第65話 北九州動物病院
十月十八日 六時三十分
マンション前の広場に翔たちのパーティが集まっていた。
「おはよう。準備はいいみたいだな。早速向こうに出かけるが、こっちの世界とは大分違うから気をつけろよ」
【G.O】に乗り込み次元を渡った。
向こうに着くと直ぐに慶次が出てきて、大阪の町に案内してくれる。
当然のようにまず町の中心部にある銅像を見て、翔たちの顔が引きつった。
「父さん……あれって……父さんと雪とTBか? て言うかそのまま過ぎるよな、どういう展開なの? これ」
「あー、細かい事は気にするな。疲れるぞ」
大阪城に向かい藤吉郎に挨拶を済ますと、こちらに居る間の面倒は半兵衛さん達が見てくれる事になった。
一昨日まで俺たちの世界に居たから面識もあるし、半兵衛さん達も向こうの世界のネタで会話が出来るので凄く喜んでくれた。
俺は、翔たちを半兵衛さんに預けて「じゃぁ頑張れよ!」と言って戻った。
「なんかさぁ、この世界って女の子比率が異常に高くないか? 人種もばらばらだしみんな未成年っぽいし」
と、大阪の街にいる少女達を見て、省吾の顔がにやけている。
「省吾。ずっと見続けてるけど気持ち悪いよ、顔が緩みまくってるし」
「でもこの光景は、男なら目が行ってもしょうがないよな、凄い世界だな」
「二人の変態度合いが試される街だね、変態判定されたら半径三メートル以内に入ってこないでね」
と、桜と萌が辛辣な言葉を浴びせかけてくる。
半兵衛さんが俺達の行動を確認して来た。
「洞窟での狩がメインと言う事でしたが、何階層くらいで狩りをされるのですか?」
「六十四層のリビングアーマーをメインで狩りたいんだけど、まだ俺たちレベル五百五十くらいだから、少しきついんですよね」
「でしたら、四郎とヌルハチと清興と兼続を一緒に付けましょう。あいつらは、ああ見えても位階が七百を超えてますので、お役に立てると思います」
「いいんですか? 助かります」
そして四郎たちと共にダンジョンに向かった。
清興達はカッコも現代日本の高校生と変わらないようないでたちで、まったく違和感がない。
四郎は狩をしながら、アニメソングを口ずさんでいた。
サビの部分に入ると全員が声を合わせて熱唱しながら狩をしている……チョットキモイ。
◇◆◇◆
十月十八日 九時
澤田さんと藤崎さんが迎えに来たので、東雲さん、前田さん、山野さん、沙耶香を連れて北九州に向かった。
ペットエリアの企画に関しては、藤崎さんと山野さんが中心になって行ってくれたのだが、【DIT】は公的機関だから運営に関しては関与できず、沙耶香に基本的な運営を担当してもらう事になる為だ。
まぁ専任の人が決まれば、そんなに手は掛からないだろうけどな。
今日の予定は道路網を作る事だ。
これも範囲は広いがほとんど平地な上に、何も邪魔する物がないため、碁盤の目のように規則正しい配置になっている。
道幅なども統一されていて、本当に機能的に感じる。
基本的にはこの街ではメインストリートには横断歩道が存在しない。
すべてがエスカレーターかエレベーターの設置してある地下を通って交差する形だ。
歩道も十分な広さを保ち、車両が歩道に突っ込む事もないように頑丈なガードも付いている。
交通事故の起こる可能性は低いだろうな。
都市計画図を基に、道路の敷設を終え時間は十七時前だったので、ペットエリアを少し整えたいと思い、現地に向かう。
旧門司区にあるその地区は、関門海峡を望み、とても景色も良く海風の気持ち良い場所だ。
都市計画書によると区域全体が海岸線に沿って五キロメートルに及び幅は一キロメートルにも渡る。
TBがなんか凄いはしゃいでる。
「TB、ここはどうだ? 猫の視線で見て快適かな?」
「気持ちいいにゃ、こんなところで暮らせるなら、仲間たちも幸せだと思うにゃ」
このエリアから旧門司港方面にかけては、開発の予定ではホテルと飲食歓楽エリアが続く。
ホテルは既に国際的な有名ホテルがこぞって進出を打診してきており、相乗効果で更にサービスレベルも向上するであろう。
獣医科の病院は、ペット専門の病院としては世界最大規模になる。
獣医さんは、【DIT】の伝で既に百二十名を確保してあるそうだ。
基本的に飼い主のいない犬と猫の引き取りをする為、避妊やワクチン接種等だけでも、大変な手間になるので獣医師の数はこれでも足りないかもしれない。
加えて最新の医療環境でペットの治療に当たるため、患者は世界中から訪れる目算だ。
この北九州特区内は【IDCO】加盟国に国籍を有し、【DG】カードを取得している人物であれば、訪れるのにパスポートもビザも必要としない。
国外からの転移門は、一括して【D特区】にのみ設けられるが、【D特区】から北九州特区に向けた転移門がある為に時間的なロスは少ない。
