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68 はじめてのすぱい 後編

 関所を出てメインストリートらしき道を歩いていくが、予想以上に多種多様なモンスターが溢れている。

 人型、樹木型、動物型、爬虫類型、昆虫型など共存できるのか疑問なモンスター達が人間の街と同じように生活をしているように見える。

 異世界にやってきてモンスターが外を闊歩していたり魔法があったりして異世界感あるなと思っていたけれど、多種多様なモンスターが集まっているこの街の光景が一番異世界感あるわ。


 そういえばこの街でモンスター達はどうやって買い物をしているんだろうか。

 露店とか店舗とか色々あるけれど支払いどうするんだ?

 モンスターって基本鞄みたいなもの持ち歩かないし財布を持っているモンスターも見たことがない。

 基本裸族だからねモンスターって、RPGみたいにお金持っていることもない。

 どうするのかなと思い野菜を買おうとしているリザードマンがいたので様子を眺めていると、リザードマンは魔石を店員の持つ機械のような物に近づけた。

 するとリザードマンの魔石からイディ! という音が鳴ってリザードマンは野菜を持ち帰った。


 まさかのキャッシュレス決済!?

 もしかして文明レベル人間よりこっちのほうが高いの?

 というかキャッシュレス決済なんて俺の前世ですら子供の頃まだ一般的じゃなかったんだけど、まさかこんなところでお目にかかることになるとは思わなかった。

 あとイディ! って音が鳴ったけどまさかモンスター達の通貨って人間と同じイディなのか?

 なんでモンスターがイディを使っているんだ……と思ったけれど、そういえばマーマンもイディを所持していたな。

 まさかあのイディってマーマンが本当に使うために持ってたのか?

 でもそう考えればマーマンがイディを持っていたのは納得できる話だな。


 そういえばイディって人間が造ってるわけじゃないんだよね。

 人間は元々は国ごとの金貨とかの貨幣を使っていた。

 でも戦争とか内乱とか分裂とかインフレが起こって、最後は価値が安定している精霊が造るイディを使い始めて最終的にそれが普及した。

 モンスター達が使用している翻訳魔法は精霊語、つまり共通語に近い存在だ。

 そして使用している通貨も精霊の造っているイディ。

 これはどう捉えるべきであろうか、モンスターと精霊の関係って人間よりもずっと深い関係なんじゃないだろうか。

 普通に精霊が人間とモンスターの両方と上手く共存していると考えることもできるが、世界が精霊に牛耳られている気がしなくもない。

 ……まあ今はいいか、それよりももっと大事なことだってある。

 考えても解決しないし、正解なんて分からないし、アルカトラズと戦う時にも関係しないだろうしな。

 まずは俺の命の保証が最優先、そのためにやるべきことをやらないと。


 アルカトラズは街の中央にある金属の堅牢な柵に囲まれたラダモンという建物に居を構えており、ここで流刑を食らったモンスターの仕分けを行っている。

 そして今俺はラダモンの前で見たことのない大きさの建物に呆然としている。

 高さも電波塔ほどの高さもあるが、横にも長くてラダモンの正門から首を限界まで振っても端っこが見えない。

 当初ジロジロ見てると不審モンスターと思われるかなと心配していたのだが、観光スポットなのか俺と同じようにラダモンを見てるモンスターが多数いるし、お土産屋もあるので完全に一観光客として溶け込んでいる。


 じゃあどうやってラダモンの中に侵入しようかしら。

 普通に離れたところの柵からこっそり忍び込んだら撃墜された野鳥の二の舞になるかもしれない。

 とりあえず転んだふりして土産物屋のお菓子でも柵の内側に投げてみるか?

 無機物には反応しないという可能性もあるが、レーザーが飛んでくるかどうかの試金石にするにはちょうどいい塩梅。

 何か言われても謝ればどうにかなる範疇でしょう、多分。

 というわけでお土産屋で購入したお饅頭ぽいものを足元の石に躓いたふりをしてラダモンの柵の中にシュート!

 柵の方向に飛んでいったお饅頭はレーザーによって撃ち抜かれて消し炭と化した、超エキサイティング!

