第30話 【D5】そして……
九月十一日 九時
今日も朝から東雲さんが出勤してきた。
今日からは新しい家の方だ。
既に昨日のうちに、東雲さん用の事務室に必要な物は運び込まれている。
「おはようございます。岩崎さん」
「おはよー。昨日は準備とか大変だったでしょ? ありがとうね」
「岩崎さんのおうちの調理家電なんかは、【DIT】のメンバーが自分で使いたくて揃えた物ばかりですから逆に大喜びですよ」
「でもこんなに広いと家政婦さんでも雇った方がいいのかな?」
「そうですねぇ、でも若い女性は駄目ですよ」
「なぜ?」
「なんででもです」
「あ、いい人いた。前の家のお向かいに住んでるおばあちゃんに頼んでみよう。そう言えばさ、昨日言ってたD特区の西側の土地、話進めてもらってもいいかな?」
「了解しました。至急進めますね。昨日、澤田さんが言ってたけど、東側の土地はもう壁で囲ってしまったらしいですね。防波壁まで作ったらしいじゃないですか」
「なんかね、やっておかなくちゃならない気がしたんだよね。勘? なのかな」
東雲さんの電話が鳴り、澤田さんからだった。
来てもいいかとの内容だそうだ。
「構わないよー今日は久しぶりに予定が無いし」と伝えた。
二十分ほどで澤田さんがやって来た。
「いらっしゃい。昨日はつき合わせちゃってごめんね」
「コーヒー用意しますね」
「素晴らしい体験をさせていただいたので、全然構わないですよ。今日はですね、ダンジョンシティ構想を作ってお持ちしたんですよ」
澤田さんが自分で立案した都市計画を一時間近くかけて熱く語った。
ダンジョン東側は、探索者向けのホテルや飲食施設が揃ったリゾート構想。
ダンジョン西側は、国内最大級になる大型ショッピングセンターを中核とし、マンションや住宅地を配した、機能的な町並み、完成したらダンジョンシティだけで二百万人が活動するようになるらしい。
更に、現在海沿いに東西とも区画整理を進める予定で、最終的には遠州大砂丘全体と渥美半島全域までを開発したいらしい。
津波対策が莫大な金額になる為に、今ひとつ開発が進んでいない現状だそうだ。
海岸線から内陸に向けて二キロメートル幅で総延長八十キロメートルにも及ぶ計画だ。
規模が大きすぎてピンと来ないぜ。
俺は国の為や、自治体の為に動く義理は無いので、自分で取得した土地に関してだけは手をつける事を約束した。
澤田さんが帰って、お昼を迎えた頃に颯太から連絡があり、明日の【D5】に向けて事前に打ち合わせをしたいとの事だった。
東雲さんと一緒に颯太の執務室に行き、ミーティングが始まった。
メンバーは【PU】旧1~6班の班長、現在は各中隊長。
島、斉藤、上田、相川、坂内、東雲そして俺、総勢十三名だ。
達也の主導で会議は始まった。
「まず出現予測地域だが、大都市中心部が続いている現状では、可能性が高い場所として札幌、仙台、横浜、名古屋、広島、松山が候補地としては適当だと思うがどうだろう」
「俺も同じ意見だな」と颯太が言った。
北海道は函館しか登録してないから、札幌だと到着に時間がかかるなと思った。
「既に公式に木曜日の十一時十一分と発表してありますので、全国の自衛隊及び警察組織を総動員して、その時間帯の全国の繁華街を迅速に封鎖できる態勢を整えてあります」
「問題は先週のようにダンジョン内に取り込まれる人が出た場合の初動ですね」
「先ほど名前を挙げた六都市には、各中隊から半数を事前配備して初動を確保しようと思う。それにより被害を、最小限に食い止める事ができる筈だ」
「一層であれば、【PU】で十分な対処が可能だから異議は無いな。
ダンジョンコアに確認しても、今回から現れる中ボスの情報が貰えないのが痛いな。
場合によっては、ダンジョンマスター以上に強い事も考えられる」
「俺もそれは同感だ。昨晩現れた【D4】四層のユニーク個体でさえレベル75だった。通常出現する敵の1.5倍のレベルだ。そこから予想するとレベルは75以上と見て間違いないだろう。ただし、必ず攻略ポイントがある個体になると思う。俺には鑑定があるからその点はあまり心配してない」
各中隊長はこれから派遣する隊員を選抜して、即時移動準備を整え出発。
【D5】出現に該当する地域に当たった中隊は、現場から一番近い場所で、チヌークが着陸できる場所の確保。ダンジョン内には班長の三名のみがまず入り、他隊員は、班長からの指示があるまで待機。
該当地域外の担当になった中隊は、速やかに【DIT】本部に帰投。
以上の指示が出て散会となった。
「理は今日は用事は無いのか?」と、達也が聞いてきた。
「急ぎの用事は無いぞ」
「俺と相川さんと一緒に全国の基地周り付き合ってくれよ。航空自衛隊の内部ならチヌークごと転移しても問題ないから、近場の基地からの出動だと大きく時間節約できるからな。ここから、まず浜松基地に向かって、その後はU-4に乗り込んで全国に飛ぶ。坂内さんと東雲さんも付き合ってくれ」
◇◆◇◆
U-4は、指揮連絡、小型軽量貨物などの空輸、訓練支援などの効率化のため導入された多用途支援機である。
最新の計器表示システム、航法装置などを装備しており、米国ガルフストリーム社のビジネスジェット機ガルフストリームⅣと同型機で、高い整備性、信頼性を誇っている。
◇◆◇◆
「それはちょっと興味がある。普通に自衛隊機で全国一周とかめちゃ楽しそうじゃん」
それから、一日かけて浜松から
横田
松島
三沢
千歳
新潟
小牧
防府北
芦屋
新田原
と飛んで拠点記憶をし、最後は転移でU-4ごと浜松に転移して戻った。
これでどこに出現しても一時間以内には到着できるな。
颯太は残って【D4】四層に潜り、俺と同じLV55まで上げたそうだ。
もう颯太に任せちゃうかな?
