おちょこ
「さぁて、やってやろうか私の本気ってやつを」
腕をまくって気合十分。
頭の中には、三分でクッキングしてしまう奇跡の音楽が流れている。
私は恋する少女!
私は女子高生!
私は近藤まる!
今日だけはアレを忘れて…。
前の世界で結局一度もできなかった。
バレンタインをやってのけるのだ!
数日前。
「カカオ…聞き覚えのない食べ物です」
マホに一応聞いてみた。
「そりゃそうだよねぇ」
同じ名前の植物が都合よくあるとは思っていなかったさ。
代用って言っても、何があるかね。
黒い食べ物ならってそんな妥協、トキト改め過去の記憶の再現に生きる近藤さんが許してくれないぞ。
要は、私なんだけど。
「そういえば、図書館の本の回収ついでに、今日、専門家の先生から化石みたいな食べ物いただいたんですよ」
「あんたは小間使いみたいな仕事してるのね…それは別に興味ないから、今日はもうそろそろ…」
「まぁまぁ、私も怖いもので、よければ一緒にお毒見しましょうよトキト様」
「強引だな…」
あまり食い気に走るイメージではないのだが、マホがこんなことを言い出すとは。
よほど一人じゃ食べる気のしないヤバいものなんだろか。
喉ごしのいい粘液を毎度のようにふるまわれ、これ以下ってなんだよと思いながら。
出てくる食べ物とはいったい?
「て、これだよ!ほぼチョコじゃない!」
「これをトキト様お好きなんですか?」
「いや、ちうーか、君、様付けだっけか私に対して」
「あんなものを一杯頂いて、ちゃん付で馴れ馴れしくもできませんですわ」
お守りか。
マホが直接つけてるのが見えないし、どこに渡しているんだ君は。
「そんなのはどうでもいいんだ、これ売ってるところ教えて!」
「え…はい…」
あったよ!この世界チョコあった!
この国の特産物ではない、結構遠いところのものらしかった。
先生とかいう人が、長く冒険していたころに手に入れたものだという情報がマホから入手され。
名前はムガコレカ。
食べ方がよくわからず、食べる習慣は全く広まっていない食べ物なのだとか。
そんなものなのか。
思えば私も、詳しく知らないぞ作り方。
この森のため込んだ魔力をつかえば、少しは無理できるだろうから遠くの街に一度飛んでみるか。
オールドロード。
そう呼ばれる外国の、交易の大動脈があるところに。
国内だけでなく世界地図を入手し、決死の転移を決行!
なお、甘いものを入れないと苦いのは覚えていたので、アホかってほど甘い呪霊樹の実を、買ってそのまま混ぜる実験のためにバッグに入れて持ち込んでいる。
あと、意外と出回らないので高い可能性があり。
誘拐犯追跡の件でもらったナインのバイト代も巻き上げて持ってきている。
何度も行き来はしない。
死んでも怖いから。
「おうおう、いい具合にここは人がいるじゃないの」
言葉がちゃんと通じるといいけど。
オールドロード沿いの、市場がある中継地の街にトキトがたどり着く。
何か思い出すくらいの人の数!
人の活気!
こっちも、なんとなくワクワクしてくる!
そして、言ってることも大体わかる。
けっこうな広域の公用語が自分のいた国で採用されていたようだ。
ありがたい。
「そして屋台を回るのが、やっぱりいいのかな?」
ムガコレカ。
できればバッグに入るだけ欲しい。
しかし、やはりどこでも、あるわけではないらしい。
「奥さん、あれがそんなに欲しいもんなのかい」
とある店でいぶかしげに聞かれた。
「このバッグに入るだけ、どうせなら持ち帰りたいかなぁ」
そう、開いて見せる。
「それ、中に入ってるのは随分たくさんだが、なんだい?」
「呪霊樹の根っこの実だよ?甘いのだとこれがちょうどいいカナって」
「……お嬢ちゃん、そういう冗談は自分で店だして言うものだぜ、ははは」
む?
