第26話 D特区
九月六日 九時
「岩崎さんおはようございます」
東雲さんの声がした。
昨日の【D4】討伐の疲れを感じさせない明るい声だ。
「おはよう。今日はさ十一時から達也の【D4】討伐があるから、それまではゆっくりしててね」
「ありがとうございます。コーヒー淹れますね」
「そう言えばさ、東雲さんのJOBの修復師ってあったじゃん。あれってどんな特技覚えるの?」
「結構便利なJOBですよ。覚えるのは今レベル15なんですけど修復だけです。レベル5で修復Ⅱ、レベル10で修復Ⅲ、レベル15で修復Ⅳを覚えました。Ⅰで普通に刃こぼれ程度の傷とか直してくれて、血糊なんかも綺麗にしてくれます。Ⅱだと防具も直せて、Ⅲで装備品以外の物も直せるようになりました。材料さえあればですけどね」
「いいJOBだね。他にも俺の知らない便利なJOBいっぱいあるんだろうな」
「でもスキルの便利さにはかないませんよー、生産職についた人たちが何人もいますけど、岩崎さんのクオリティの商品は誰も出来ないですよ」
そんな話をしてると、山野さんがやって来た。
一緒に、以前、野口さんの病院を訪ねた時に会った村松先生と明石先生、それに野口さんと、初めて会う若い女性が一緒だった。
「いらっしゃい山野さん。村松先生と明石先生はお久しぶりです」
野口さんが挨拶してきた。
「おはようございます岩崎さん。この子は私と一緒にダンジョンに落ちた水野さんです」
「初めまして。『水野 彩加』といいます。噂の魔法使いさんにお会いしたくて着いてきました」
「私コーヒー淹れてきますね」と、東雲さんがキッチンに行ってお茶の用意をする。
「なんだか東雲さん。岩崎さんの奥さんみたいだね。羨ましいな。私と仕事内容変わって欲しいよ」
「駄目です!」
「チッ」
山野さんと東雲さんの会話内容が不穏だぜ……すぐに気を取り直した山野さんが今日の来訪理由を話し始めた。
「この度【DIT】直轄の医療機関を立ち上げる事になって、その責任者として村松先生にお越し頂きました。明石先生も参加していただけます」
「あの日の奇跡を目の当たりにした者として、新しい医療の時代を自分自身が導きたいと志願させて頂きました」
「私も同じです。しかし身体の傷は直せても、心の傷は中々癒す事が出来ません。そこで私にも村松先生をお手伝いできる事があるかと志願させて頂きました」
と、村松先生と明石先生が今回の参加を決めた経緯を語ってくれた。
「私も凄いショックで落ち込んでいたけど、魔法使いさんの魔法の薬で治った環ちゃんを見て、心も晴れやかに治っちゃいました。そんな感動をたくさん見て行きたいから私も志願しました」
「私と彩加ちゃんは看護学校に通っていて、卒業は来年だったけど、ここで勉強しながらでも資格は取れるから、立ち上げから参加させてもらいます」
と、水野さんと野口さんもそれぞれの思いを話してくれた。
「そうなんですねー、応援しますので頑張ってくださいね」
一時間程近況報告や、現状の魔法薬治療などの話をして「それでは、今日は失礼させていただきます」と五人は帰っていった。
話がちょっと難しくて半分くらいしか理解できなかったぜ。
◇◆◇◆
「医療機関か、どんどん話が大きくなっていくね」
「現状では世界中からの需要にとても対応できないので人材の育成も大事な仕事ですから。薬師を育てるのにもまずはレベルを十まで上げないと無理ですしね」
「もう十時半か、そろそろ【DIT】本部に向かおうか」
「はい」
◇◆◇◆
九月六日 十一時
「俺もやっとダンジョンマスターになれるな」
「十億貸しだぞ」
「十億は毎日ビールとつまみで少しずつ払っていくぜ、二百年もたてば完済するだろ」