JOBレベルなんて俺より高いし、まだ特技を教えてくれないが、【軍師】JOBも取得したらしい。
誰も持ってない50ポイントJOBで、ミッションクリアが発生して、ポイント付与50ポイント貰ったと喜んでいた。
さぁ明日は【D5】だ。
そういえば達也は何のスキル取ったんだろ?
◇◆◇◆
九月十二日 十時
朝から東雲さんが来て、土地の取得が問題なく出来た事を伝えてくれた。
今日【D5】から戻ってきたら、一周ぐるっと確認してみようかな。
【D5】のマスターは問題ないと思うが、気になるのは中ボスだ。
十時半に本部へ向かう。
既に【DIT】のメンバーは揃っている。
さぁ【D5】はどこだ。
十一時十一分。
一報入りました横浜です。
駅西口の正面に出現。
幸い巻き込まれた人は居ない模様です。
【PU】班長以上十二名、【DIT】サポート班十五名、島、斉藤、俺の三十名がチヌークに搭乗。
転移で横田に飛ぶ。
そこから二十分で現場に到着した。
先乗り部隊の第三中隊がチヌークの着陸場所を確保してくれている。
ダンジョン内には既に、西山、速見、三浦の三名が入っていた。
砂漠ステージだ。
一面砂で中心部にオアシスが見える。
スライムとゴブリンは砂の中から湧き出てくる。
今までのダンジョンとは段違いに数が多いな。
【PU】は五名三班に再編、サポートメンバーも三班に別れる。
俺は颯太、達也、鹿内、東雲、坂内のメンバーでまっすぐ中央を目指す。
足元からスライムいきなり沸いてきたりして性質が悪いぜ。
中央に着くと既に階段があった。
条件は単純に討伐数のようだ。
二層に向かう。
二層も砂漠だ。
ここは、岩とサボテンが見える。
しかしサボテンは動いていた。
サボテン型のモンスターか、針を飛ばしてきて厄介だな。
魔法職の人間がファイアでどんどん倒す。
次いで蟻地獄のモンスターも現れた。
いきなり足元の砂が吸い込まれていき、何人か巻き込まれそうになったが、TBが素早く助け出して無事だった。
アイスボールが有効で鹿内さんがとどめを刺していた。
中央部分に着く、ここも階段が現れていた。
簡単すぎるような気がする、これは誘い込まれているのか?
全員到着するのを待ち、三層に下りる。
まだ砂漠だ。
砂嵐が酷いな、蠍型、蛇型、ハイエナ型、鳥型の4種類か、普通に対処するだけなら強くも無いが、視界が悪いのが厄介だな。
全員がうまく連携して、隙を作らないように進む。
TBが蠍を追い掛け回して楽しそうだ。
中央部分に進むと、ここも階段は出現していた。
不安が残るな……敵の数も多いし決して楽ではなのだが、ダンジョンが進ませたがってるように思える。
全員で四層に下りた。
ここもまだ砂漠だが中央部分にピラミッドがある。
しかし今までと大きく違う事が一つ、ステージは夜だった。
包帯で全身を覆われたミイラ、スケルトン、三層より二回りほど大きい蠍が出た。
倒しながらピラミッドを目指す。
この階層では俺と颯太とTB以外は、一対一では厳しくなった。
特に蠍が厄介だ。
尻尾から毒液をバンバン飛ばしてくる。
俺がアイテムボックスからの金棒落としで、潰して行く。
ミイラとスケルトンは火魔法と、回復魔法で倒す。三種類しか出てこないな。
今までのパターンだと後二種類は出ると思うが?