むっかり。
「じゃあ一個あげるよ、臭いきついけどちゃんと甘いんだぞ?」
いろんな植物や野菜を取り扱ってる人だ。
食べるか切ればわかるだろう。
すると、店の人の目が変わる。
「…本物だ…しかも枯れてすらいない、こんなものが見られるのか…お嬢さん、それはどこかに売るためにもって…」
「いやもう、ムガコレカに混ぜておいしいか試したいから持ってるんだけど」
嘘じゃないだろ、満足である。
「それ、言い値で買うぞ、お嬢さん!ほかの店には、持ち込まないでくれ!頼む!」
「んえ?」
突然の豹変。
一時間もする頃には。
バッグの呪霊樹の実が、同じ体積の宝石に変わっていた。
出所は言えない、どっかの王都の直轄地だと一応言ったら、青い顔になってどんどん宝石が増えたのだけは覚えている。
今でも、飲み込めない。
そこのおじさん、そのあと、売ってる店も見つけて、わざわざ米俵くらいのムガコレカを持ってきたり、とにかく、何か、媚びてくるくらいの対応をしてきた。
まあ、犯罪じゃないならいいけど。
悪いことをこの町ではしてないよね?
私はちょっと不安になった。
が。
お土産もできていい所だ。
盗まれてもなんだしと、一度帰り。
ナインに宝石を適当に投げつけた。
ナインが、柄にもなくおろおろしていたのが忘れられない。
そして、作成開始。
呪霊樹の根っこの実はまず煮て、刺激臭を取れるかやってみる。
量はあるので、そこからムガコレカは鍋にある程度入れ、何なら後ですりつぶす方向に。
そういえばミルクチョコってよく見たな。
近くの村でミルク買ってこよう。
それも、だばあ。
大味だが、やり直しはきくしいいだろう。
そして出来上がったものだが。
「…割とチョコ」
後味が違ったり、なんか舌にチリチリするものがあるが、だいたい同じ味がする。
固めるのに、何か必要なのか、そういえば知らないので。
とろみをつけるのに調味料を少し。
味が変わったのでムガコレカ増量。
甘味が欲しいので、ミルク増量。
ザラメに極めて近い、砂糖っぽい、読めない粉も混ぜる。
甘い。
そうしていって。
「だいたいバレンタインチョコ!完成です!」
夜になったが。
私の頭の中タイムでたぶんバレンタイン!
間に合って万歳!
鍋三つ分くらいになったので、冷まして固まったのを見て、みんなに配った。
ハートの型は何とか楽に作れたので、覚えたての文字で「好き」とこっちの文字の試し書きを変色した薄い色のムガコレカでちゃんと書いた。
夕食後になったが、それをみんなに配る。
「え…ムガコレカを私に…?」
ナインが微妙に手を震わせている気がする。
私の腕に、不安がそんなにあるのか。
食べられないものは使っていないぞ。
そしてみんなに。
バレンタイン義理チョコはいくつあっても困らないのだ。
ヴェルグルにも、あまりに量が多いから配ってしまう。
「ソンナニワタシをタベタイノデス?」
「いゃ、それを食えって言ってるだけだぞ?小人ども」
反応が特にヴェルグルはやばい。
なんだと思っているんだ。
「…こんなものを私にくれるなんて…トキトちゃん…そんな…大人になっちゃって…その…」
「んん?」
すっと近寄って来るヒメ。
うれしいのは伝わるが、何?
「いいよ…」
なにが。
なにが!?
「ちょっと!私を何だと思ってるの!?こんなので私をどうにかできるように思ったら大間違いよ!!!」
真っ赤になって、貰った瞬間逃げるウブ。
みんな一体何だ。
劇物でも配ってるようじゃないか。
もろもろ、みんな様子も反応も、微妙。
そして最後にマホ。
一応な。
「あ、あの…トキト…様…」
「なんじゃいな」
もう不機嫌のほうが上回っている。
「これ…ムガコレカなんですが…」
「味見したけど、ちゃんとチョコだったよ?甘いんだよ?」
「これ、この国で一二を争う、強壮剤で…」
「んん?」
現実でも過去そういう用途として服用されていた時代はあるらしく。
「これを相手に送るというのは、その…私の場合は珍しいものと前置きされてでしたが、ふつうは、この国では…その、即物的に、ナニがしたいって意味で…みんな受け取って…」
「えっ」
その日の夜、トキトの王都の自室に紙が一枚置いてあり。
トキトの姿を数日誰もみなかった。
さがさないでください。
そう書いてあった、という。




