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72 神様ヘルプ 後編

 見つめあう巨大猫の人形(はおうきてい)と俺。

 何時ものように冗句を挟んだり解説の精霊に解説させながら戦う余裕など微塵もない。


「水よ、流れは我が先にあれ。放出しろ、勢いは滝の如く。両指の限界まで放て!ジェットウォーター!」


 まずは小手調べに覇王鬼帝の顔面に向けて水魔法を掌から放つ。

 放水銃のような勢いで放たれる水、直撃すれば脱水される前の人形のようにずぶ濡れになり動きを阻害するだろう。

 しかし覇王鬼帝は慌てる様子もなく自分がデザインされた傘状の盾を繰り出し全て防がれてしまった。

 盾を仕舞った覇王鬼帝の顔は、表情の多くを構成する口が無いせいで相手の感情が読みづらい。

 だが俺を見つめる雰囲気で伝わってくる。

 覇王鬼帝は笑っている、本当の姿を看破した久しぶりの強者に出会って喜んでいるのだ。


 余裕ぶりやがって……その表情をすぐにでも絶望に変えてやる。

 俺が街から離れたのは街や人に被害を出さないためではない、俺の合成獣(キメラ)の能力を発揮するためだ!

 俺は人間形態から姿を変化させる。

 本気の俺の戦い方、それは人間ではなく合成獣にあるのだ。


 俺が姿を変えたのは本来の俺、合成獣の俺である。

 顔と体は雄々しいオスのライオン、尻には人相の悪い羊のような化物、尻尾はふさふさ感など微塵もない蛇である。

 胴体全てはマジックアイテムである三度防ぐ黄金の鎧に包まれており、伝説の魔獣と呼ばれても何ら違和感の無い出で立ちだ。

 難点があるとすればこの姿では武器が使えないことであるが、それは想定内。

 その難点を補い余るメリットがこの合成獣にはある。


 ライオンの俺がやるぞお前らと、声を出すと尻尾の蛇の俺がなかなかの強敵だな、と声を出し尻の羊の俺が、ようブラザー苦戦してるようじゃねえかと声を出す。

 そう、ライオンの俺はフィヨルドであるが、蛇の俺は荒事担当のヨクシャリパ、羊の俺は陽気担当のレプスキーが担当しているのだ。

 だからなんだと思われがちだが、魔法という技術があるこの世界では圧倒的有利に立つことが出来る。

 行くぞヨクシャリパ、レプスキー、奴にジェットストリーム攻勢を仕掛けるぞ!


「業火よ、燃やし尽くせ!ヒルファイアー!」

「大地よ、突き刺す矛となり敵を穿て!サンドランサー!」

「氷塊よここに、無数の氷柱つららとなり我が前の敵を貫け!アイスニードル!」


 俺3人が同時に魔法を使用し、俺の口から炎が、足元からは土の槍が、更に上空からは鋭利な氷柱が同時に覇王鬼帝に襲い掛かる。

 これには覇王鬼帝も面食らったのか、大きな図体を突如高速移動させ炎と土の槍を躱したものの、広範囲に降り注いだ氷柱は何本か頭部に突き刺さった。

 この魔法同時使用こそが俺の合成獣の最大のメリット、決して人間にはできない芸当である。


 人間はもちろん大半の生物には口が一つしかないため魔法は同時に使うことはできない。

 この同時使用が不可能という点における最大の欠点は、1人の魔法で攻撃と防御を同時に行うのが非常に困難な点である。

 だが今の合成獣の俺には従来の生物の常識を覆し、口が頭と尻と尻尾にある。

 そのため俺は通常では不可能とされてきた魔法の同時使用が可能なのだ!

 よって俺は覇王鬼帝の3倍の魔法を撃つことが出来る。

 この差は格段に大きい、3倍だぞ、3倍!


