67 はじめてのすぱい 中編
モンスターの会話を盗み聞きしたが、予想はできていたとは何会話してるのかはさっぱり分からない。
でも所々単語が少しだけ拾えるんだよな、何でだろう。
前世で言うと目の前の外国人が何言ってるか分からないけどstationとかsuper marketだけの単語が分かるような感じ。
人の言葉でもモンスターの言葉でもない……もしかして精霊語か?
魔法で使う精霊語しか俺は知らないけれど、中の会話で精霊語の単語が稀に出てきているな。
モンスター達の公用語が精霊語はちょっと予想外だわ。
ちなみに俺は魔法関連の精霊語以外ほぼ分からない。
だって精霊語で会話することないからね、普通の精霊は人間と会話できないし。
上空から遠見でアウトフィット内を覗いてみると、ゴブリンとリザードマンが会話していたり、オークとサンドワームが会話している。
どうやらアウトフィットにいるモンスターは精霊語が話せるようだ。
だから俺がアウトフィット内にモンスターになって入れたとしても、言葉が分からないから滅茶苦茶リスキーだな。
だがどうする、今から精霊語をペラペラ会話できるようになるまで語学勉強するのか?
さすがにそれはちょっと考えどころ、まだ密入国する手段を考えたほうがマシ。
とりあえず現段階で行動方針を確定するべきではない、引き続き情報収集に勤しんでいたところ、何やら列の最後尾がガヤガヤ騒がしい。
どうやらトレント系のモンスターとリスっぽいモンスターとで喧嘩が始まったようだ。
リスがキーキー鳴いているがトレントの根っこでも齧ったのだろうか?
トレントは会話することができないのか無言でファイティングポーズみたいなものを取り、リスもそれに応じて殴り合いの喧嘩なのか殺し合いなのか分からない戦いが始まった。
さすがこの大陸はモンスターの中でも犯罪者が集まる場所だ。
どこからでも切れるマジックカットよりもキレやすいモンスターが揃ってる。
この戦いのレフェリーになるために門の方から獅子舞みたいなモンスターがやってきた。
これはお祭り騒ぎなるか、と思いきや普通に喧嘩を止めに来たようだ。
しかしどうやって喧嘩を止めるつもりなのだろうか、と思っていると獅子舞がカタカタと歯を鳴らしながら「ヽヾゝゞ〃仝々〆〇」と何か俺の知らない魔法を唱えた。
するとなんということでしょう、獅子舞の魔法によって会話できなかったトレントがしゃべりだし、リスのモンスターもキーキー鳴かずに精霊語っぽく会話してるじゃありませんか。
そしてトレントは獅子舞に噛まれながら、リスは緑色の布に巻かれて門の方に連行されていきました、喧嘩両成敗。
なるほどね、アウトフィットの中に入るときにあの獅子舞に魔法をかけてもらうことで街中で精霊語で会話できるようになるのか。
門に並んでいるモンスターの大半が大人しかったのは他種族に言葉通じないからというのもあったのかな?
つまり門に入って精霊語を使える魔法かけてもらってアウトフィットに入る。
そして多分時間か場所の制限で魔法が切れるとタイムアップ。
門で並んでいる中には空を飛んで移動するモンスターもいるが大人しく地面で列に並んでいる。
多分空中から侵入モンスターはいないのだろう、会話できないと困るだろうし。
そのようなことを考えていると一匹の野鳥がアウトフィットに空から入っていく所であった。
どうなるのかなとそれを悠長に眺め、野鳥がアウトフィットに入った瞬間、街の内側からレーザーのように魔法が飛んできて野鳥は消滅した。
大人しく適当なモンスターに姿を変えて門からアウトフィットに入る決断をするには十分過ぎる光景だった。
というわけでゴブリンに姿を変えて列に並び順番を待つ。
ちなみにゴブリンである理由は何か不味いことを言っても頭悪いから仕方ないなと許してくれそうという偏見があったからだ。
緊張しながら20分ほど列に並んでついに俺が列の先頭になった。
門が開いて獅子舞が俺に魔法をかけ、獅子舞が
「よし、中に入れ」
と話しているのが分かった、やはり翻訳魔法を使っていたのだ。
頷いて中に入ると2メートルくらいのドーベルマンみたいな顔をした人型のモンスターが机に座ってこちらをチラリと見た。
これは人間の町の関所と同じシステムと考えていいだろう、ドーベルマンは手元の紙に何かを記入しながら
「何の用件で来た」
と簡潔に聞いてきたが……どう答えるべきだろうか?
観光? でも観光する場所なんかここにあるのか?
何処を観光するのかと聞かれたら対処に困りそうだから止めておいたほうがいいか。
仕事とか嘘をつくのも危険だな、聞いてないぞとか言われるかもしれないし、見た目的に嘘言ったらすぐ嘘ついてる匂いがするとか言われそう。
「買い物です」
まあこれが無難か、何をと聞かれても食糧とか当たり障りの無い答えできるし。
「バウチャーは?」
……バウチャー? バウチャーって何?
人間の関所でバウチャーなんて聞いたこと無いぞ、もちろん魔法関連の単語でも聞いた事は無い。
物体なのかそれとも概念的な何かなのか全く分からんぞ。
どうする、どう答えるのが正解なんだ?
全く知らない単語が出てきたことで固まる俺に、ドーベルマンは顔の眉間辺りに皺を寄せながら俺を睨んで
「バウチャーはあるのかと聞いているんだが」
と若干イラついているような声で聞いてくる。
バウチャーが何なのかはさっぱり分からないが、この聞き方であるなしで答えることができるものだということは分かった。
もしバウチャーが誕生日とか出身地のような物体では無いものであれば、あるか否かという質問にはならない、と思う。
そしてあると答えればそれを出せと言われる可能性は非常に高い、そうなったら詰みに近い。
ないと答えてもどうしようもない状況に陥る可能性はあるのだが、絶対にあるものならばそれを出せとか言えとか言ってくるはず。
つまりバウチャーとは全員があるものではない、と信じたい。
少なくてもあると答えるよりはマシであると俺は信じるしかない。
「……ないです」
そう答えるとドーベルマンは突如少し下げ気味だった目線を上げ、鋭い瞳をギラりと俺の目に合わせてきた。
ヤバいっ……頭が真っ白になってただただ相手の目から目を離せず、少しの間無音の時間が流れた。
「日没までには出ていけよ、絶対だ。翻訳魔法は明日までは持たないからな」
ドーベルマンが手元で何かを操作すると、奥の扉が開いて獅子舞が行ってヨシッと言うのでこれで中に入っていいということだろう。
足早に歩いて扉の向こうに行くと後ろの扉は閉まり、背中に冷や汗をびっしょりとかきながらもアウトフィットの街の中に潜入することに成功した。
あぁ怖かった、死ぬかと思った。
あのドーベルマン俺に殺意を抱いていたんじゃないかってくらい目怖かったぞ。
アルカトラズに殺されたならまだ仕方ないと納得するけど、あのドーベルマンに殺されたら本当に犬死にだぞ。
アルカトラズはこのアウトフィットの中心にある城に住んでいる。
街の雰囲気を見ながらそちらの方向に進んでいこう。
バウチャー:ホテルや旅行会社が発行する予約確認書。これが無いと入国できない国がある(ロシア等)




