第17話 小学校で運動会
八月二十五日 二十時
俺は家に戻ってきてTBとゴロゴロしてた。
テレビでは相変わらずダンジョン関係の特番をやってる。
「今日は疲れたな。東京の人ごみは俺にはやっぱり合わないよね」と独り言を言ってると玄関の呼び鈴が鳴った。
出てみると島官房長官と斉藤防衛大臣が来ていた。
「護衛です」と言って坂内さんと東雲さんも来ていた。
「今日は仕事は終わりだ。飲もうぜ」と、島官房長官が大量の缶ビールを抱えて来た。
「おつまみもたくさん用意してきましたよ!」と東雲さんが重そうなスーパーの袋を持っている。
「岩崎さんって見た目若いから、気付かなかったけど俺たちと同じ歳らしいね。プライベートは名前呼びでどうだい? 俺たちも普段仕事外では颯太と達也で呼び合ってるしさ、理でいいよな?」と、斎藤防衛大臣がやたらフレンドリーに話しかけて来た。
「いきなりグイグイくるな。まぁいいさ、颯太と達也だな」
「総理だけは一個上で、今は総理って呼んでるけど前は洋二郎さん。って呼んでたんだぜ」
「颯太がさ、今日総理に『お前も岩崎氏くらい強くなって負担減らしてやれ』って言われてさ、めちゃやる気になってやがるの。俺も颯太に負けるのは嫌だしちょっと頑張って、ダンジョン潜らせてもらおうと思ってさ、今日は付け届けだ」
「理って【DIT】の女の子たちに人気あるんだぜ、希望者募ったら面識のある四人がみんな手を上げたから、じゃんけんで勝ったこの二人連れて来たよ」
「早速、おつまみ作りますね」と言って、坂内さんと東雲さんが台所に向かって行った。
「それじゃとりあえず乾杯だ」
その後結構飲んでたら、十一時のニュース番組に渋谷ダンジョンの被害者女性が、ダンジョン産の薬を使用して全快したと言うニュースが流れた。
映像は流されなかったが、コメンテーターが喧々諤々の議論を繰り広げていた。
「ダンジョンゴールドラッシュの幕開けだな」と、颯太が呟いた。
「呑み込まれないだけの実力を付けていかないといけないけどな。今の俺たちなんか、この二人のお嬢さんに瞬殺されちまうからな」と、達也が言うと
「私たちは元々結構強かったんですよ?」
「そうそう、私は空手と合気道段が二段で、東雲さんは剣道のインターハイチャンプですから」
「そうだったんだ。道理で妙に刀の扱いとかうまいと思ったぜ。鹿内さんもなんかやってたりする? あの人は何か鬼気迫る感じでゴブリン殺しまくってたからな。大島さんとかモンスターより鹿内さんにビビッてたよ」
「鹿内さんは解らないです。元々違う省庁出身ですし、ただ、今日はやたら鏡見ながらニマニマしてましたね」
「あー解るわー。やたら肌を見て若返ったでしょ‼ って俺にも聞いてたしね。颯太と達也は何かやってたりしたのか?」
「俺たちは武道はやってないな。颯太が野球で俺がサッカーだ。モテないスポーツはやりたくなかったからな」
「しかし大臣なんてめちゃガリ勉さんがなるもんだと思ってたが違うんだな」
「国会議員なんてほとんど任侠の世界だよ。ガリ勉じゃ上っていけないな」
「そんなもんなんだな。話は変わるけど、明日さあ、ちょっと試したい事があるんだよな。折角小学校丸ごと使ってるんだから運動会しようぜ」
「何で運動会なんだ?」
「ダンジョン潜る前と後でどれ位違うのか比べててみたい知識欲だな」
「それはいい参考データ取れそうだな。DIT全員参加させるぜ」
「それなら飲み過ぎたらきついから、今日はこの辺で辞めとくか」
◇◆◇◆
八月二十六日 八時
DITメンバー全員と達也が揃ってラジオ体操をしてた。
小学校だけあって計測機器なんかも揃ってる。
百メートル走、走り幅跳び、ソフトボール投げ、握力、背筋力を測ってもらう。
まずはレベル1組が順番に測って普通の数値が出た。
レベルアップ組が計測に入ると驚愕の声が上がる。
握力と背筋は小学校の器具じゃ針が振り切れて無理だった。
百メートル走は一番早かったのが東雲さん6秒85
幅跳びは、鹿内さん12m58(砂場の幅が足りなくてセーブしたらしい)
ソフトボール投げは、桑田班の原さん220M
実に参考にならない数字が並んだ。
俺も百メートル走だけ走って見た。
身体強化無しで3秒86
あーオリンピック終了のお知らせ。
単純に百メートル走って、普通15秒の人が、レベル10で1.5秒にはならないのは、三馬力のスクーターが時速60㎞ 出ても、300馬力の車が時速6000㎞出す事が出来ないのと同じ様な理屈だと思う。
地面のほうが耐えられないとかもあるのかな?
