第5話 世界の創造(上)
「ノア」という名を得た少女は、体の中でせめぎ合う白と黒の聖刻が、渦巻く流れとなって全身を駆け巡り、活力があふれ出てくるのを感じた。
もはや聖刻の源から要素を得る必要がなくなり、1の聖刻である彼女はある役割を知ることとなった。
「わたしは……真・聖刻、次の世界を創る者」
そうつぶやくと、彼女の光を飲み込む黒い瞳の奥に無数の星の集団を囲む、極彩色のガスの輪が見えた。
広大な闇の空間に浮かぶ星団の中心には強烈な光と熱を放出する太陽があり、ワースメーカーたちの星々を照らしていた。
「ここは……創造の間なのか?」
目を覚ましたロマーは、無数の星が瞬く宇宙のただなかに浮かんでいた。変わり果てた環境に目を大きくしていたが、ニヤリと笑い、まだ寝息を立てているマリエの肩を揺すって起こした。
「マリエ、俺たちの次元が上がったぞ」
ワースメーカーにとって、次元が上がるということは、それだけできることが増えるという意味を持つ。基本的に、創造物は創造主よりも低い次元になる。
それとは別に空間の次元もあるが、あまり深く考えず、Aの次元とBの次元が一緒にいると相性が悪いくらいに考えてもらいたい。
マリエは目覚めと同時に脳が覚醒し、無数の小さな星に囲まれた闇の空間が「舞台」であり、星の一つ一つが各ワースメーカーの世界だとすぐに理解した。
その中でひときわ浮かび上がる白いノアのシルエットを見つけると、安堵して髪を整え少女の隣に立った。
ノアの顔の前には直径5リット(20cm)ほどの白い靄に包まれた冷気を発する球体がゆっくりと回転しながら浮いている。集中しているのか、ノアはマリエが来たことに気が付いていないようだ。
「雰囲気が変わったわね、安定してる」
「うん、わたし真・聖刻になったの!」
「真・聖刻?」
ロマーに視線を向けるマリエ。
「俺に聞かれてもわからんぞ」
お手上げのジェスチャーをしながらノアを挟むようにロマーが隣に立った。彼は顎に手をやり球体を指さすと「だが、コレのことならわかる。地球、これから俺たちが創り上げる世界だ」と名を与えた。
ワースメーカーが生まれたこの空間、創造の間の熱量が上がった。以前は音もない静寂の空間だったが、いまでは数多くのワースメーカーが活動し話し合い、活気のある場所となっていた。
新たな舞台を前に、多くの失敗と経験から得た教訓が彼らにさらなる創作意欲を与えていた。
それとは対照的に、上空の聖刻の根源に激しさは無く、役割を終えたかのように静かな揺らめきをもって漂っていた。次の時代を担うワースメーカーを静かに見守りながら。
「いいねぇ、盛り上がって来た。俺たちも負けてられんぞ」
ロマーは聖刻の要素を取り出すと、丸い体に手足の生えた「生物」を創り出し地球に近づけた。それはしばらく地球を周回していたが、排水溝に飲まれる水のように回転速度を上げ、地球へと吸い寄せられながら小さくなり落下していく。
凍てつく地表に衝突した小さな生物は、消滅することなく体を維持したが、その寒さゆえに凍り付き活動を停止させた。
「わたしも!」
楽しくてしかたがないといった様子で、ノアが地球に手を差し込む。すると、勢いよくすすった麺のように、一瞬にしてスルスルと吸い込まれていった。
「そんなふうになるのね……」
余りにも奇妙な動きにためらいながらも、マリエがノアの後に続く。
「これをノアが創ったのか……次はいったい何を見せてくれるんだ?」
ロマーは懐かしさを感じながら創造の間を見回し、「じゃあな」と手を振って地球へと落ちて行った。彼にはわかっていた、もうここに戻ってくることはないのだと。




