第4話 名
「この創造の間を見てみろ、俺たちが生まれる前から存在している。つまり、生まれるには舞台が必要ってことだ。嬢ちゃんたちがやってたことは、順番が逆だったわけさ」
そうロマーは二人に説明した。
「舞台ってどうやって作るの?」
新しいことに興味津々の少女は、手を伸ばしてさっきよりも多く聖刻の要素を掴み出した。
すでに疑問を持っている読者もいることだろう。上空にある聖刻の根源に手が届くのかと。
それは、ワースメーカーにとって距離や空間は意味をなさないからだ。ワースメーカーが届くと言えば、届いてしまう。そういうものと理解していただきたい。
「それじゃ嬢ちゃん……」
自分が呼ばれたのかと顔を向ける黒髪の娘。その様子を見てロマーは顎をさする。
「あーそうだな、これではどちらに話しかけているのかわからんか。やはり名がないと不便だな……」
ロマーは名前に相当する単語が浮かんでこないかと、黒髪の娘を凝視した。近くにいる少女を後回しにしたのは、見ても何も出てこないからだ。
気まずそうに視線を逸らす黒髪の娘から彼女を構成する聖刻の力を感じた。さらに意識を集中させて内面へと潜っていく。
聞く者に安らぎを与える緩やかな旋律と暖かい優しさがロマーを包み込んだ。これがこの娘の本質なのか。居心地の良さに本来の目的を忘れかけたが、我に返り意識を広範囲に広げた。そこで見つけたものは……。
「マリエ……お前さんの名はマリエだ」大きく息を吐いてロマーが言った。
「マリエ、それが私の名前?」
黒髪の娘は、与えられた名を体に覚え込ませるかのように何度も唱えた。すると、今まで気にしていなかった周囲のワースメーカーたちの声が聞こえるようになり、視界が開け意識がはっきりとしていくのを感じた。
「これは?」
黒髪の娘マリエは、突然のことに戸惑いを隠せない。ロマーはマリエを落ち着かせようと、何が起きたのかを説明した。
「名は存在に意味と力を与える。俺たち聖刻から生まれた者にとって名はそれだけ重要ってことだ。精神潜行ができるのも、俺が名を持っているからかもしれん」
だが、さすがに疲れたのかロマーは腰を下ろして額の汗を手で払った。人の意識に潜るのがこれほど精神的に疲弊するとは思ってもみなかったのだ。
「ねぇわたしは!? わたしも名前ほしー!」
少女が両手でびくともしないロマーの腕を引っ張った。勘弁してくれと彼は手で顔を覆い、「1」から浮かんでくる単語を探ることにした。すると、ある単語が浮かんできた。
「ノアだ、お前はノア」
それだけ言うと、ロマーは寝っ転がりすぐに眠りに落ちた。
「えー! もっとちゃんと考えて! 」
少女は不満をあらわにするが、不思議とノアという言葉の響きが体に馴染んだ。