実働隊の面々と颯太と達也を連れてダンジョンに来た。
一班から順に班毎にレベル2、レベル3、レベル4、レベル5、レベル6に上げて再計測。
狩はPTを組んだ状態で俺とTBだけでモンスターを倒して促成栽培した。
颯太と達也は駄々をこねたからレベル7までは上げてやったぜ。
再計測の結果はほぼ予想通りで落ち着いた。
レベル2の班でさえ10秒を切るメンバーが居た。
レベル3だと9秒以下。
レベル4だと8秒以下って感じだった。
颯太と達也が並んで走ったが、颯太がわずかに先着6秒96、達也は7秒ジャスト
レベル6の東雲さんの勝ち! 元の能力が影響するって事だね。
この後サポートメンバーも含めて全員レベル5までは促成栽培した。
JOBはそれぞれで獲得してもらうと言う事で、俺は自分のレベル上げに向かった。
でもレベル35までは上げられると言っても、敵が基本レベル20までしか出現しないから、効率はずいぶん下がってる。
◇◆◇◆
ここからは商売の時間だ。
財務省出身の二人、大島さん、澤藤さんと経済産業省出身の京田さんが商人JOBを得た。
アイテムボックスと鑑定の劣化版が発現する予想である。
でも『ポーター』って言う、初期から劣化アイテムボックス機能を使えるJOBがあったから、商人は鑑定特化な感じかな?
とりあえず欲しい装備を纏めてもらう事にした。
飛び道具は魔法があるので、弾薬や矢が無駄になる銃や弓は候補から外してもらった。
現状はレンタル形式で使用料の発生という形になり、装備一式一人分が一日一万円のレンタルで決まった。
常時十五名は入っているので、日当十五万円にはなる。結構リッチだな。
意外にウサギさんシリーズが人気だった。
レンタル一番人気なくらいには。
◇◆◇◆
八月二十七日 二十時
今日ようやくレベル35を迎えた。
TBもレベル20になってる。
【D2】二層でも一対一ならTBだけで余裕で狩れる。
豊橋の隔離地帯の外壁も、ほぼ半分の地点で基礎工事が終わっていた。
流石にハイピッチだな。
【DIT】のメンバーも颯太を筆頭にみんな頑張ってダンジョンに潜ってる。
今のところ怪我をした人間も出ていないので、装備の効果も十分に感じてもらえるだろう。
そして今日もそろそろ……
玄関の呼び鈴が鳴った。
「理、飲もうぜ。今日は山野さんと鹿内さんが来てるぞ」
当然の様に達也と颯太が来た。
「ここにいる間毎日来るつもりか? でも明日は駄目だぞ。D3出現に二日酔いじゃ辛いからな」
「俺たちは今日でレベル10を超えたぞ。ドロップ品も結構出たから明日鑑定頼んでもいいか? もちろん有償だ。一個当たり千円でどうだ」
「毎日こんな感じなんですか? いつもの大臣と官房長官のイメージと全然違いますね」と、山野さんに聞かれてた。
「ONとOFFの切り替えは凄く大事なんだよ。切り替え出来ない人間は国会議員なんてやると、すぐへばっちゃうよ」と、颯太が答えてた。
「私はダンジョンに入り始めて本当に体の調子がいいから、毎日ワクワク出来てますよ。私も今日でレベル10を超えましたよ」
