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73 合成獣の戦術 前編

 ついに全ての準備が終わった。

 これより神様から討伐せよと命じられたターゲット討伐のための行動を本格的に開始する。

 ターゲットは全部で21匹、その中で誰を狙うのかが本来重要だったが今となってはさほど関係ない。

 何故なら俺の狙いは、21匹全員だからである。


 ではまずターゲット1匹目とターゲット2匹目を狙いに行く。

 1匹目の名はゴブリンキングヒーロー、2匹目の名はイビルデーモンキングというモンスターだ。

 名前から分かるように一方はゴブリンの国の王、もう一方はデーモンの国の王である。

 この2匹は俺達のいる大陸とは別の大陸に生息しており、数千年前から生き続けて、その生きている時間とほぼ同じ期間、王として君臨している。

 最初は両方とも小国であったが王の武力、知力により勢力が増し、領土は広がり、その大陸では2大王国となっている。

 もし互いの国に歴史学者がいれば、現王のいる期間を黄金時代と呼ぶであろう。

 だが、黄金時代は永遠では無い。

 今から俺の手によってその黄金時代は終焉を迎えるのだ。


 などと格好よくターゲットには死んでいただくと表明はしたのだが、悲しいことに俺が戦って勝てるターゲットは存在しない。

 だがターゲットには俺から見て致命的な弱点を孕んでいる、ほとんどのターゲットが共通の弱点を。

 その弱点を突くために俺は今ゴブリンの国とデーモンの国の間の国境近辺に来ています。

 国境にはお互いに砦のようなものがあり、お互いの往来を制限している。

 つまり国交や交流はあるものの、同一の国ではなく別々の国だと認識していることになる。

 じゃあまずは両国に侵入して雰囲気や状況を把握してから行動を開始しようか。


 というわけで今俺はデーモンの国の国境付近の砦から町に伸びる街道に潜んでいます。

 街道を見ていれば時折少数のデーモンが馬車で荷物を運んでいるが、護衛を行うデーモンは全くいない。

 もしこれが人間であれば程なく盗賊や野生動物の餌食になるのだが、治安が良いのかデーモンの盗賊はおらず野生動物も返り討ちに合うのだろうか。

 だからデーモンの商人は緊張感無く漫然と馬車に乗っている。

 じゃあデーモン君、突然だけど死んでくれる?

 俺は木の陰からデーモンの前に飛び出し、戸惑うデーモン達に接近して手際良く全員切り捨てた。

 デーモンとはいえ平和な日常で戦い慣れていないデーモンなど日々モンスターと斬り合っている俺の敵ではない。

 ではさっさと荷物を漁ろう、お金や貴金属があればベストだな。

 などと考えながらデーモンの荷物を漁っているが、俺がデーモンを襲った目的はデーモンの持っている物ではない。

 俺がデーモンを襲った理由は、この次に近づいてくる別のデーモンにある。



「おい、大丈夫か!」


 しかし返事は無く、何者かに切り捨てられたデーモンを見て、次に来たデーモンは盗賊に襲われたのだと思った。

 自分も襲われるかもしれない、そう思ったデーモンが周囲を警戒すると、ガサガサと音がして、慌てた様子でこの場を離れるゴブリンの姿があった。


「奴らの仕業か、薄汚いゴブリンめっ」


 追いかけたい衝動に駆られるが、盗賊を相手にするのは危ない気もするし、同胞を助けなければならない。

 しかし何故ゴブリンが国境を越えて俺達の国にいるんだ。

 まずはコイツを連れて早く街に戻り報告しなければ、デーモンはそう判断して自分が来た道を戻っていった。



 とりあえず最初の一手は打ち込めたな。

 街に戻ったデーモンが見た盗賊ゴブリンは隣のゴブリンの国のゴブリンではなく、ゴブリンに変化した俺である。

 だがあのデーモンは間違いなく、ゴブリンの国のゴブリンが国境を越えて侵入し、盗賊行為を行ったと認識しているはずだ。

 別の大陸から来たゴブリンが襲ったとは考えにくいし、まさか様々なモンスターに姿を超える合成獣(キメラ)がやったなどと考えるはずもない。

 だから今頃あのデーモンは街の役人に、ゴブリンの国から入ってきたゴブリンが盗賊行為を行って仲間を殺したと報告しているはずだ。


 そうなるとデーモンの役人が現場検証をしてゴブリンがやったという証拠があるか確認するだろう。

 数か所にゴブリンの足跡をくっきりと残してきたが、それを確たる証拠として見るかは分からない。

 それを証拠としてゴブリンの国に抗議しても良いし、しなければ二の矢を放てば良い。

 時間かかりそうだし、ゴブリンの国でも同じことをしようかな。

 デーモンになって盗賊行為をすれば目撃したゴブリンも、デーモンの野郎やりやがったなと思うだろう。

 偏見ではあるが上級ゴブリンはともかく下級ゴブリンは頭悪そうだし。

 少しづつ、徐々に、お互いにヘイトを溜めてもらう。

 デーモンもゴブリンも、お互いに憎しみ合う人数が増えていけばいい。


 とはいえこの程度では敵対意識は高まるだろうが、直ちに殺し合いや戦争には発展しないだろう。

 大国同士が争えば被害が大きい、普通は交渉などを駆使して事前に争いを回避させようとする。

 でも万が一、争いを行わないために同意した交渉をぶち壊すような事件が起きてしまえば、もし起きてしまえばどうなってしまうのだろうか。



 俺がターゲットを殺すために用意した秘策、それはターゲット同士に殺し合ってもらうことだ。

 神様からの依頼はターゲットを1匹でもいいので殺すことだ。

 でも別に俺がターゲットと戦って勝つ必要なんか無い。

 ターゲット同士で殺し合ってもらって、そのうち誰か一人でも死んでくれればそれでいいのだ。


 とはいえそのような殺し合いはそんな簡単に起きたりはしない。

 誰だって死ぬのは嫌だ、自分より強い相手はもちろん同格の相手とでも殺し合いは極力やりたくない。

 ターゲットのように寿命の長いモンスターならば、強大な相手が弱体化したり死んだりするのを待てばいい。

 だからターゲット同士の衝突は起こらない、何事も無ければ。

 ただしターゲット達が衝突せざるを得ない状況になってしまえば?

 ターゲット本人は衝突するのは嫌がるかもしれないが、そうも言っていられない事態に発展してしまえば?



 ターゲットには弱点がある。

 それは自分が強大な存在として長い年月を生きてしまったが故の弊害。

 ターゲットは一人で生きている者はほとんどおらず、長い年月の中で子を作り、家族を作り、仲間を作り、その子孫や新たな仲間が増え続けて巨大な一族となっている。

 ターゲットはその一族の頂点に立つ存在、だから一族に大きな問題が起きれば対処しなければならない。

 ターゲット本人が何も問題を起こさなくても。

 一族に何かが起きれば対処しなければならないのだ。

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