第31話 スタンピード
九月十三日 六時
(東雲あずさ)
私は今岩崎さんの家に来ている。
新しく綺麗でとても大きな家。
でも、誰も居ない。
岩崎さんは昨日【D5】四層で、私と島長官を助けだすのと引き換えに、TBちゃんと一緒にアビスワームの奥深くへと消えていった。
斉藤防衛大臣がギルドカードを確認して、ランキングの順位の変動が無い事から、どこかで生きているとは言っている。
でも【D5】を討伐した後も、一緒に戻ってくる事も無く念話も繋がらない。
どこに行っちゃったのかな。
早く帰ってきて、御礼を言わせてください。
◇◆◇◆
九月十三日 九時【DIT】本部
(島颯太)
俺のせいで理が居なくなった。
どこ行ったんだ……
だがあいつは必ず戻ってくる。
あいつが戻ってきた時に馬鹿にされないように、今出来る事をやっていくしかない。
今のままでは理の居ない世界を守りきるには、あきらかに実力も足らない。
「島颯太。お前はヒーローになる事がガキの頃からの夢だろ? 頑張れ」
自分自身を奮い立たせる。
理の居ない日本と世界は俺が守る。
「颯太、落ち込んでる暇はないぞ。理がいつ戻ってくるか解らない状況だと、やるべき事は何倍にも増えちまう。生産一つとっても、理以外の人間が作れる物なんて、極まれにレアアイテムが出来る程度でたかが知れてる。とてもじゃないが今から強くなって行くモンスターと戦っていける状況じゃ無い」
「そうだな、サポート班には生産のランクアップを優先する様に指示を出そう。そう言えば達也。昨日のスキルはなんだ? まさか本当に(カ○ハ○波)って名前じゃ無いよな?」
「気持ち的にはその名前の方が良いんだが違うな【波動龍砲】って名前だ。でもな確かに威力は桁外れだが制約が多い。ボス戦で一発だけ撃つのが精一杯だな」
「もっと使いどころの多いスキル合っただろ?」
「そこはほら、ロマンだ。でも凄かっただろ。どうする、レベル60マスターは現状俺たちで倒すのは厳しいと思うぞ? 【D5】の設置はスタンピード無しにした方が良いだろ?」
「そうするしかないな。それとな、昨日獲得した【D5】の討伐報酬スキルだが、気になるのがあった。【アイテム複製】だ。理の残してくれたアイテムが、かなりの種類ある。魔核ポイントを使ってコピーする事になるが、今は新しくうちのメンバーが物を作るのを待つより、確実にある物を増やせる方がいいと思う」
「そうだな」
◇◆◇◆
島の執務室に、東雲が訪れる。
「島長官。岩崎さんから【DIT】西側の土地の取得を頼まれていましたけど、どうしましょうか?」
「問題無い。そのまま進めてくれ。購入資金は魔導発電機の買取金額が千二百億円まだ振り込んで無いからそれを当てる」
「了解しました」
理が居ないからと言って、計画を中断するような事だけは絶対に在ってはならない。
ダンジョンギルド計画も予定通り進める。
魔核が大量に必要になるからな。
鹿内主導の女性を中心としたダンジョンエステ計画も続行だ。
それと、これは事後承諾になってしまうが、魔導発電機は理の土地に五機設置して、近辺の電力需用は完全にそこから賄えるようにして行く。
【アイテム複製】で発電機は増設する。
一台一千万ポイント必要だがな……
澤田さんと藤崎さんを中心にプロジェクトを組んで、理の土地のリゾート計画を図面だけは完璧に仕上げておく。
あいつが防波壁までは作っておいてくれたから、後は通常の工事でもやっていける筈だ。
◇◆◇◆
九月十九日 十時
今日は【D6】が発現する。
どこに出る?