 1対1にも関わらず魔法に関しては数的有利を作り出せたアドバンテージは限りなく大きい。

 だが覇王鬼帝は何事もなかったかのように頭に刺さった氷柱を引っこ抜いてまだまだ余裕な感じである。

 ……妙だな、先程から覇王鬼帝は防戦一方、こちらに攻撃してくる気配が無い。

 何を企んでいるんだ、と思ったのも束の間、周囲の空気が一変した。

 覇王鬼帝の後方から突如現れたのは様々なモンスターの群れ。

 黄色い太った犬、ネクタイを締めたペンギン、小さな男女ペアの魔導士、怪しげな白いマスコットなど多数。


 見たことのないモンスター達、しかも明らかに覇王鬼帝に味方するために現れたのは明らかだ。

 これは偶然ではなく何らかの方法で助けを求めたか、空間魔法で呼び出したか。

 奴め、俺に攻撃を仕掛けてこなかった理由は援軍を揃えてから一転攻勢を仕掛けるためかっ!

 覇王鬼帝他10体の魔物は一斉に魔法を詠唱し俺に魔法の集中放火を放った。

 防御? 無理だ、威力が違うとはいえ防ぎきれない、俺の3倍だぞ、3倍!


 俺は一瞬で体を変え、背中に羽が生えた人型の魔物、レッドウォーリアーに姿を変えて上空に急浮上した。

 俺がいた場所が爆発四散し回避したと思った刹那、突如強烈な雷が俺の背中に直撃して俺の黄金鎧の守護が1回分が消し飛んだ。

 ぐぇっと思わず嗚咽が漏れる。

 どうやら男女ペアの魔導士が唱えた雷魔法が少し遅れて飛んできて不幸にも直撃してしまったらしい。


 これは不味い、どうする、逃げるか?

 だがこの機会を逃せば次に覇王鬼帝を見つけられる保証はあるのだろうか。

 もし次があったとしても、今よりも好条件で戦うことが出来る機会は訪れるのだろうか。

 敵は多いが緊張感のある顔をしたモンスターはいない、見た目だけで判断するならば勝てないことはない。

 ……やるしかない、手痛い反撃は浴びたがまだ死に至る致命傷でもないのだ。

 死ぬ気で戦わなければならない時が偶々今来てしまったのだ。

 覇王鬼帝いつ殺るの? 今でしょ!

 敵は多数、かなりの長期戦になるかもしれない。

 合成獣と覇王鬼帝とその一派との戦いが今本格的に始まったのだ!



≪奇跡の一戦!合成獣VS覇王鬼帝と仲間達≫

未知の獣と未知の怪物の争い。未知バトルファンも納得の化物達の壮絶な決戦を捉えた!

・ストーリー

 幻想上の生物と思われた合成獣と不明点の多い覇王鬼帝一派。

 偶然と必然が重なりオスト大陸の街の郊外で相まみえる両者。

 小競り合いかと思われた激突はお互い一歩も引くことなく激しさを増していく。

・見どころ

 合成獣が魅せる派手な変化に度肝を抜かれること間違いなし。

 長らく生態不明であった覇王鬼帝とその仲間達の可愛らしさとユニークさ、そしてその驚きの生態も必見。

 かつてない規模で激闘を繰り広げるクライマックスは圧巻の一言。


第一話 対峙

 精歴1976年、オスト大陸の人間の街で獲物を狙っていた合成獣と覇王鬼帝。覇王鬼帝が狙った餌を合成獣が奪い取ろうとしたことで抗争が勃発。街の郊外でお互いのプライドを賭けた一大決戦の火蓋が切って落とされようとしていた。


第二話 激突

 激突する直前、長時間の詠唱の末全魔力を消耗し召喚魔法を使用し愉快な一派を呼び出した覇王鬼帝。思わぬ増援にも冷静に対処し翼を生やし制空権を得る合成獣。嵐のような魔法のぶつけ合いが大地に響く。


第三話 衝撃

 数の暴力により苦戦を強いられる合成獣。一方の覇王鬼帝は仲間を武器に、盾に使用し着実に追い詰めていく。このまま決着が付くと思われたが不意に覇王鬼帝の背後に回った白い大きな耳の魔物が……。


