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69 不可能に勝て

 俺はターゲットには勝てない、戦わずとも見て、感じて、理解できた。

 戦力差があるどころではなく、勝利することが不可能な差がある。

 俺が一般的な人間だったらターゲットは宇宙から来た巨大怪獣、実在するものであれば俺がアリだったらターゲットは象、エリザ様ならそう例えてくれるだろう。

 もし俺が一般的な人間だとして伝説の剣を持ち伝説の鎧を着こもうが、宇宙からやって来て口から1兆度の火を吹く怪獣には勝つことは出来ないし、アリが仮に人間と同じ知能を有していたとしても象にタイマンを仕掛けて勝つことはない。

 俺は神様から合成獣の能力を授かった、でも体長10メートルのモンスターを秒で即死させるような相手に勝てる存在になることはできない。

 1人が駄目なら仲間を集めればいいじゃないと考えるかもしれないが、精鋭100人集まっても誤差みたいなもんだ。

 もし選りすぐりのアリ100匹で象に勝てるなら俺の前世の世界はアリに支配されていただろう。

 じゃあアルカトラズより弱いターゲットを狙えば良いと思うかもしれないが、情報を見る限りアルカトラズは単体では実力は他のターゲットに比べて低め。

 もしかしたらこんな絶望的な状況であっても、前世の歴史に出てくる戦争や戦術の先生ならば素晴らしい作戦が思い浮かぶのかもしれない。

 しかし俺は前世でただただ普通に暮らしていた一般人である。

 画期的な戦略や策略を考え付く頭など今も昔も持ち合わせていない。

 つまり俺とどんなターゲットが戦っても勝利できる確率は、0だ。


 意気消沈してソヤパンに戻り、自棄になって酒をガンガン飲んだ。

 どうするんだ俺、このままだと死ぬぞ。



≪ラダモンの庭手入れ担当アルラウネ≫

 私はアルラウネ、植物系モンスターで5年前流刑の判決を下されこの大地に飛ばされた。

 私はそんなに悪いことはしていない。

 ちょっと近くにいた栄養を過剰に奪い取るミントの群れに腹を立てて火の精霊にお願いして焼いてもらったら、そのまま延焼して山一つ燃やしたくらいだった。

 ついでに集落も3、4箇所くらい焼け落ちた気がするけど誤差だと思う。

 なんかよく分からないうちに取り調べ受けて裁判所連れてかれて流刑になった、意味分かんない。

 で、流刑で飛ばされて目の前にいたのがアルカトラズ様。

 目と目が合った瞬間死んだと思った。

 本当は死刑でそのまま処刑台に上がらされたのかなって疑ったもん。

 幸いなことに服従か死かを選ぶチャンスを与えられてもちろん服従を選んだ。

 私まだ若いから死にたくないし。

 アルカトラズ様に反乱防止のため精霊言語は封印されちゃったから同族としか話せなくなったのはちょっと不便だけど仕方ないかな。

 ま、アウトフィットの中なら精霊言語を話せるようにしてもらえるからそこまで問題ないけど。


 そんな私は今アルカトラズ様の家兼職場であるラダモンの中の庭の手入れを任されている。

 季節ごとに花を植え替えたり、木の剪定もやっているけど給料もやりがいもあって楽しい。

 それに比べて去年までの家庭菜園の担当は本当に大変だった。

 野菜の世話も大変だけど、収穫前の野菜や果物の大半をカラスやモグラに食い荒らされたことにアルカトラズ様が激怒して害獣排除命令が出されたのだ。


 5年前に解除され運悪く私の担当の時に発令された百数十回目の害獣排除命令。

 これの何が大変って毎回新しい案を出せって命令されること。

 前回と同じ方法でいいじゃん、と思うんだけどそれは許してもらえない。

 そして今回は柵の上に飛んできた鳥は自動で撃ち落とす魔法を改良、したんだけど何故か食べ物でも何でも撃ち落とす効果になってしまった、何でだろ。

 モグラ対策にはラダモンの敷地内の土に入ると自動で門番の人の殺気を伝えるようにした。

 これで大半のモグラや地中生物は近づいてこない。

 たまーに命知らずが入ってくるけどそれはもう天晴れってことで。

