第1話 混沌の少女
ロボットファンタジーTRPG「ワースブレイド」の創世記。
巨大なからくり武者が剣を振るい、秘術が飛び交うロボットファンタジー「ワースブレイド」の世界を独自の解釈で創り上げる「伝承」の物語。まずは、その根幹をなす神話をお聞かせしよう。なに、難しく考えることはないさ。神話なんて誰も知らないのだから。そういうものだと、ただ受け止めればいい。
広々とした音のない虚無の空間があった。その上空には絵具をたらしたかのような白と黒の塊が円を描くように漂っている。
白は穏やかな波が静かに流れていた。一定のリズムで乱れることのないその動きは、人為的ともとれる秩序だったもののように思えた。
黒は渦巻く激流が縦横にうごめいていた。時に緩やかに時に荒々しく、その動きは見えない力によってかき混ぜられているかのように思えた。
両者の境界線では白い波と黒い渦がぶつかり合っては飛び散り、混ざり合いながら互いを引きちぎり、取り込んでは離れて行った。
だが、決して色として混ざり合うことは無かった。水に浮かぶ油のように、黒の中には白い点が残り、白の中にもまた、黒い点が混ざり合うことなく浮いている。灰色にはならないのだ。
いつしか、激しいせめぎ合いの中からボタボタと大きな粒が流れ落ち、白と黒のまだら模様の物体が生まれた。それはゲル状で、柔らかい体を震わせながら手か足かもわからぬ器官を出し入れして、ヨタヨタと歩き始めた。
そんな不定形の存在がいくつも生まれては、白と黒の流れの中に帰っていく。観察していると、白と黒の配分量によって姿を変えていることに気が付くだろう。
白が多ければ安定した形で生まれるが、動きが遅い。黒が多いと、動きは活発だがまっすぐに進むことすらままならない。
奇妙な物体の中に帰らないモノが現れた。それには縦に長い胴体から二本の腕と足が生え頭がある。そう、我々が知る「人」の「少女」の姿をしていた。
白く長い頭髪は軽く波打っており、白い肌をしている。対照的に、瞳は光を吸収しているかのように黒い。
身にまとう白いワンピースは、そよ風に吹かれているかのようにはためき、常に動いていた。その表面を、プロジェクションマッピングさながらに、大小の黒い粒が形を変えながら流れている。
少女は足元で動き回る不定形の同胞を拾い上げると、顔に近づけた。力を入れているわけではないが、少女の指が柔らかい体に沈む。
「きっしょ」
少女は黒い渦の中に投げ捨てた。他の同胞も拾い上げては投げ捨てる。白と黒どちらに投げるかはその時の気分しだいだ。
「変なのしかいない」
そんなことを繰り返しているうちに、あることに思い当たった。この不定形な存在こそが正しくて、自分が異端なのではないかと。不安を払拭ふっしょくすべく、自分が生まれたであろう白い波に問いかけた。
「ねぇ、なんでわたしは生まれたの?」
しかし「お前は先駆けなり」「次代を担う者」「選ばれし者」「終わりであり始まりなり」と、要領を得ない返答が寄せては返す波のように囁かれるのみだった。少女にはさっぱり意味が分からず、不満げに作りかけの物体を投げ捨てた。
「もういい」
少女は白い波に腕を突っ込み、白い要素を掴み出した。同じように黒い渦からも黒い要素を出すと、粘土のようにこねくり回し形を作る。
自分に似せて人の形にしたつもりだが、うまくいかない。立たせてみると、おぼつかない足取りで黒い渦の中へ帰って行った。
「みんな帰るんだ……わたしも帰らないとだめ?」
白と黒を交互に見やって、どちらにしようかと思案していると、「面白いことをしているわね」と声をかけられた。振り返ると、ゆったりとした赤いローブに身を包んだ、長い黒髪に淡く光る金色の瞳をもつ娘が立っていた。
「誰? わたし、あなたのことは作ってないよ?」
少女は手に持った作りかけの物体を投げ捨てて娘の方へ走り寄る。背丈が娘の胸のあたりまでしかない少女は、好奇心に満ちた顔で娘を見上げた。
「私はワースメーカー、あなたもよ?」
娘は静かに答えた。
「えっ、わたしワースメーカーなの!? ワースメーカーってなに!?」