第四話 仁義

 支持を失ったロートルとなっていた覇王鬼帝を始末する良い機会と捉えた白い大きな耳の魔物の強襲。まさかの仲間の裏切りの凶刃に倒れる覇王鬼帝。その行為を目の当たりにした合成獣がかつてない怒涛の攻勢を仕掛ける。


第五話 決着 

 合成獣の神速の反撃に次々と倒れ、命が弾ける。しかし残りの魔物達も負けじと応戦し、ついに合成獣のマジックアイテムの鎧が砕け散る。果たして最後に勝利をつかむのは、そして戦いの衝撃の結末とは。




 どうにか勝ち申した。

 正直何度か死に掛けたけど、途中で覇王鬼帝が仲間に後ろから刺されたのは本気でビビったわ。

 あの裏切りのおかげで相手側が混乱したから状況巻き返せたけど、アレ何だったんだ。

 仲間だけどいつでも裏切って俺がトップになってやるという不良グループのような関係だったのだろうか?

 あれで相手も困惑して焦ったけど、俺も刺された覇王鬼帝から体液が出てきて焦ったんだよね。

 覇王鬼帝の血も大量に吸収しないと奴の能力を俺の物に出来るか不安だったから、慌てて他の魔物を処理する羽目になった。

 本当は最後に倒すつもりだったのにあそこで計算が狂ったんだよなぁ。

 その結果最後カウンター1発貰ってしまってお値段1億以上した三度防ぐ黄金の鎧がぶっ壊れた、トホホだよ。

 だが覇王鬼帝をキッチリ吸収して俺も覇王鬼帝に姿を変えることが出来るようになったので良し。

 でもまだ詠唱が分からないので瞬間移動魔法が使えない。

 早く神様に降臨してもらって魔法の詠唱を教えてもらわなければならない、神様出番ですよー!



 数日後夢に出てきた神様に覇王鬼帝を倒したことを報告した。

 かの激闘について熱く語ろうとしたのだが、忙しいのかそれはどうでもいいと言われてちょっと凹んだ。

 ならすぐに瞬間移動魔法を教えてもらおうと思ったが、神様曰く翻訳魔法は短く簡単だが瞬間移動魔法の詠唱は極めて長いらしい。

 具体的に言うと落語1本ほどの長さなので俺の脳みそでは覚えることが難解な事実が発覚した。

 そのため神様が気を利かせて俺でも覚えられるくらい簡略化して馴染みのある言葉に詠唱に変換したものを教えてくれることになった。

 その分かなり限定的、自分一人しか移動できないし、10箇所までの登録した場所にしか飛べないが使えないよりはよっぽど良い。

 さすが神様、ではどのような詠唱なのか教えてください。


「青巻紙(あおまきがみ)赤巻紙(あかまきがみ)黄巻紙(きまきがみ)を3回、この竹垣に竹立てかけたのは、竹立てかけたかったから、竹立てかけたを2回言った後にワープ使用、行きたい場所を言えばよい」


 すいません、もう一度お願いしますとリテイクをお願いしたが、無視されて詠唱のメモを渡された。

 どうやら2回も言いたくはないらしい、神様にも出来ることと出来ないことはあるようだ。

 やたら難しい詠唱だけどゆっくり言えばなんとかなるかな、と思ったが15秒以内という時間制限があるそうだ。

 神様もう少しどうにかなりませんか、この魔法使う前に俺舌噛んで死んじゃいますよ。


「グダグダ言わずとりあえず一度やってみろ」


 と言われて物は試しと一回唱えようとしたら舌を噛んでその痛みで夢から目が覚めた。

 なんか上手く誤魔化された感じもするが、神様もきっと忙しいのだろう。

 神様も俺が瞬間移動魔法を使えるようにやるべきことをやってくれたのだから、俺も俺がやるべきことをやらなければならない。

 まずは……早口言葉の練習からだな。

 ところで巻紙って何?

 俺を苦しめるための言葉以外で聞いたことが無いぞ。

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