74 合成獣の戦術 後編
例えば隣の国のデーモンがゴブリンの国の中で暴れて末端のゴブリンが命を落とす等の被害を受けたとしよう。
すると生き残った末端のゴブリンは偉いゴブリンに、デーモンに被害を受けたと報告するだろう。
それを受けて偉いゴブリンは何らかの対処、例えばそのデーモンを排除するなどの対処を取る。
それが上手くいかなければ更に偉いゴブリンに報告して対処してもらう。
そうしてどんどん話が上層部に上がっていけば最終的にゴブリンキングヒーローが出ざるを得ないことになる。
デーモンの国でも同じようなことが起きればトップのイビルデーモンキングが出ざるを得ないだろう。
そうなるようにお互いの国を刺激するのだ、俺が、ゴブリンに、デーモンに、姿を変えて。
ターゲット同士の殺し合いに発展するように、状況を、情勢を意図して操作して仕向ければ良い。
手法は問わない、例えばゴブリンがデーモンを殺すところを見せたり、建物を燃やして犯行声明を出してもいいし、報復への活動推進を焚き付けてもいい。
そうなればゴブリンがデーモンを憎み、デーモンがゴブリンを憎む敵対構造が発生する。
もちろん上手くいかない可能性もある。
上役のゴブリンやデーモンが平和的に和平交渉などで解決しようとするかもしれない。
でも和平交渉が結ばれた直後、ゴブリンにデーモンが襲われてしまったら?
もしそんなことが起こってしまえば次はそう簡単に平和的解決は望めない。
理性や知性がどの程度あるか知ったことではないが、やられたらやり返すと考えるのが世の常である。
被害者が出ればその家族や仲間が恨みを持つ、やられっぱなしじゃ終われない、報復をすればまたその報復を受けた者が恨みを持つ。
恨みの連鎖が起因する報復の連鎖が始まってしまえばそう簡単に止めることはできない。
報復の連鎖、恨み憎しみの連鎖を断ち切るのは極めて困難だ。
その連鎖を断ち切れなければ、終わりの見えない戦闘、戦争に発展してしまうだろう。
そうなってしまえば行き着く所までは終わらない。
そして戦争が始まれば多数の死傷者が出る、その被害を最小限に食い止めようと国のトップは動く。
最大戦力であり、一族郎党のトップであるターゲットは必ず動く。
自らの家族、仲間を始めとした一族郎党を守るために最大戦力である自身が出るのは当然である。
そして片方のトップが出たのであればもう片方のトップも動くだろう。
実力があまりにも抜きんでているため、ターゲットとターゲット同士で無ければ勝負にならないのだから。
そして如何に危険な戦いであろうとそう簡単に逃げることは無い。
根拠はある、それはお互いのこれまでの人生にある。
ターゲットは今まで自分の圧倒的な実力を行使することで地位や土地を得て、一族郎党を守ってきたのだ。
そんなターゲットがいざ強敵が現れたからといって、家族や一族郎党を見捨てて尻尾を巻いて逃げることなど出来るはずが無いのだ。
お互いの立場と守るべき存在、そして今までの勝利体験が撤退を許すことなどありえない。
もし万が一降参したとしても必ずターゲットだけは命を取られる。
将来の一族郎党の超絶危険因子を摘む好機など逃しはしないのだから。
だからどんなに強大な相手だろうと、劣勢になろうと、死ぬまで殺し合わざるを得ない。
ターゲットの弱点、それは自らの存在により発展し大きくなりすぎた一族。
自らが戦いを望まなくても、戦わなければならない理由を持ち込んでしまう、持ち込まれてしまう一族という鎖だ。
でも自然にそのような争いが起きるのを待つには時間がかかりすぎる。
だから俺がそのきっかけを、小さな火種を起こしてあげよう。
俺がゴブリンの姿になってデーモンを襲い、デーモンの姿になってゴブリンを襲おう。
そうなれば同族を殺されたゴブリンはデーモンを憎み、デーモンはゴブリンを憎むようになる。
お互いの種族仲が険悪になれば、積極的に外敵を排除すべきだと主張する、いわゆる過激派が現れる。
同族が殺されて黙っていられるかという自然な感情。