「気の長い話だな、まぁそれで構わんけどな」
俺と達也の会話に颯太も反応して「じゃぁ俺は、焼酎と日本酒で払おう」と言い出しやがった。
颯太としてはダンジョンマスターに為る事で、今後とてつもない事態が起きても、モンスターの発生を0にしておけば、広大なシェルターとしての利用も出来る点に利点を見出しているようだ。
「ポイズンキュアのお陰で二日酔いの心配しなくていいから、元を取る為に毎日飲みまくってやるぜ」
そんな話をしてると、藤崎さんが「そろそろよろしいでしょうか?【D4】の入口の設置はこちらにお願いします」と、ばっさり会話を打ち切らされた。
「了解」
【ゲートオープン】
『【D4】ダンジョンの入口が作成されました。マスターによるダンジョン設定を行ってください』
スタンピード ON OFF
フロア別出現数調整 0から400
出現間隔 十秒から千八百秒
同士討ち ON OFF
探索許可 許可制 FREE
お、出現スピードがずいぶん速く設定できるな。
フロア毎の発生数も調整できるのか、一気に使いやすくなったな。
「主ちょっとよいか」
「D4コアか?」
「さようでござる」
うは、ござるな上におっさんじゃん。
達也に渡す事にしてて良かった。
「どうしたの?」
「主は何故簡単にそれがしを、手放すのでござるか?」
「俺はD1とD2を持ってるからね」
「そうでござるか、残念でござる」
よし行こうぜ。
今日は達也がリーダーで俺と颯太、東雲さんと【PU】の第一班で潜り、順調に四層まで辿り着いた。
ダンジョンマスターレベル50は、あえて俺抜きで試して貰った。
……やっぱ無理だった。
壊滅しかけたので、あわてて身体強化全開で倒した。
「まだまだ訓練しなければ、到底この国を守るなんて出来ません。岩崎さんに追いつけるよう頑張ります」と、第一班の班長の熊野さんが悔しそうにしていた。
重傷者は出なかったが、結構みんな傷だらけだったから、ポーションを差し入れて直してもらった。
「颯太は今LVいくつまで上がったんだ?」
「43だな」
「格上と戦うのは、やはり身体強化系が必須なのかもな、もしくは上位魔法か」
「レベル50で軍師JOBが取れる。予想では強力なバフが揃ってる筈だ。【D4】四層で頑張って上げるしかないな」
「達也、無事にマスターになれたか?」
「応なったぞ。今オッサンと話してた」
「頼りになりそうだろ、ござるだが」
「そうだな、ござるだが」
「ござるなのか?」
「ござるだ」
「颯太のとき許可貰うの忘れてたから、一回出て許可出しておくれ」
と、俺が言うと、颯太に考えがあったようで
「ここはフリーにしておこうと思う。【PU】の連中に斥候職の大事さを痛感してもらう為に、班毎にバラバラで攻略訓練に使ってもらう。最初に四層に到達した班に俺から金一封を出そう。後で相川さんから【PU】全体に通達してもらっておくな」
まぁ金一封出るならみんな必死で頑張るかな?
俺は来週の【D5】からは中ボスが出現するから、難易度は今まで以上に為る事を伝えて、東雲さんと自宅に戻った。
◇◆◇◆
【D特区】内部では、建設ラッシュが始まっていた。
どの建物も短い期間での建設になるため、かなり大量な人員が配されている。
理はその光景を眺めながら、異世界物の小説だと結構便利な土木魔法とかあるよな。
スキルで同じ事出来ないのかな? と思い探してみる事にした。
【スキルリストオープン】
【土木練成】
イメージで地形の整形、建造物の構築ができる。
建造物の構築には素材が必要。
スキルレベルの上昇で使用MPの削減、効果範囲の拡大。
これは……凄い効果な気がする。
よし取得!