 と楽観的に考えていたら収穫前のサツマイモがやられてアルカトラズ様の殺気に心臓が止まりそうになった。

 いやぶっちゃけ止まったねアレは。


 あんな強いアルカトラズ様相手にもたまーに逆らう相手いるからウケる。

 つい先日もでっかいのが飛ばされてきたけど瞬殺されたし、誰ならアルカトラズ様の相手になるんだろう。

 でもアルカトラズ様の本気を見る日がなんて来ないといいな。

 もし本気で戦ったら私もアウトフィットも丸ごと消し飛ぶんじゃないかな。

 とはいえアルカトラズ様に喧嘩売ってくるやつなんかいないだろうけどね。

 どんなバカがそんなことをするのか想像もつかないわ。




 宿屋で寝て起きたけど二重の意味で頭が痛い。

 ただ昨日酒飲んで考えたけどさ、これ俺悪くなくない?

 合成獣の能力はそりゃ強いよ、しかも滅茶苦茶便利。

 でもあんな化物じみた強さを持つターゲットを殺すためには何ら役に立たない。

 つまり化物相手には全く意味のない能力を神様から渡されて化物を殺してこいと言われたのだ。

 ロールプレイングゲームで例えれば王様から50ゴールドと安物の武器防具を渡され魔王を倒してこいと言われたも同じである。

 それでも限界まで頑張れば倒せる程度の強さの魔王ならいいんだけど、ターゲットたちは数値バグってて倒せないのがね。

 せめてターゲットの一人が何らかの原因で死んで俺がそれを吸収出来ればいけるかもしれない。

 でもその時はもう目的達成してるから意味がないんだ。

 最強の武器を手に入れるために一番強いボスを倒したら結局使う相手がいないという本末転倒な感じ。

 ひっそりと自然死とかしてくれないかなぁ、もういい年数生きたでしょ。

 でもそんな簡単に死ぬことが無いから俺がこの世界にやってきたんだよなぁ。

 助けて神様! 俺このままだと化物か神様に殺されちゃう!



 神様に助けを求めて実際に神様に助けられた人って何人くらいいるんだろうか?

 少なくても俺は該当しませんでした。

 むしろ俺は今神様のせいで命の危機が発生している人です。

 昼過ぎに二日酔いの方の頭の痛みが治まったので気晴らしに外に出て公園のベンチで遅めの昼食を取る。


 世界はこんなにも明るいのに俺のお先は真っ暗だ。

 昼食を食べていると遠くの砂場にいた子供同士で喧嘩が始まった。

 どうやら玩具を巡った喧嘩のようで2グループが口喧嘩になっている。

 子供達は幾ばくかの時間を口喧嘩に費やしたが、それで事態は収まらずついには殴り合いの喧嘩に発展した、やれっ、そこだっ。

 ただ一つこの喧嘩を見ていて残念に思うのは、勝つほうがどちらかは簡単に予想がつくのでその点では面白みを欠くことだろうか。

 何せ喧嘩になったのは前世でいうところの小学校低学年のグループと高学年のグループだからだ。

 人数差もないし普通に高学年のグループが勝つでしょ。

 強いほうが順当に勝つ、現実は非情である。


 しかしここで不思議なことが起こった、低学年のグループが勝利したのだ。

 もちろん低学年のグループが実力で勝ったわけではない。

 低学年グループの一人を迎えに来た青年がその喧嘩を見て乱入し、高学年グループを暴力で蹴散らしたのだ。

 高学年グループも低学年相手に大人げなかったけれどあの青年も大人げねえな。

 もうちょっと文明的な解決方法を考えればいいのに。

 力で解決すれば更に大きな力に滅ぼされるぞ、そんなありきたりな考えを胸に宿に帰ろうとした。


 ……待てよ、今俺は何を見た。

 弱者が強者に勝つ瞬間だ、俺が今やるべきことだ。

 何故強者は負けたのか。

 何故負けるはずの無い戦いに負けることとなったのか。

 何故負けてしまう戦いが始まってしまったのか。

 俺の脳内にある一つの閃きが走った。

 まだ詳しく考えていないし、状況も何も分かっていないのだけれど。


 もしかしたら俺は、化物(ターゲット)を殺せるかもしれない。

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