第2話 ワースメーカー
「私たちは、アレから生まれたのよ」
黒髪の娘は天にある白と黒の聖刻を見上げながら、少女に言い聞かせた。聖刻、それは万物の源となる摩訶不思議な力の総称で、聖刻の根源とも呼ばれている。
その聖刻を取り出し、自由自在に形を変えて創造することができる存在、それが聖刻の創造者だ。
「わたしたちって、どうして生まれたの?」
少女は聖刻の根源を見上げて言った。
「……創造するため」
黒髪の娘は少女に視線を戻して呟いた。自分たちがなぜ生まれたのかはわからない。わかっていることは、聖刻を使って創作活動を続けるという使命感だけだ。
何かを創ろうとする行為は、生まれた時からワースメーカーに与えられた使命のようなもので、彼らは例外なく何かを空想しては出力する。そうしなければワースメーカーは消滅してしまうからだ。
「そっか」
少女はこの話題に興味をなくしたのか、再び取り出した聖刻を粘土細工のようにこねる作業に戻った。
「そうね」
少女の姿を見て、黒髪の娘も聖刻から要素をすくい上げ、何を創ろうかと思案しながら掌で丸める。
少女が創る物体は千差万別で、どれもが奇妙な形と動きをしているのに対し、黒髪の娘が創る物体は整然として列をなしている。どちらにせよ、生物と呼べるものではなかった。
同じワースメーカーなのになんでだろう。 少女は黒髪の娘を観察し真似をしてみたが、結果は変わらず。
「どうしてあなたのは並んでるの?」
納得がいかない少女は、自分が創った物体を黒髪の娘が創る列の中に置いた。すると、今まで静かにしていた物体たちが一斉に震えだし、白と黒の聖刻へと帰って行く。その様子を目で追っていた黒髪の娘は、何か思いついたかのように少女へ視線を戻した。
「あなたは……黒の要素が強いのかも」
黒髪の娘は、少女が創り出した物体を手に取り「私は白の要素が強いのかしら」とつぶやくと、そっと地面に降ろした。
「えー? わたし白いよ?」
緩やかな曲線をえがく白い髪を前に出して、黒髪の娘と見比べた。「あなたは黒いのに」少女は納得がいかないことばかりだと頬を膨らませる。
だが、白と黒は概念であり見た目は関係ないのだと直感的に理解した。
少女は少し考えて「一緒に創ろう!」と娘に提案をした。黒髪の娘は顔をほころばせ「いいわね」と聖刻の要素を手に取り少女の隣にかがみこんだ。
二人の楽しい創作活動が始まった。少女が創る不定形の物体を、黒髪の娘が調整し安定感を与える。そういった作業から数多くの失敗作が生まれては聖刻の根源へと帰っていった。
どれほど長く続いたかは定かではない。この空間に時間という概念はないのだ。
「けっきょくみんな帰っちゃうんだね」
少女が残念そうに創造物を見送っていると、黒髪の娘が「あれを」と遠くを指さした。そこには、聖刻の流れに帰らずウロウロと歩き回る個体がいるのが見えた。
「すごい! 帰らないのがいる!」少女は興奮して叫んだ。
少女が駆け寄ると、その物体は力尽きたのか動かなくなり、潰れて溶けるように消えてしまった。
「消えちゃったー」
少女がペタリと座り込んで嘆いていると、大きな影が小さな体を覆った。なんだろうと顔を上げると、そこには灰色の髪を短く切りそろえた男が立っていた。
背は高く、体に薄い水色の布を巻き紫の腰帯を締めた姿は、あたかも古代ギリシャ人を彷彿とさせた。
筋肉が隆起するたくましい腕、輪郭のはっきりした愛嬌のある顔。そして、深い灰色の目には知性が感じられた。
「環境の問題だ、そいつはこの空間で生きていくには適していなかった」
男は、今起きた現象をそう説明した。
だが少女には、男の登場の方がはるかに重大だった。少女は男を指さし叫んだ。元気がとりえの少女である。
「わかった、あなたワースメーカーね!?」
「ああ、俺はワースメーカーのロマー。よろしく」
ロマー? 知らない言葉に首をかしげる少女。
「ロマーは俺の名前だ、お嬢ちゃんには無いのかい?」
「名前……そういうのがあるんだ」
少女は黒髪の娘を振り返り目で訴えかけるが、彼女も名を持たないため顔を横に振るしかなかった。
「ねぇ! わたしの名前ってなに?」
「いや……俺に聞かれてもな」
男は顎に手をやり、どうしたものかと短くため息をついた。




