第3話 知識のロマー
聖刻の根源から新たなワースメーカーが誕生した。生まれてすぐに自分がロマーという名だとわかった。そして、5番目に創られたワースメーカーだということを知った。
経験から得たのではなく、知識が頭の中に入ってくるのだ。そのように自分が創られた存在だと理解していた。
周囲には、聖刻の根源から生まれたワースメーカーが数を増やしていた。彼らはみな、同じように白と黒の聖刻から要素を取り出して創作に没頭している。ならば、自分は何を創ればいい?
ロマーには何かを創り出そうという意欲があまりなかった。創ったところで白と黒の聖刻へと帰っていくだけだと「すでに知っている」からだ。
この空間はワースメーカーのための空間。それ以外のモノがここで形を維持するには適していない。
彼は歩き出した。すれ違うワースメーカーを見れば、それが何番目に生まれ落ちたのかが頭の中に数字として表れた。
さらに目を凝らせば、「冷静」「強固な意志」「慎重派」といった性格的なものまで読み取ることができた。
会話を交わすことで、知識が湧いてくる現象は自分にしか備わっていない能力だと知った。この湧いてくる知識は万能ではなく、ワースメーカーに対して全てを知ることができるわけではなさそうだ。確かに、初対面の相手に全てを知られていては気分が悪い。
そんな中、「1」という情報以外なにも出てこないワースメーカーがいた。白い髪を振り乱して走っている少女だ。何かを追っているのか、ロマーには気が付いていない。
彼女の目線の先には、よくわからない小さな塊が落ちていた。環境に馴染めず崩れた創造物。だが、本来なら白と黒の聖刻へと帰っていくはずだが、なぜか帰らずにいた。
「知りたい」
彼の知識欲が刺激された。顎に手をやり少女が次に何をするのか見ていると、ペタリと地面に尻をつき、崩れ去る創造物を手ですくい嘆いているではないか。
他のワースメーカーであれば無視していたであろう。だが、少女からは今までのような「答え」が出てこない。
これは最初のワースメーカーの特性なのか、それとも知ることのできない個体は他にもいて、この少女が最初の一人目なのか?
へたりこむ少女を見下ろす。これだけ近づいても少女に関する新たな情報は出てこない。声をかけると、顔を上げた少女と目が合った。
光すら逃さない真っ黒な瞳が彼を見据える。この黒さは見覚えがある……はずだが、思い出せない。
彼は知らないという経験がしだいに楽しくなってきた。すでに知っているのと、これから知るのでは期待感が断然違う。常にネタバレされているようなものだ。そう考えれば、彼が現状を退屈に感じることも説明がつく。
遅れて、長い黒髪の娘が合流し少女を立たせると、ロマーに向き直り静かにほほ笑んだ。ロマーの頭に数字が浮かぶ……「3」続いて「均衡」「調和」「保護」といった単語が表れた。それがこの娘を構成する要素の一部だ。
そういえば、俺には知識以外に何かないのか? ロマーは自分の手をじっと見つめてみたが、頭の中には何も出てこなかった。
「あー、知りたいことは知れないんだよなぁ」とため息をついて肩を落とす。
「へんなおじさん」と少女が笑った。
そうか俺はおじさんなのか──あまりうれしくない情報だな。