先週と同じように既に主要都市へは【PU】のメンバーも派遣している。
チヌークも待機しており準備は万全だ。
この一週間で【DIT】のメンバーも飛躍的に能力を伸ばしてきている。
ダンジョンの階段出現条件も低階層であれば、鑑定が使える者も居る。
各ダンジョンごとに、ルールはある程度同じ系統なので、低階層だけでも解れば、何とか最下層まで辿り着く事は出来る筈だ。
十一時十一分を迎えた。
一報が……入らない……何処だ。
十二時を過ぎても報告が入らない。
これは海外か? どこの国だろうか。
外務省を通じて情報を集めるが、一向にそれらしき情報は入ってこない。
十五時を過ぎた頃にようやく外務省からの情報で、上海の中心部の一部が封鎖された情報が入ってきた。
かなりの数の民間人が巻き込まれたようだ。
現在は軍が投入されて対処に当たっているらしい。
これ以上の情報は、もらえそうに無いな。
しかし、通常武器でどこまで対処できるのだろうか。
恐らく六週間での討伐は、難しいかもしれない。
下層に下りる条件を探し出す事すら出来ないかもしれない。
島は【DIT】の警戒態勢を解除し、各地に派遣した部隊も帰還させる命令を出した。
そして一週間後
十一時十一分ダンジョン【D7】は……
再び海外への出現となった。
状況的にかなりまずいな。
翌週【D8】が国内に発生したとして、レベル80のマスター、レベル75の中ボスが発生する。
現有戦力で挑むのはかなり無謀だ。
【D5】ではレベル65までしか成長できないからだ。
十二時を過ぎた頃に外務省から連絡が入った。
アメリカが俺と達也に面会を求めていると言う事だ。
達也と共に横田基地へ向かった。
現役の閣僚が訪れた事もあり、在日米軍のトップである中将に挨拶を受ける。
同席したロバートと名乗るCIAのエージェントが現状を説明する。
【D7】と思われるダンジョンが、日本時間の十一時十一分にカリフォルニア州ロサンゼルスに出現した。
現地では夜中であった事もあり、巻き込まれた民間人はいなかったが、現在グリンベレーを投入して内部に調査及び討伐を行っている。
まだ一層内で、銃撃で対応している状態だが、この先へ進む手段がわからずに困っていると言う事だ。
日本から直接海外のダンジョンの討伐に参加する事は、一切行わないと大泉総理は明言している。
仮に海外の攻略に参加する可能性があるとすれば、ダンジョンの所有権を【DIT】に渡す事が前提条件となり、ダンジョン利権を得たい海外は恐らくこの条件は飲めないはずだ。
しかし、最低限の知識としてJOBシステムと、斥候職の特技による階段出現条件の看破だけは教えた。
中将から御礼にと現在アメリカで把握できている、上海の状況を教えてもらった。
状況は凄惨を極めていると言う事だ。
溶解液によって体を溶かされたりする事が当たり前のように起こっており、それでも通常兵器による力押しの戦略を、推し進めているとの事だった。
一週間を経過して、まだ二層にすら到達はしていないらしい。
危険だ。
大泉総理と今後の協議をしなければ。
対モンスター用の装備の供与は可能かと言う質問に対しては、協議をしますとだけ伝えた。
現状ではバトルスーツ一つ取っても【アイテム複製】で作らなければならず、それに必要な魔核は、HQでさえ一万ポイント、Rだと十万ポイント必要だ。
◇◆◇◆
更に一週間。
【DIT】の初期メンバーは、全員がレベル65を迎えていた。
【D5】の中ボス、アビスワームはその体は巨大だが、外部からの斬撃で比較的倒しやすく、良い経験値プレゼンターになっていた。
ドロップもポイントボールを落とす確率が高く、リポップタイムが長めな事を除けば効率が良い。
十一時十一分を迎えた。
