負けない自信を持っているらしい
数々の恨みとばかりに人災天災を問わず襲い掛かる苦難の果てに彼女の明日はあるのか
マホ
国営大図書館の司書
趣味は防犯トラップである疑似空間の静かな環境で本を読むこと
トキトやヒメと出会ったことで自堕落なお役所仕事を改める気になっていくらしい
ユウリ
貴族令嬢誘拐の一連の事件で最初にトキトに魔力を吸われたのが彼女である
それによって何かに目覚めた
らしい
ミウノコタツ
海中に王国を作り特殊な文明を築いている知性体種族
触手のようなものが頭から生えている以外はすこし身長が違うくらいで人間と見間違う容姿をしている
ただ、乾燥に弱く、水中でしか発声ができず、性別は存在しないという身体特徴を持つ
トキトが川に流す工業排水によって人間と遠巻きのスタンスを転換することとなる
地上には団長プラナルフ
続いてデハイナ、トゥーマ、ノテスデとクハスデの姉妹?を主に使節として派遣している
ヴェルグル
謎の多い小人の種族
繁殖期になるとおおよそどんな動物とでも繁殖できるが女性のヴェルグルしか子供は生まれないという
その一代だけ強く親の能力の影響を受ける特性と生物としての特殊さからお互い人と距離を置くことが多いようだ
トキトたちのそばには十二人の集団が一緒に生活している
全員が同じ集落から人間にさらわれ、トキトとヒメに助けられたことで、それなりの恩を感じているようだ
食べ物の誘惑(とくに呪霊樹の実)にはとにかく弱い
リーダーの名前はシタニ
以下 ノマニ タコビ テイ イツ ワレ チデ ラハ カテ トタ ナッ スヨ の順に群れの地位が高い