ピラミッドまでたどり着いたが階段が無い。
ピラミッドに入る入口もない。
鑑定を掛けてみるがピラミッドの周りでは、中央部分と判断されないようだ。
「上るしかないか」と呟きピラミッドを登り始める。
TBと颯太と東雲さんだけが付いて来て、他のメンバーは待機だ。
頂上に着いた。
再度鑑定を発動する。
『アビスワームを倒せ』と表示されると、足元からピラミッドが一気に崩れ始めた。
一辺30mほどのピラミッドを丸ごと呑み込むような感じで地下から、馬鹿でかいミミズが現れた。
颯太と東雲が体勢を崩し、アビスワームの口に呑み込まれそうになる。
俺は思わず飛びついて東雲さんの手をつかんで、他のメンバーが居る方に放り投げた。
同じように颯太の襟元をTBが咥え放り投げた。
足場の無いところでそんな行動を取ると当然のように、反動で勢いがついたまま俺とTBはアビスワームの口の中に呑み込まれて行く。
刀を口の中に突き立てるが、切れ味が良すぎた。
アビスワームを縦に切り裂きながらどんどん落ちて行く。
一体どこまで落ちるんだ。
体感で三百メートルは落ちてる。
TBは優しい顔をして俺に引っ付いてる。
こいつなりに俺を安心させようとしてるんだろうな。
アビスワームはずっと切り裂かれ続けてる。
これって絶対もうアビスワームは倒せてるよな。
上見ると完全に切り裂かれて開いていってるしな。
不思議と恐怖感は無い。
だが、まだ落ち続ける。体感では一キロメートル以上、落ちてると思う。
一際深い暗闇が落ちる先にあった。
俺とTBは空中に投げ出されたような浮遊感を感じた後に、水の中に落ちた。
◇◆◇◆
【D5】四層では崩壊したピラミッドと、切り開かれたアビスワームが黒い霧に包まれて消滅し階段が現れていた。
「理はどこに行った?」
どこにも姿が見えない、アビスワームと共に消失したかのように。
「五層に落ちてるかもしれないから、念話してみたが返事が無い。下で気絶でもしてるかもしれないから下りようぜ」
隊列を整え五層へ向けて下りる。
ここも砂漠だが一層と似た感じで、中央にオアシスが見える。
既にダンジョンマスターは沸いてるようで、光の柱が立ち上がっている。
ここでは、このダンジョンで出てきたモンスターが全種類が、レベル41からレベル50の間にパワーアップして沸いた。
スライムLV50とか普通に強い……
火魔法か雷系の魔法がないと倒せないほどに強い。
ゴブリンは隊列を組んで襲ってくる。
ホブゴブリンいや、もっと違う迫力があるジェネラル種かもしれない。
今居るメンバーの鑑定能力ではモンスター名すら表示されない。
しかし倒せない事はない。
魔法の集中砲火で弱らせ、前衛組が切り倒していく。
他のモンスターも手強いが、全員で当たれば倒せて行く。
蠍は森本がハンマーで叩き潰している。
だが理の姿は無い。
中央部分までたどり着いた。
「どうする? 倒せるか?」
達也が颯太に確認した。
「レベルは俺の方が上だ。援護を貰いながらなら何とかなる筈だ」
前回の【D4】二戦目の時とは、人数も違うし皆のレベルも上がってる。
鹿内さんを筆頭に、魔法をマスターに向けて集中放火する。
颯太の軍師JOBで得たバフ能力で20%の威力の上乗せも乗っている。
颯太の攻撃で残りHPはもう三分の一程度まで減っている筈だ。
達也もレベルは48まで上がっている。
武道家JOBの身体強化で能力30%アップがあり軍師のバフと合わせると50%のアップだ。
颯太と並び立ちダンジョンマスターのHPを削る。
達也が叫んだ。
「ここで俺のスキルの初公開だ、狙い撃つ」
どう見ても(カ○ハ○波)のポーズで極太ビームを撃ち出した。
ダンジョンマスターは倒され、全員が入口に戻された。
現在十八時。
ダンジョン【D5】は討伐された。
「ガキの頃みんな練習した事あるだろ? (カ○ハ○波)男のロマンだよな」と、達也が振り向いて笑った。
颯太の脳裏に声が響く「ダンジョン【D5】が討伐されました。報酬をお受け取り下さい」
『答えてくれD5コア、アビスワームに呑み込まれたらどこに行くんだ?』
『マスター初めまして、アビスワームは深淵。その闇はどこよりも深く、私の理解の範疇を超える闇。恐らくですが生きていく事は難しい世界が待ち受けています』
「理……」
「なんだ暗い顔しやがって、あいつがくたばるわけ無いだろ。IDカード見てみろランク変わってないだろ? 俺も五位のまんまだ。死んでたらランク上がるはずだぞ」
颯太もIDカードを確認する。
「確かに二位のままだ」だとすれば、どこに行きやがった。
「そのうち何でもない面してひょっこり帰ってくるって」
理の居ない世界、混沌の時代の幕開けとなった。
第一章完