一報入りました名古屋です。
駅構内に出現。
多数が巻き込まれています。
「総員出動」島の声が響く。
素早くチヌークで移動する。
ここからなら三十分かからない。
現場では既に先乗り部隊と警察により厳重な封鎖と【PU】の部隊による救出作戦が進んでいた。
巻き込まれたのは十三名、負傷者は五名重傷者無し。
負傷者にはポーションによる処置が施され、既に完治していた。
さぁ【D8】だ。
こちらの切り札は達也の【波動龍砲】のみだ。
これが駄目ならどうにも出来ない。
よりによって駅構内か。
長期化した場合の経済的損失が大きいな。
【D8】は森林ステージだった。
異世界物の小説に出てくるような、幻想的な世界だ。
中央部分には美しい湖がありその真ん中に小島がある。
あれに渡るのはちょっと大変だな。
水中にもスライムが居て、非常に見づらい。
バトルスーツでなければ容易に溶かされてしまうだろう。
鹿内さん達の魔術師JOB所持者が、上位JOBで身につけた範囲氷結魔法で湖面を凍らせて渡った。
中央部分で【PU】の斥候職メンバーが鑑定する。
条件は、ゴブリン、スライム以外のモンスターの討伐だ。
何か方法はないのか聞いてみるか。
『D3コアちょっといいか?』
『マスターなんなのじゃ』
『スライムとゴブリン以外のモンスターを手っ取り早く沸かす方法は無いか?』
『ダンジョンマスターにならずに、異種を発生させるのは難しいのじゃ、ひたすら数を狩ってユニーク固体の出現を待つしかないのじゃ。それかスタンピードを起こさせれば下層の敵が上がって来るのじゃ』
『やはりそうか、解ったありがとう』
これは長期戦になるな。
相川に全国の候補地に向かっていた【PU】の全メンバーを名古屋の現場へ集合させるよう指示を出す。
到着するまでは今居るメンバーで、狩り続けるしかない。
集中力が途切れないようにするため、交代で特殊固体が出るまで狩り続ける指示を出す。
結局ユニーク固体の発生までに、十二時間を費やした。
現場は名古屋で最も人が集まる場所で、利用者数は私鉄も合わせれば一日百万人規模になる。
完全な封鎖を続ける訳にも行かない。
ダンジョン入口をテントで囲み、周囲を【PU】で八名の警備を立たせるのみにして、更に周囲に三メートルの距離を取ってロープを張り、それ以外の部分は規制を解除させた。
◇◆◇◆
二層に下りる。
ここも森林ステージだ。
中央部分に向かいダンジョンを鑑定させる。
特殊固体の討伐完了が条件だ。
運に左右されるめんどくさい条件だ。
現時点では、ダンジョンを鑑定できるのは五階層までだ。
しかし四階層までは特殊固体の討伐であったので、最終八層まで条件は変わらないであろう。
一日一層のペースで攻略を続け、五層に到達したのは月曜日であった。
恐らく五層は中ボスが出る。
俺と達也も加わり五層中央部分に向かう。
神殿のような建物があり、重厚な扉がある。
メンバーは実力上位者で固め、扉を開け中に入る。
一つ目の巨人サイクロプスが居た。
近接は分が悪いな、四十人で遠巻きに取り囲み、一斉に遠距離攻撃を掛ける。
恐らくラノベでの定番どおり、弱点は大きな目だ。
定期的に仕掛けてくる突撃を避けつつ、徹底的に遠距離で削っていく。
一時間近くをかけようやく、黒い霧に包まれて消えていった。
「思ったよりは、倒しやすかったな」
「やっと六層だ。ここからは俺たちの能力も上げていく事が出来るから、焦らずに鍛えながら降りて行こう」
◇◆◇◆
十月三日 八時
今日は【D9】が現れる。
しかし、まだ【D8】の討伐は完了できていない。
初動さえ間違わなければ、【D9】五層までは【PU】と【DPD】で対処できる。
相川さんと上田さんに対応を任せ、主力は【D8】に集中する。
