2:魔法使いは変人とされている
昔、地球上に隕石が衝突した。
一つや二つではなく、サイズを問わなければ数えきれないほど無数に。
世界中に降り注いで甚大な被害をもたらし、人類の半数を死に至らしめた。
それから世界の常識は変わった。
地球環境の汚染。外敵である“ムシ”の氾濫。そして魔法使いの出現である。
現在の地球には人が立ち入ることのできない“不侵領域”がある。あまりの被害と変化から、そもそも今もまだ地球が存在しているのが奇跡だとさえ言われていた。
住む場所が変わり、司法が変わり、常識が変わった。
それでも人類は生活を続けていたのだ。
「今年の1年はレベル高いな……」
話しかけられた篠ノ原想太は不思議そうな顔をした。
教室に辿り着き、自分の席に座った途端、前の席から振り返ってくる男子生徒がやれやれと言いたげな顔で発言している。
金髪で縁なしの眼鏡をかけている、見た目はかっこいい男子生徒だ。
話しかけられたから、というだけの理由で想太は返事をする。
「魔法の話?」
「違う。見た目の話」
「だと思った」
「う~んいやしかし、先輩に同級生に街で見かけた人ときて、もうこれ以上はないんじゃないかと思ってたのに、いるところにはいるもんだなぁ」
文吉は言いながら手元のノートに何やら書き込んでいる。
彼の趣味は人間観察。容姿・性格・家庭環境・過去の出来事・魔法の有無まで全て独自にデータ化し、自分なりの評価を下すこと。
それで付き合い方を変えたりすることはない。ただ知って記すだけ。
文吉は他人に興味がない。
自身の感性でデータ化することを喜びとしているに過ぎない。
あくまで趣味に過ぎず、そのデータを生活に活かすつもりなどないのだ。
そうと知っているために想太はあまり興味を示さない。
基本的に何を言っても自己完結する勝手なやつ。文吉についてそう思っている。
「日本の未来は明るいなぁ」
「見た目だけでそう思う?」
「お前はわかってないな。モテるためには見た目が大事なんだぞ。人は見た目じゃなくて心が大事なんて言うがその心の中でそう思っているとは限らない」
「A組の三上は幼馴染を振って3年のイケメン魔法使いと付き合いだした。頭が悪くて喋りも大して面白くないが顔だけはいい男だ」
「それはそれで事情があったんじゃ……幼馴染だから色々知り過ぎててそういう対象として見られなかったとか」
「ところがその幼馴染の男はちゃんと好意を伝えてたしスカしてもいない。先に告白したのにきっぱり断られた。理由は一つ、太っててブ男だったからだ」
「そんな限定しなくても」
文吉は人間観察を趣味とする一方、人付き合いがしたいとは思っていない。
恋人も友達も欲しがらず、観察対象がいればいいと豪語しており、それが強がりに聞こえず本当に思っているのだろうなという態度をいつも見せている。
従って他人に対する気遣いが欠けており、常に思ったことだけを発言した。
「結局はそんなもんだ。三上は長年の情より顔だけの男を選んだ。その事実だけは金輪際変わることはない」
「顔だけかどうかっていうのは……あー……」
「俺のリサーチが正確なのは知ってるだろ? なんなら一緒に見に行くか?」
「いや……やめとく」
想太は文吉の執念深さをよく知っている。反論されたところで意にも介さず根に持たないが、自分が知りたいことはどんな手を使っても徹底的に調べ上げる。
弱みを握っても脅迫には使わない。だが気付けば息をするように知っている。
そういう男だ。だからわざわざ確認しに行く必要はない。
文吉は今の会話もまるで気にしていない様子でノートのページをめくり始めた。
すでに興味の対象は移っている。
会話が弾むかどうかは一切考えない。
「今年はすごいぞ。A組の石田、B組の涼宮、C組の藤野と、この三人が1年の花として崇め奉られるだろうな」
「そんな神様みたいな」
なんだそりゃ、とは思いつつも、きっとそうなっていくんだろうなと想太も納得している。
毎年がそうなのだ。一部の生徒だけがもてはやされていた。
特別に際立って美形である生徒は男女を問わず注目されている。
今の3年生は四天王。
2年生には五人衆が存在する。
どちらも生徒たちが勝手に言い始めたことだ。
文吉が動かずともきっともう噂になっているだろう。
また新しい呼び名が考えられるまで時間の問題といったところか。
「しかも全員が魔法使いだ。持って生まれた魔法も面白く、強い。見た目だけじゃなくこの三人が年度を代表する生徒になるだろうな」
「そういうの予想するの好きねぇ」
文吉は当事者になることを望まない。ただ眺めているのみ。
そういう楽しみ方もあるのかと学びはしたものの、彼の態度を見ると呆れることが多いせいか、想太は大して憧れてはいなかった。
「ギョーザいかがですか~」
「おはよう竹長さん」
餃子の被り物をして頭部が餃子になっている女子生徒、竹長が声をかけてきた。
彼女は自分の席で餃子を焼いてクラスメイトに配る。
ひとえに彼女の魔法が“餃子”であるためだ。
いつもの風景である。
「今日の中身は?」
「豚と白菜とレンコン! おいしいよ~」
「三つちょうだい」
「俺は六つ頼む」
「まいどあり~!」
竹長は嬉々として彼らに焼き餃子を渡す。
自ら紙皿と割り箸とタレを用意して、お金は受け取らない。あくまで彼女が食べてほしいからやっていることだ。
彼女がいるから毎日の朝食を餃子にしている生徒もおり、箸と皿を持参している生徒や他のクラスから駆け付ける生徒もいる。
1年生の頃から目立っていて、今ではすっかり当たり前の光景。
教室内では餃子を食べる生徒が多かった。
もちろん、毎日餃子の香りがすることに辟易とする生徒もいる。
そのため“消臭”の魔法が活躍するのである。
魔法が当たり前に使われている光景。
風を生んで換気をしたり、直接服や室内から匂いを消したり、餃子を生み出して持参したホットプレートで焼いたり。
当たり前に受け止めていたが考えてみればおかしいのかもしれない。
いつものように餃子を食べながら改めて冷静に考えてみる。
魔法は便利だが、魔法使いは変なのかもしれない。
想太はしみじみとそう思った。
「今日、後輩の女の子が魔法使いは怖いみたいなこと言ってたけど」
「佐々木ヶ原雫か。魔法使いじゃないなら無理もない」
「なんか……気持ちわかった気がする」
「今更か。お前もその一人だけどな」
呆れて言ってくる文吉に想太は、失礼な、とだけ思った。
魔法名:餃子
餃子を生み出すことができる。
焼いた状態の餃子を生むこともできるが味が落ちるため、手ずから焼いた方が美味しい。