さて、早速試してみるか。
家の裏にある田んぼで実験を始めた。
まず穴を掘るイメージ、深さ、奥行き、幅とイメージしながら範囲を広げていく。
十メートル四方の立方体形状までがイメージ出来た。
レベル1だと十メートルが範囲の限界か、今ポイントが無いから上げれないな。
次は建築のイメージ、壁をイメージする。
【D特区】を囲んでいる物と同じ様な壁をイメージすると『素材が足りません』とメッセージが表示された。
それならと、土壁で同じ物をイメージした。
高さ十メートル、幅十メートル、奥行き五十センチメートルの土壁が出来た。
迫力あるな。
でも、これだと強度に不安が残るな。
硬くなるイメージをしながら、錬金術の練成をかけてみる。
硬いセラミックの壁が出来上がった。
これは使える。
うちの庭から、何事かと訓練中の【DIT】のメンバーが集まってきた。
澤田さんと藤崎さんが来て「今のは、岩崎さんが何かされたのですか?」と聞かれた。
「おう新しいスキルの実験してた」
「それは整地などにも有用なのですね?」
「そうだな」
「是非お力をお貸し下さい。そのスキルがあれば一気に計画が前倒しに出来ます」
「あー時間がある時だけでいいなら少しは手伝えると思う。あんまり期待はするなよ」
「島長官を通じて、計画的にお願い出来るよう計らって貰います」
「あーやっちまった」と思いながら、壁と穴を元に戻して家に帰った。
東雲さんも家から出てきたので、ついでに聞いてみた。
「俺の新しい家の場所って解る?」
「解りますよ、行ってみますか?」
「おう行ってみたいな」
三百坪の広さの畑と田んぼが広がっていた。
既に整地を始めようと、土砂も運び込まれてきていた。
千平方メートルか、錬成十回だな。
「よし、やって見よう」
【土木錬成】
八回程行った所でレベル2に上がった。
範囲は二十×二十×二十メートルに広がったみたいだ。
十メートルずつなのか倍になるのか気になるな。
レベル3になれば解るからいいか。
十五分で整地が終わったぜ……
「知ってはいましたが、益々滅茶苦茶になりましたね、岩崎さん」
「隠してもどうせバレるしね。出来る事はやる。出来ない事はやらない。でいいかと思ってな。もう設計図の正確なのは出来てるんだっけ?」
「はい、昨日澤田さんが図面を引いて、資材の発注まで行ったと聞いてます」
「澤田さんも凄い優秀な人なんだねー」
「国土交通省のキャリアで、公共建築物の図面のチェックとかしていたらしいですから」
「じゃあさ、建物も俺がスキルで作ってみたいから、資材を全部早急に搬入してもらえるかな?」
「連絡しておきます。流石に今日は無理ですよ?」
「折角だからスキルレベル上げたいし、医療センターか本部の整地しに行こう」
「ちょっと藤崎さんにどっちがいいか、確認しますね」
◇◆◇◆
九月六日 二十時
「理。今日も派手にやらかしたらしいな。今日も美味い酒持ってきたぞ」
「ビールと酒の肴もたんまりあるぜ。俺はござるから色々情報集めしてたぜ」
今日は山野さんと、村松先生、明石先生が来ていた。
「本当に凄かったですよ。結局本部と医療センターの整地全部終わらしちゃいましたから」
「スキルレベル上げたかったからな、サービスだ」
「山を切り崩して平地を作る工事も含んでいたから、総工費で十五億の予算だったんだがな、業者さんに発注かけてた事もあるから半額で手を打ってもらった」
「という事で、理の今日の日当は七億五千万だ。明日振り込んでおく」
「もう金銭感覚なくなって来たな。俺はスキルもレベル4まで上がったから満足だ。今日はレベル上げ出来なかったから明日は一日ダンジョンに潜りたい。達也【D4】の設定を最大数の十秒湧きで頼む。四層だけでいいからな」
「解った。変えて置く」
村松先生が話し掛けて来た。
「私は取り敢えず明日からダンジョンに連れて行って貰います。薬師のJOBはどうしても取っておきたいので、後は白魔術師も欲しいですね。それにしても岩崎さんは本当に凄いんですね。その内ゲームの様に亡くなった人でも復活とかしてしまいそうですね」
それは流石に怖いからね……
「私もダンジョンには凄く興味があります。今日お会いした【DIT】の方々がみんな見た目は凄くお若いのに、年齢を伺ったら、私より年上の方が多くてビックリしました」と、明石先生は流石に女の人らしい意見を言った。
「鹿内教の信者になりそうだね……」
「鹿内のお姉様に付いて行きます!」