その感情に基づいて行動すれば俺がアクションを起こさなくも勝手に両者は殺し合ってくれるだろう。
とはいえそんな都合良く行かない可能性もある。
積極的な殺し合いは止めようと主張する穏健派が現れる可能性だってある。
そうなれば過激派の動きが抑制される恐れがある、その時は俺が穏健派を積極的に排除しよう。
そうすれば過激派は仲間を殺された恨みから更に燃え上がり、穏健派を殺されたことに恨みを持つ者の一部が過激派になる。
何時不可逆の一線を超えるか分からない、だが一度超えてしまえば止めることは困難だ。
そしてどんどん感情が悪化していって武力戦争となれば、必ずターゲットが、ターゲット同士が戦うことになる。
そんな状況に持ち込めれば俺の勝利だ。
俺からしてみればどちらが勝とうがターゲットが1匹でも死んでくれれば絶対的な勝利なのだから。
この作戦に弱点があるとしたら、これらは全て俺の理想通りに進んだ場合という話ということ。
俺の考えがそのモンスター達の思想、理念と決定的に乖離していれば戦争状態に陥らないこともありえないわけじゃない。
俺がどんなに戦争に発展するように活動したとしても、絶対に戦争状態になる保証は無いのだ。
だから二の矢三の矢を放つ。
世界には他にもターゲット同士の領域が隣接している地域が多くある。
そこに俺が世界各地を飛び回って、ターゲット同士が戦争になるような火種を世界中にバラまくのだ。
この時に使うのが俺がどうしても欲しかった空間魔法による瞬間移動である。
俺としてはどこか一箇所でもターゲット同士が争えばいいのだから、世界中のターゲットのいる国や隣接国に対して手広く活動しても特に問題が無い。
世界中を移動しまくって対立を煽るなどの火種をバラまく行為を世界同時進行で行うのだ。
俺がいくら自由に動けるとはいえ、たった一人で世界中に火種をバラまけるのかと思うかもしれない。
だが俺が仕掛けるターゲットの国同士の感情悪化作戦は別に毎日継続して行う必要が無い。
仲間が殺された恨みは数日や数週間で消えるものではないからだ。
それに上手いこと対立構造が出来れば、俺が何もしなくても途中からは俺が全く関与していない過激派が勝手に行動して勝手に悪いほうへ情勢を進めてくれる。
そうなればしばらく放置しても問題ないし、もし過激派が大人しくなってしまったら俺がまたガソリンをぶっかければいい。
多少放置したり適当になったり雑になったりするかもしれないが、別にそれでも構わない。
何処かで上手に燃えてくれればそこに注力して、1か所派手にやってくれればそれでいい。
俺はターゲット同士が争って死んでくれるのであれば、どの地域でどのターゲットが死んでもいいのだから。
正直な話、俺はこの戦争誘発作戦はかなりの確率で上手くいくと思っている。
そう思う理由は、俺の前世である。
俺のいた惑星Tにはモンスターはおらず、戦争を行うような高い知能を有する生物は人間しかいなかった。
地方によって言語が異なるとはいえ、全く言葉が通じないわけではないし、同じ人間という種族である。
殺し合いが起これば多くの人間が涙を流すのは誰もが知るところであった。
にも関わらず、戦争や内乱による人同士の殺し合いは時代を問わず世界各地至る場所で発生していた。
最終的には惑星Tの人間が全部死ぬハメになってしまったのだが、これは人間という単一種族で起こしたことである。
同じ種族でも滅ぶところまで行き着くのだ。
ならば高い知能を有する違う種族同士であれば戦争は起こらないだろうか?
断言するがそんなことはありえない。
同じ人間同士でも争いが起こるのだから、違う種族でも起きるに決まっている。
むしろ敵対感情の悪化速度は速いだろう。
だからお互いの敵対感情が芽生えれば絶対に争いになるはずだ、俺の前世が証明している。
さあバラ撒くぞ、世界に争いの火種を。
お願いだからお互いが憎しみ合っておくれ、殺し合っておくれ。
お前達が殺し合うことで得をする存在がここにいるのだ。
早く戦争になぁれ。




