第79話 D155④
七月六日 二十時
今日も中々の展開だった。
真田十勇士にメドゥーサ、問題点も早目に対処する事が出来て良かったぜ。
俺達は信長を交えて酒を酌み交わしていた。
「真田十勇士とか中々ワクワクする様な展開だな」
「幸村がもっと幼い印象だったが、やっぱりあの見た目でも戦国武将なんだよな、見直したぞ」
「もっと凄いやつらが出てきそうだよな? 信長さんその辺りはどうなんだ?」
「わしが行ってた、五百五十五番目の世界で一緒に【D155】まで辿りついたやつ等は結構強かったぞ。剣だけならわしは全く適わなかった。まぁわしは魔法がメインだから対戦したら勝てただろうがな」
「信長さんが居た世界は、どんな世界だったの?」
「わしのいた時代は、寛永時代と言っておったでよ【D155】に辿りついた数も岩崎殿達を別にすると一番多かった筈だが」
「どんな人達が居たんですか? 」
「強かったのは、柳生十兵衛に宮本武蔵、東郷重位、高田又兵衛、小野忠常、柳生利厳、佐々木小次郎、服部半蔵、松山主水くらいかな? 他も粒が揃っておった。宮本伊織もそこそこやるが武蔵とは比べられんかな? 真田の忍び達も同じ世界からだ。あの世界は剣も魔法もレベルが高かったと思うぞ」
そうそうたる剣豪たちの名前を聞いて、東雲さんが身を乗り出して質問した。
「その時代のオールスターみたいな感じですね。みんな【D155】に居るんですか?」
「あいつらは、剣を振ってないと落ち着かないやつらだから、毎日手合わせをしておったぞ。同士討ち禁止のお陰で本気でやり合っても当たらぬから、便利がいいとかぬかしておった」
その話を聞いて、達也が素直な疑問を投げかけた。
「そりゃ楽しそうだが、問題はそこじゃねぇだろ。それだけのメンバーで向かって行って倒せなかった近藤が凄すぎないか?」
「何もさせて貰えなかったという感じだったな、金縛りにあったように身体が動かぬうちに武器を取り上げられた。岩崎殿達がどう戦うのかを、武人として純粋に見てみたい」
◇◆◇◆
話がひと段落したところで沙耶香達が夕飯を運んで来た。
「今日はダンジョンで養殖している鰻で蒲焼にしたわよ、蒸篭蒸しも用意してあるわ」
その料理に清明が喜んでいた。
「これは美味しいですね、私の世界ではこのような料理はありませんでした。もし私の世界に戻れる事があるなら、みんなにこの美味しい料理と酒を堪能させてやりたい」
少し泣き上戸の気があるのか涙ぐんでいた。
「でもさ信長さんの前例があるから、もしかしたらアビスワームを使った時間移動の法則を掴めれば、清明さんの世界に戻れる可能性もあるのかもな? 【D1】発現時点とかに戻れれば十分に対処も可能だと思うぞ」
「それは是非研究したい所です。岩崎さんの【G.O】では過去の世界へは辿り着けないのですか?」
「【G.O】では現在現れている世界にしか行けない様だな、入り口を見つける事が出来ない」
「そうなのですか、私なりに探してみます」
「近藤を倒し世界を統べる者との対話が出来れば、謎も解けるかもな」
「今日はこの脂の乗り切った鰻に負けないのは、力強い純米酒だな。この酒は俺的には米本来の旨みを感じる事が出来るいい酒だと思うぞ。ちょっと口当たりが重いがその分鰻みたいな料理にはよく合う」
「うみゃあでよ」
◇◆◇◆
七月七日 八時
今日は百一階層からの討伐で、マイケル達と慶次達に先頭を勤めさせて進んで行った。
この討伐班の三十人は既に全員千五百五十を超えているので、この辺りの階層だと安定している。
ちなみに、信長さん達でレベルは千三百を越えた辺りだ。
迎えた百五層、舞台は江戸城が見える。
中央部分が江戸城とか面倒臭そうな感じがひしひしと伝わってくる。
門の中に入ると、広場になっていて二十人程の人間が打ち合いをしている。
「下の階層に行きたいんだが、このまま通して貰ってもいいかな?」と、颯太が声を掛けた。
「我らを倒してからになるな。当然手抜きはせん。久しぶりの訪問者だから、ちょっと趣向をこらそう。そちらの代表者とこちらの代表者が五人ずつで戦うのはどうだ? 三勝すれば通してやるぞ」
「剣なら私がでます。勝ち抜きにして下さらないかしら、皆さん全員と戦ってみたいわ」
何だか妙に張り切って東雲さんが、手を上げた。