 これがアルカトラズの命を狙うお前の末路だ、というメッセージだろうか。

 侵入者には死を、という言葉を具現化したらこのようになるのかもしれない。


 これは柵をこっそり超えて侵入するというのは厳しいな、アルカトラズの前に辿り着く前に死んでしまうわ。

 では正門から堂々と、と言いたいところだが、正門にいるのはRPGのラスボスみたいな見た目と大きさの見知らぬモンスターが正門に鎮座して通るモンスターをチェックしている。

 見た目がいかつくて大きい=強い、と決まっているわけではないのだけれど見ただけで理解する。

 あれと戦ったら誇張抜きでタダでは済まぬ。

 アルカトラズと万全の状態で戦っても勝率があるかどうか分からないのに、消耗した状態で戦えばタダでさえ見えない勝率が0になってしまう。


 アルカトラズの何人いるとも知らぬ側近を一人ずつ削るという手もある。

 だがそれを行うにもバレずにラダモン内に侵入する方法が必要不可欠である。

 なので考えられる作戦は上が駄目なら下から行けばいいじゃない作戦。

 サンドワームなどのワーム種になって地中から行けばさすがにレーザーは飛んでこないと思われる。

 問題があるとしたら、レーザー以外の防衛システムがある可能性か。

 どんな防衛システムなのか分からないが、対空防衛システムがここまであるのであれば地中にも何か仕掛けられている可能性は十二分にある。

 とりあえずまずワーム種を探して動静を見てみようか。

 彼らが地中に全く潜らなければ俺も潜るのは止めておこう、何が起こるか分からない。


 買い物をしていたワーム種がいたので尾行したところ、買い物を終えたワームは外壁の近くで穴を掘ってアウトフィットの外壁の外へ出て行った。

 どうやらアウトフィットの外に出ていく分にはセーフのようだ。

 逆にアウトフィットの中に入ってくるのはどうなのだろうか。

 入れるのかもしれないが、精霊語を話せるようになる魔法も無しにアウトフィットに来たところで会話が通じないから普通に正門から来るか。

 とりあえずアウトフィットの中で穴を掘るのはセーフなのは分かった、後はラダモンの中に侵入を試みるのみ。



 では街の人通りのない裏通りからラダモンへ穴を掘って侵入したいと思います。

 目立つからアイテムボックスに仕舞っておいた黄金の鎧を装着し、サンドワームに姿を変えて黄金色のサンドワームになって掘削開始だ。

 ラダモン敷地内までおよそ50メートル、1分もかからない距離ではあるがまずは保険として逃走経路をあらかじめ掘っておく。

 これで何かあってもすぐに逃げられるだろう、ではいざゆかん敵の本拠地へ。

 音を控えめにするために普段より深い場所をゆっくり掘っていこう、それでもカップラーメンが出来る前に到着するしね。


 特に障害もなく残り数メートルでラダモンの柵を超える所まで来た、気合入れていくぞ!

 意気込んでラダモンの柵の地面を通過しようとした瞬間、俺に一つの感情が向けられた。

 殺意、死を彷彿とさせるような予感である。

 もちろん俺自身が誰かに攻撃されたわけでも、見つかったわけでもない。

 だが今この瞬間、頭の中から血の気が引く音が聞こえた、体の温度が下がった、頭の中が白いペンキをぶちまけたかのように白くなった。

 逃げろ、と俺の頭の中が命令を下す前に俺はUターンをして掘った穴を脱兎の如く逆走した。

 逃走経路を全力で移動し、ラダモンの塀を超えてラダモンから100メートルほど離れたところでようやく後ろを振り返ることが出来た。

 何だ、あれは。

 何があったわけではない、ただ殺されると思った。

 血の気が引く音を聞いたことは前世で数回経験がある。

 だがそれは不味いことを思い出したり、何かを行った後に不味いと気づいた時などで、何も無い時に起きる現象ではない。

 俺はあの瞬間、正に、死の危機に瀕していたのだ。


 いやー、無理だと思うんだけど。

 まだ戦うどころか対峙すらしていないんだが、勝てるビジョンが見えないどころか死のビジョン以外存在しない。

 どうしよう、と途方に暮れて体育座りをして街の外からラダモンの方を呆然と眺めていると、一匹の巨大モンスターがたった今ラダモンに流刑魔法で飛ばされてきた。

 巨大モンスターはアウトフィットの屋上の牢屋に向かって飛ばされていき、着陸した巨大モンスターのドンッという衝撃音がここまで響いてきた。

 あの巨大モンスターはここからでも見えるけれど全長何メートルくらいなんだろうか。

 数百メートル離れていても見えるんだから10メートルくらいあるのかな。

 あのモンスター見たことないから知らないけれど、俺では勝てない可能性は高い。

 所詮俺って本来2メートル超サイズの獣だし、体長差5倍は自然界に置いて普通覆すことができない差だから。


 運良くあのモンスターがアルカトラズに反逆してそのままアルカトラズの首を取ってくれないかなぁ。

 そんな都合のいいことを考えていると、アウトフィットの屋上から溶岩のような熱を帯びたレーザーが天に放射され、巨大モンスターは蒸発した。

 そして俺は一つの事実を理解した。



 俺には、アルカトラズも、他のターゲットも、殺すことは、不可能だ。

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