鹿内さん本当に狩り楽しそうだもんな……
「そう言われてみれば、確かにみんな見た目が若返ってるよな。山野さん以外はみんな同じ歳だけど、俺から見ても鹿内さん三十歳そこそこ位に見えるな。でも、颯太と達也は若く見えすぎると国会の爺さんたちから舐められないのか?」
「まぁ無いとは言わないが、俺たち一応大臣だから上にいるのは総理だけだ。気にする必要も無いさ」
「でも見た目で言うと、岩崎さんなんかどう見ても二十代ですよ。ダンジョン凄いですよね。そう言えば『野口 環』さんから、どうしても魔法使いさんにもう一度会って御礼が言いたいので伝えて下さい。ってメッセージ入ってましたよ」と、山野さんが伝えてくれた。
「元気になって本当に良かったよな」
「今日もビールがうめぇな。ずっと毎日笑っていられる国にしたいぜ」
「颯太も達也も時々台詞がかっこいいよな。持ってるやつは違うなやっぱり」
「初当選までは何ができるか解らないやつに、票入れてもらう訳だろ。選挙コーディネーターに、印象に残る言葉って言うのを徹底的に叩き込まれるんだ。それで普通にそんな喋り方になってくるんだよ」
「ここに来ている【DIT】のメンバーは、みんな家庭は無いのかい? いきなり豊橋に連れてこられて、そのままずっと泊り込みだよな?」
「颯太は独身だが俺は結婚してるぞ。子供は居ないんだが嫁も議員さんだから忙しいんだよ」と、達也が言った。
「俺は中々出会いが無くてな、見合いは嫌だから断り続けてるうちに、この歳になっちまったな。【DIT】のメンバーは、最初二十四時間体制で考えたから、基本未婚者を選んだんだ。後は重要なポイントはみんなオタク要素がある人間を選んでる。選考の際にRPGゲーム、ラノベに詳しいやつって条件付けた。今までの常識にとらわれると柔軟な発想が出来ないからな」
「キャリア官僚のイメージが変わるよな、確かに【DIT】のメンバーに高飛車な官僚のイメージ無いし」
鹿内さんがちょっといい気分になってきたのか、夢を語り始めちゃったよ。
「私はダンジョンのおかげで目標が出来たわ、今感じてるワクワクを世界に広めたい。ダンジョンの有効活用方法、言うなれば【ダンジョンエステサロンシステム】を実現させたいわ。低階層で安全な狩をしてもらいながら、女性の夢をかなえるの」
「国営エステって凄い発想だね」
「私も岩崎さんのお陰で目指す物が決まったわ、一昨日見せてもらった奇跡、治療不可能と言われて来た様々な病気や体の不具合を、ダンジョン産のポーションとか魔法を使って、根絶治療が出来る未来を作るわ」
山野さんは常識の範囲内の意見で安心したぜ。
「こりゃ、ただの飲み会だが本音でいい話を引き出せるな。全員順番に連れ込んでみんなの夢をかたらせるか」と、達也が言い出した。
「そういえば理、スキルってどうやって手に入れるんだ?」
「スキルはな、ダンジョンの討伐報酬かドロップだな。レア個体なんかに出会えたら、落ちる可能性あるぞ」
「それならもっと頑張って、ダンジョンマスター倒せるレベルまで鍛えないといけないな」
「まぁがんばれ」