「東雲ってそんな戦闘狂キャラだったのか?」
「俺も知らなかったぞ、まぁ大丈夫だろ? やらせてみよう」
達也に聞かれて俺もそう答えるしか無かった。
「では拙者から参ろう、佐々木小次郎と言う。女であっても手抜きはせぬぞ」
「望むところです」
東雲さんは、正眼に構えた。
対する小次郎は明らかに身長を超えるほどの長さの刀を大上段に構える。
そのまま大上段から、まさに目にも留まらぬ速度で振り下ろす小次郎の攻撃を、一歩も動かず瞬きもせず避けもせずに見た。
「小次郎さん。わざと当たらない位置に振り下ろしましたね、私には見えてますから遠慮はなさらないで下さい」
「ほう、今のを見えたと言うか……これは失礼した。次は当てる」
再び小次郎から仕掛ける。
先程と同じように大上段から振り下ろす、最小限の動きで避けた東雲に、振り下ろした位置からほぼ直角に軌道を変えた剣が襲いかかる。
しかしそれを軽々ジャンプして交わしそのまま峰打ちで、篭手を砕いた。
勝負ありだ。
「燕返し、見事です。最初に太刀筋を見ていなければ私が負けていたかもしれません」
「言うな、完敗だ。初撃でもきっと避けただろ、お前なら」
その勝負を見た寛永時代のメンバーは、一歩歩を下げた。
五名を除いて。
残ったのは、柳生十兵衛、宮本武蔵、東郷重位、服部半蔵、松山主水
「半蔵が残るとはどういう風の吹き回しだ、普段俺達とも全くやってくれないくせに」
十兵衛が半蔵に話しかけた。
「単純に興味が湧いた。初見で燕返しを避ける目に」
「おいから行きもす」東郷が構える。
「おいは一撃にすべてを込める。受けきってみなっせ」
「チェストオオオオォォオオオ」
東雲さんは居合に構えた。
示現流の開祖東郷の剣を避けるでもなく、断ち切った。
刀ごとだ。
まさに居合一閃だ。
「見事」
「素晴らしい一撃でした、敬意を評します」
「次は俺が相手だ。二階堂平法、松山主水と言う」
◇◆◇◆
二階堂平法……二階堂平法は、初伝を「一文字」、中伝を「八文字」、奥伝を「十文字」とし、これら「一」「八」「十」の各文字を組み合わせた「平」の字をもって平法と称した。
「心の一方」と言われる瞬間催眠術のような技もあり、敵を金縛り状態にしたとも言われる。
細川家の剣術指南として細川忠利に剣を教え、柳生宗矩に勝利するほどまでに鍛え上げた話が有名である。
◇◆◇◆
松山は、正眼に構え片腕を剣から離す。
手のひらを東雲に向け、掛け声とともに手のひらを下に向ける。
一瞬、東雲さんの動きが固まった。
その隙きを見逃さず一気に突きを繰り出した。
東雲さんが冷静に構えたまま念じる。
足元に向けて斬撃を飛ばした。
斬撃によって地面を掘り下げ、即席の落とし穴の様な状態になり、動かぬ体のまま刃を上に向け、突いてきた勢いのまま穴の中に雪崩落ちてきた主水を貫いた。
勝負ありだ。
すぐに、ポーションを振り掛け傷を治す。
「まさか、動けぬままに斬撃を飛ばすとはな」
「刃の向いた方向にしか飛ばせなかったので、見苦しい勝ち方になってしまいました。『心の一方』素晴らしいですね、ぜひ私にもご教授下さい」
「まさか主水まで敗れるとはな、俺が行こう。二天一流、宮本武蔵だ」
両手に長刀と脇差を持ち、構えるわけでも無く、だらりと刃を下に向け、ただ立っている。
「私から行きます」
正眼の構えから鋭く踏み込む、武蔵は脇差で東雲さんの刀を撥ね上げる。
まるで刀自身に意思があるかのように、自然な形で長刀が襲いかかる。
その刹那、東雲さんも脇差を抜き放ち、居合から斬撃を飛ばす。
かろうじて避けた武蔵が、両手を縦横無尽に動かしながら攻め込む。
東雲はその尽くに刃を合わせる。
二分ほど打ち合い、お互いに決め手が欠ける。
しかし東雲の刀は『菫改』だ。
武蔵の刀が耐えきれずに折れた。
「参った」
「二刀流の真髄勉強させていただきました。さらなる深淵をともに目指しませんか?」
「面白いな、まだ先があると言うか」
「拙者が行こう『服部半蔵』いざ参る」
いきなり地面にけむり玉を投げつけ、姿を消したかと思うと、三体に分身したかのように見せ、同時に手裏剣を投げつけてきた。
しかし東雲は動かない。
それどころか目を瞑り気配だけを感じ取り、脇差による一振りで手裏剣を三つ同時に叩き落とし「菫改」から斬撃を飛ばした。