一匹でも多くの犬や猫が、新しい家族を見つけて旅立ってくれればいいんだけどな……
病院と、職員の生活用のマンション建設も急ぐな。
十九時を過ぎたので、今日は終了する事にして家に戻った。
明日は今日敷設した道路や信号機、地下通路の確認に業者や関係省庁の係官が来て、チェックをするらしいから、俺はペットエリアに専念できるな。
◇◆◇◆
十月十八日 二十時
「先にペットエリアだけ、スタート出来るようにした方が良いんですよね?」と、沙耶香が確認して来た。
「出来ればそうしたいな」
「では、お仕事に従事して頂く方の選考をしたいけど、岩崎君がする?」
「いや、俺はそんなのした事ないし良く解らないから、沙耶香に任せてもいいか?」
「わかったわ。一応山野さんが作ってくれてる施設毎の必要人数とかの、資料があるからそれに合わせて採用しちゃうね」
「飲食施設などは、まだ後回しでいいと思いますから、猫ちゃん達のケアをしてくれる人達と、病院施設のスタッフの採用を優先したほうがいいと思うわ。ペット用品に関してはメーカーさんが直販のお店を出店させて欲しいって問い合わせが来てるから、そこに任せてしまった方がいいと思います」と、山野さんからも必要なアドバイスがあった。
「ワンちゃんや猫ちゃんの世話をする人達なんですけど、アルバイト感覚で無責任な対応をされても困るから、しっかりと身分の保証のある仕事にして上げたらどうでしょうか?」と、東雲さんが意見を言ってくれる。
「例えばどんな風にかな?」
「全員を動物看護師として採用すると言うのはどうでしょうか? 法的には資格の必要の無い職種ですので、十分に可能だと思います。その中でローテーションで病院の中の勤務や、エリア全体のメンテナンスなどを含めてお願いして行けば、やりがいも全然違ってくると思いますよ?」
「それいいわね、マンション寮なんかも、きちんと用意してあげれば定着率も高くなるでしょうし、その方向性で行きたいです」
「俺はそういうことに関しては、下手に口を出しても的外れなこと言いそうだから任せるぞ」
◇◆◇◆
十一月一日 九時
それからの二週間を開発に費やし、北九州特区もようやく全体的な形が出来上がってきた。
ペット区域は、完全に完成しており、今日は先行開放を行う当日である。
真新しい動物病院の建物の前で、ここに勤務する獣医師百二十名、動物看護師六百名アニマルセラピスト二十名が集まり、オープンの式典が行われている。
協賛企業である、ペット関連の商品を販売する各メーカーからも、沢山の人が参加している。
世界中に、この世界最大の動物病院を抱えるペット区域は興味を持ってもらえており、報道陣も百名近くが来ていた。
その中には、アニマルセラピストとして、明石先生と野口さんの姿もあった。
それと動物看護師の中には佐千原さんもいた。
俺は会場の隅っこで式典を眺めていた。
当面はこの区域の運営責任者は沙耶香にしてもらうが、妊娠している事もあり早急に人財を求めたい所だ。
【DIT】が企画をして、賛同する団体、個人の資金提供によって、完成を迎えたという建前の式典になっていた。
来賓として颯太や達也も参加しており、総理からのメッセージも届いている。
まぁ形はどうあれ、犬や猫が幸せに暮らせる空間があるのは嬉しい。
この北九州特区全体の責任者は、国際都市として【DIT】から、外務担当の織田さんと、総務担当の星野さんが選ばれて来ている。
星野さんの話ではここから毎月俺に払われるリース料は800億円にも及ぶらしい。
もうお金の管理は、東雲さんに完全に任せているから、俺はよくわかんない。
この二週間で建築物は一日に50棟のペースで建てて行っており、今後も時間のある限り澤田さんの指示による優先順位で建築は続ける予定だ。
中核になる建築物が終われば、後は民間企業にも仕事を振り分けて行く予定になっている。
主に居住区部分の旧八幡東区、西区は、土地の販売を行い自由に住宅を建てて貰う予定だ。
旧戸畑区方面は各企業の研究施設が立ち並ぶ区域になり、旧小倉南区は、新時代の学園都市となる。
旧門司区は、全域が商業及び飲食宿泊等の施設が立ち並ぶ区域で、旧小倉北区に国際的な交流を図る施設や、特区全体を管理するための施設が揃う。
転移門が効率的に配置されて各地域を繋げており、非常に機能的な交通網になっている。
魔核駆動のバスを運行させる事も決まったため、市内は何処であろうと二十分以内には、相互移動が可能だ。
ただしこの特区からの出口は、転移門からは【D特区】に繋がるのみで、物理的な移動は下関方面と宗像方面と行橋方面、田川方面の四箇所に税関を兼ねた門が設置してあるだけである。
そろそろ、向こうの世界の討伐も再開しなきゃいけないな。




