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71 神様ヘルプ 中編

 覇王鬼帝(はおうきてい)というモンスターを探すためとはいえ、観光地巡りも悪くないなと始める前は思っていた。

 思えばせっかく異世界に転生したのにロクに旅行や観光もしていなかったからいい機会だと思った。

 昔神が造ったと言われる謎の建築物、やたら太くて大きな木、伝統ある寺院、自称由緒正しい泉。

 観光地なんて世界が変わっても大差ねえな!


 お土産屋には定番の名所の名前の付いたお菓子、シャツ、キーホルダー、木彫りの像などが並んでいてとても既視感がある。

 冷静に考えれば俺は昔から旅行にあまり興味が無かったし、土産物にも大して興味がない。

 精々関心があったのは旅行や帰省から帰ってきた会社の人が買ってきてくれたお土産のお菓子くらいだろうか。

 そんな俺が観光地の土産物屋を中心に巡ってもあまり楽しくない。

 旅行というよりは仕事に近い、市場調査員かパチモンのブランド品を探す税関職員の気分である。



 思っていたよりもきっついわ。

 観光地の土産物屋多すぎるんだよ、しかも俺やってることって店員から見ればただの冷やかしだし。

 半日から一日かけて全ての土産物屋をチェックして駄目ならまた別の観光地へって普通にしんどい。

 観光地から観光地への移動時間を短縮できる俺じゃなかったら挫けているぞ。

 連日の観光地巡りにさすがに疲れたので今日は休養日にする。

 観光地の土産物屋をただただ回るのは精神的に苦痛である。


 というわけで久しぶりにアズールに泊まることにする。

 5年以上過ごしたこの街の懐かしの宿に泊まると実家のような安心感がある。

 夕飯も常連となっていた食事処で一番好きだったメニューを注文した。

 当時は食べ慣れていたはずの味だが、不思議と初めて食べた時と同じくらいの感動があった。

 感動に浸りつつ食事処を後にすると、この街に根城を構えていたエリアンテら一同と出くわしてしまった。

 

 久しぶりーと声をかけられて振り向いたらそこにはエリアンテ、ムンク、スポンジ、あと一人知らない奴。

 買い物袋を持っているのでどうやら買い物帰りらしい。

 荷物も重いだろうから軽めに会話して切り上げればすぐに帰宅してくれるかもしれない。

 夕食の買い出しかと尋ねたところ、明日からバンギに帰省するからそのお土産を買いに行っていたらしい。

 俺は仕事で土産物屋を回っているというのにこいつ等は気楽でいいなぁ。


 3人は何を買ったのだろう、どうせ何処の土産物屋にでもあるつまらないものだろう。

 そうだ、各地の土産物屋を回っていた俺がお土産のセンスを採点をしてやろう。

 そう思い3人の買い物袋の中身を順番にチラっと見たところ、エリアンテの袋にはお菓子の箱と人形が入っていた。

 その人形はそれほど名所でもないアズールの滝を登っている鯉の格好をしたリボンを付けた猫。

 女性の目を引く可愛らしいデザイン、丁寧に作られた鯉と猫とモンスターがコラボした魔性の猫人形(はおうきてい)。

 10歳下の妹用に購入したそうで、普通に採点すれば70点であるが人喰いモンスターを購入している時点でエリアンテ君マイナス100点。

 とはいっても俺にとっては1億点、寮同士で得点を競うならもう優勝確定な得点である。


 思いもよらぬ出会いであるがここで何としてもこの人形をエリアンテから奪わねばならぬ。

 もしこのままエリアンテがこの覇王鬼帝を家に持ち帰ろうとすれば、エリアンテはもちろん仲間も全て殺戮されてしまうだろう。

 エリアンテらの生命を守るためにも、俺の故郷の平和を守るためにも、そして何よりも、俺が生き残るために、必ずやこの人形をゲットしなければならない!