その一撃が半蔵の足を切り飛ばした。
東雲が半蔵に近づき、ハイポーションをかけようとする。
「甘いな」
その声と共に後ろに立った半蔵から首筋に刃を当てられた。
「参りました」
「とどめを刺すまで油断をするな」
「肝に銘じます」
「俺もやらせてくれ、今の見てたら我慢できないぜ」
慶次が朱槍を高らかに掲げて一歩踏み出して来た。
「では、相手は俺がしよう柳生十兵衛三厳だ」
慶次は三メートルを超える朱槍を頭上で振り回し初め、じわじわと十兵衛に迫る。
十兵衛は八相に構えたまま、動かない。
慶次が間合いに入った瞬間に鋭く十兵衛に向かって槍を突き出した。
十兵衛は槍を一刀両断しようと刀を振り下ろす「「「ギャギィィイイイイイイイイン」」」と物凄い激突音が響き渡り、その場には折れた刀を持つ十兵衛と、衝撃で槍を取り落してしまった慶次。
慶次は何事もなかったかのように、そのまま十兵衛に突進し殴りかかる。
十兵衛は柔術で受ける。
その後の展開はグダグダで、お互いがひたすら殴り合って、共にひっくり返った。
「強いなぁ十兵衛」
「この馬鹿力が、お前たちの使ってる武器凄いな。俺の刀が折れちまうとか」
この勝負は引き分けだな。
それを見届けた達也が、寛永時代のメンバーに声を掛けた。
「どうする? 俺達と一緒に行かないか? もっと楽しい展開見せてやれるぞ」
「面白そうだ。俺は行くぞ」
そう武蔵が言うと、全員が追随し同行する事になった。
その日は百十層、百十五層はモンスターの中ボスで、TBと雪があっさり倒してしまったので、百二十層まで進んだ。
百二十層のステージは、竪穴式住居が立ち並び文化レベルは低そうな感じだ。
しかし既にこの位置からでも視界に入る神獣たちの姿が見える。
神話に聞く聖獣『青龍』『朱雀』『玄武』『白虎』そしてその中心に一人の女性が立っている。
「私は卑弥呼。あなた方には、何の目的があるのですか?」
かなりの距離があるのに、空から聞こえてくるような声が響き渡る。
「こりゃ綺麗な人だな、神獣を従えてるって事は、テイマーさんか」
「これは……なんだか危険な胸騒ぎがします」
「私もです。順番が回ってくるのが長くなるような予感がします」
「駄目、これ以上は……」
鹿内さん、前田さん、坂内さんの三人が卑弥呼に対して妙に闘志を燃やした。
ひょっとして、俺の一言が駄目だったか?
「私が行きます」
「私も鹿内さんの攻撃をトレースします」
「防御は任せて、攻撃に専念してちょうだい」
勝手に女性陣だけの決戦に決まってしまったようだ。
返事だけは俺がしとこう。
「俺たちは、このダンジョンを討伐して世界を守るのが目的だ。できれば協力して欲しいが駄目かな? 」
「協力が欲しければ力を見せなさい。私程度を止めれぬようでは、この先に進んでも何も為し得ません」
「やっぱりこの展開だよな、鹿内さん頼むね。殺さないでよ?」
「約束は出来ません、行きます」
颯太達は何も言わずに鹿内さん達の迫力に若干引いてる。
「理も色々大変そうだな……」
いきなり鹿内さんがスキルを発動し、このフロア全体を見る間に凍りつかせた。
討伐班の三十人以外は環境適応タイプの防具じゃない為、寒さで震えだした。
味方のダメージの方がでかそうだよ……
更にデバフ能力を開放し、神獣達のステータスを下げる。
そこから一気にヒュペリオン改からあらゆる魔法を乱れ撃ちして行き、一気に詰め寄る。
更に強力な範囲魔法を撃ち始めた。
地形が変わるほどの威力だ。
魔法を撃ち始めると、前田さんも鹿内さんの攻撃をトレースして、さらに倍の威力だ。
相手の神獣からの攻撃はすべて坂内さんが完璧に遮る。
そして止めは坂内さんがスキルで精霊召喚からベルフェゴールの能力でフェニックスを召喚し、神獣を焼き払った。
一方的だ。
卑弥呼はあまりの展開に、目を見開いたまま口をパクパクさせていた。
「ごめんね、ちょっとやり過ぎちゃったみたいだね」
「解ったわよ強さだけは、私だって呆気にとられちゃったけど、本当はもっと凄いんですからね、約束だから取り敢えず着いていくわ、美味しい食事とあの人達が使ってる化粧品とかちゃんと用意しなさいよ」
「あ、うん。解りました」
何かよく解らないけど、取り敢えずは仲間が増えたという事で、今日はここまでで帰ることにした。