◇◆◇◆
【D9】は仙台に出現した。
幸い巻き込まれ被害もなく、相川の指示の元、攻略をスタートさせる。
翌金曜日に漸く【D8】マスターの出現を迎えた。
「今回のマスター戦は、達也がリーダーで行くぞ」
レベル80のマスターは動きも早く、斎藤が狙い撃つことも出来ない。
とにかく弱らせ動きを鈍らせる手段を模索する。
四十人で囲んで魔法攻撃を撃ち込み、ターゲットが来た場所へ颯太が回り込み押し返す。
開始から三十分が経過した頃、東雲のスタン効果のある斬撃が一瞬の硬直を産み出し、そこに達也の波動龍砲が炸裂した。
だが、倒しきれていない。
前衛職の【PU】のメンバーで囲み込み、最後は森本のハンマーがとどめを刺した。
黒い霧に包まれマスターは消えて行き、その場のメンバーは地上に戻された。
待ち望んだ声が達也の耳に届く。
『【D8】ダンジョンの討伐を確認しました。報酬をお受け取り下さい』
「何とかだな。この先が思いやられる」
「もう【D9】も出てるしな。メンバーの強化が追いつかないな」
◇◆◇◆
【DIT】本部では十月一日から、ダンジョン探索者育成制度を開始させた。
発表当初から問い合わせが殺到し、申込者は九月半ばの段階で一万名を越えていた。
当然一度にそんな数の受け入れは出来ないので、十月一日から、毎週火曜日に五十名ずつを受け入れていく事になった。
探索者は、まず五日間の講習を受けなければならない。
そこで最低限の知識や武器の扱いを習い、講習が終わればIDカードが作成され、晴れてダンジョン探索者となる。
ダンジョン内で拾得したドロップは、【D特区】外へのそのままの持ち出しは硬く禁止されている。
必ず一度【DIT】に納品し、確認証紙を貼られた物だけが、持ち出し可能となる。
魔核に関しては原則1ポイント分100円の買取になる。
スライムでさえ10ポイントの魔核を落とすので結構な効率だ。
受講料とIDカードの作成費用、初心者向けの装備一式で一人当たり二十万円程の初期投資は必要だが、探索者になれれば一定以上の収入は期待できる。
星野さんが担当しており、実務的には【PU】から週代わりで一班が派遣される。
対して鹿内さんの担当する【ダンジョンエステ】では成人女性を対象に、『なりたい自分をイメージする』を合言葉に活動を始めていた。
こちらは戦闘はすべて【PU】から派遣される新人隊員たちが担当し、危険性はまったく無い。
但しレベル5まで上げてもらう為に必要な金額は五十万円だ。
装備はウサギさんシリーズの全身着ぐるみを貸与される。
その金額にもかかわらず毎週五十人の募集枠に対して、全国から十万人以上の応募が殺到している。
後は効果を口コミで広めてもらう事で、更なる集客を目指す。
但しダンジョン内での活動をした事で、日常生活での制限事項が法律によって課せられるリスクがある。
◇◆◇◆
十月二十四日 十一時
ダンジョン攻略は、やっと一昨日【D9】が討伐された。
新潟の【D10】
広島の【D11】
は、まだ上層の探索が行われている状況だ。
そして、ついに恐れていた最悪の事態が訪れた。
十一時十一分上海のダンジョンがスタンピードを起こした。
入口からモンスターがあふれ出してくる。
最初はスライム、ゴブリンだったが徐々にオークやオーガなどの強力なモンスターまで湧き出してくる。
ダンジョン内で活動していた軍も壊滅し、生存者はほぼ無いだろうとの情報だ。
二千四百万人もの人口を抱える上海でのスタンピードは、これから起こる被害を考えると絶望的な状況だ。
そして今日のダンジョン【D12】は再び海外、インドのムンバイに現れた。
ここも人口が多い、千八百万人を超える人々が生活している。