 そのための作戦としてこの場でパッと思いつくのは3つ。

1.そう、かんけいないね。一旦放置してエリアンテが襲われているところを強襲する。

2.殺してでもうばいとる。残念だがエリアンテには犠牲になってもらう。

3.ゆずってくれ、たのむ。エリアンテに覇王鬼帝人形を譲ってくれるようお願いする。

 さて、どの作戦を選ぶべきだろうか。


 とりあえず1のそう、かんけいないね、はあまりメリットが無いな。

 一見俺に有利に見えるかもしれないが、街中での戦闘はデメリットが多い。

 俺は人間としてしか戦えないし、戦っているのが分かると近くの善良な冒険者が助太刀に現れてしまうかもしれない。

 もし多数の冒険者と共闘すると、倒したとしても大技を使って死骸の大半が消失してしまうかもしれない。

 覇王鬼帝の身体の大部分が残っていないと、吸収したとしても俺が覇王鬼帝に姿を変えることが出来ないのでまた新たな覇王鬼帝を探すハメになってしまう。

 それでは今回見つけた幸運が全て海の藻屑のように消えてしまう。

 そんな最悪の事態は避けたいので、街の外で戦うように持っていきたい。


 じゃあ2の殺してでもうばいとる、これは悪くない。

 エリアンテの命を代償にして覇王鬼帝を確実にゲットできる安定策だ。

 ただ問題としてこの場にエリアンテの他に仲間が3人、更に通行人多数。

 通行人の問題は人気の無い場所に誘導すれば問題ないにしても、4人を騒ぎを起こさずに制圧するとなるとちと厳しい。


 やはり無難に3の頼んで譲ってもらうがベストか。

 難点はエリアンテがそう簡単に手放してくれるかだな。

 俺がお土産用の人形を譲ってくれと頼むのって普通に不自然だし、周りの仲間が茶々を入れてきそうだ。

 一般的にはそんなに難しく考えず、エリアンテにこの人形がモンスターだからと言って回収すればいいと思うかもしれない。

 ただしそれは覇王鬼帝が許さない、この人形が覇王鬼帝だと指摘してしまうと覇王鬼帝が本性を現してこの場で暴れてしまうのだ。

 なのでこの人形が覇王鬼帝だと伝えることなくこの人形を譲ってもらわなければならないが、上手くいくだろうか。

 やる前から心配してもしょうがない、駄々こねようが土下座しようが必ずやエリアンテから覇王鬼帝を奪取してみせる。



 エリアンテ君、ちょっと話あるんだけどいい? 他の奴は帰っていいよ。

 そういった旨を彼女達に伝えると何故か私達も着いていくと言ってくる。

 何でお前らも着いてくるのか聞いたところ、お前が何か悪い話を持ってきてエリアンテを騙そうとしているに違いないと言う。

 どうやら俺が普段ならば絶対にしないエリアンテと二人になろうとしていることに不信感を覚えたようだ。

 なんと理不尽な疑いをかけるものだ。

 俺はエリアンテからお土産予定の人間殺戮人形を奪い取ろうとしているだけだ。

 むしろ騙されているのはお前達だぞ。

 そのお土産予定の人形は逆にお前達をエサとしてお土産にしようとしているのだから。


 まあ着いてきてもいいけど邪魔はしないでくれよ、その代わりにエリアンテ、その人形頂戴。

 当然のように周りからは何で、と妨害が入る、俺とお前達のためだよ。

 でも正直には言えないので、依頼でこの人形を納品してくれって依頼があったと誤魔化す。

 しかしスポンジらに、それならうちらが納品すればいいじゃん、と至極当然な返しをされてしまった。

 もちろん俺は食い下がる、ソヤパンの街に納品する必要があるんだよ、お前達はソヤパンに行く用事あるの? 絶対に無いでしょ、お金は払うからその人形譲ってくれよ。


 だがスポンジらは、一体どんな依頼なんだ、お前がそんな低ランクな依頼受けることが怪しいと未だに俺への疑惑の目が強い。

 確かにこんな納品依頼Eランクだとしてもおかしくないレベル、面倒な指摘をしてきやがる。

 ただこの程度の誤魔化し、Sランクになるときの深夜の警察の尋問に比べれば楽勝よ。

 お得意様からの依頼なんだ、昔アズールで見た鯉の格好をしたリボンを付けた猫の人形がどうしても得意先のお孫さんが欲しがっていてね。

 ムンクがなんか言ってるな、だったらその辺りの店に売ってるかもしれないから探せだと?

 もう土産物屋を探したんだよ、でも見つからなかったんだよ。

 次の入荷がいつになるか分からないし、エリアンテだって絶対にその人形じゃないとダメってわけじゃないだろう?

 よく見ろエリアンテ、口がないデザイン、リンゴ3個分ほどの重量感、しかも滝登る鯉とコラボって変だと思わないのか。

 それよりは玩具屋でもっと良いの買ったほうがいいって。

 可愛い(?)妹へのお土産なんだからさ!

 

 俺の熱意溢れた説得に納得したのか、代わりの妹へのお土産代を負担することで覇王鬼帝人形の取引は成立した。

 ちなみにスポンジらが自分たちのお土産も一緒に買ってほしいなどと戯言を抜かしたので、それはふざけんなと一蹴した。

 ただしエリアンテに関してはムンク辺りが入れ知恵したのか、あの人形は妹3人分の物だったからと3人分の土産を要求してきやがった。

 30分ほど粘って半ば強引に譲ってもらったことだし、常識的な範囲でならとその点は合意した。

 脳みそが上等なチンパンジーくらいだと思っていたが、いつの間にか上手に取引できるように進化したなぁと感心。



 お土産代を支払って彼女達と別れた俺は、覇王鬼帝人形を片手にアズールから離れた広い草原に向かっていった。

 途中で暴れて正体を現す可能性も考えていたのだが、予想に反して微動だにすらしないので本当にただの人形なのではないかと疑念を抱いてしまう。

 アズールから十分に離れたのでそろそろ始めようか。

 そう思って覇王鬼帝人形を地面に置いてファイティングポーズを取ったが反応が無い。

 えっまさか本当にただの人形か?

 不安に駆られて持っていた槍で人形の胸をつつこうとした瞬間、突如人形の目が光り、水に入れたら膨らむ人形のように急速にその姿が巨大化した。

 ついに本性を現したか……って思ったより相当デカいな。

 大きさはリンゴの樹くらい、体重は推定だがリンゴの樹3本分くらいありそうである。

 想像以上にデカい図体に臆しそうになったが、なんの、図体のデカさと強さは比例しない。

 このフィヨルド=ボレオがさっさと切り刻んであの世(テーマパーク)送りにしてやるぜ……!

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