64 決闘は1対1だが1対1にあらず 中編
兄が俺の決闘相手であるアデランの情報を集めている間、俺はまた別の準備をする必要がある。
ソヤパンから別の街に行って必要なアイテムを入手する。
今回の決闘に関して使うアイテムはソヤパンで買うと何を買ったか漏れる恐れがあるので、この買い出しで揃えておこう。
こうやって想定外の事態になったとしても別の街に行って必要なアイテムを素早く入手できることが合成獣である俺の強み。
鳥になることによる移動速度が速さを有効活用する。
今回は合成獣の能力をまだまだ利用する予定だ。
しかしそのためには兄からの情報が必須、少しでもマシな情報を入手してくることを祈るしかない。
1週間後、兄の集めてきた情報は以下の通りであった。
アデランは31歳、軍学校卒業後各地の前線にいたが、実力の高さが評価されたことにより軍の訓練部に引っ張られて教育指導教官に2年前から就任。
現在はソヤパンで主に若手に対し前線での戦い方に関する指導を担当している。
妻と子が2人いるが首都の実家に預けているため現在単身赴任中。
武器は剣が一番得意だが他の武器も一通り使えて魔法も組み手も得意で隙が無い。
趣味は筋トレと外食、好きな食べ物はパスタとピザとワインで嫌いな食べ物はザワークラフトとパクチー、あと女好き、以上である。
……ベイコブ兄さんさぁ、もうちょっとマシな情報探ってきてよ。
趣味と食べ物の好き嫌いを中心に調べてきてどう決闘で有利に働くんだよ。
でも急に弱点とか言われても厳しいか?
例えばクラスメイトの席が隣の人の弱点を調べろと言われても難しい。
まあ俺では調べることの出来なかった情報も調べてきたと評価することもできる。
アデランの居住地は犬になって尾行することで突き止めているが、短期間で経歴や好き嫌いに関しては調べるの困難だったし。
で、兄さんに聞きたいんだけど、この情報で俺はどうやってアデランに勝てばいいんだい?
そんな俺の真面目な質問に兄は、ザワークラフトでも投げればいいんじゃないかな、などと適当なことを抜かすので本日の会計は兄に投げた。
弱点でしょう、財布の薄さが。
さて、役に立つのか立たないのか不明な情報を入手したが、これを上手に役立てることが約束された勝利の鍵だ。
現時点ではまだ勝率は50%程度、これを100%に近づけることが出来るかどうか。
宿屋でゴロゴロしたり酒を飲むために何軒かハシゴしたりしながら考えた末、大まかな作戦を立てることはできた。
あとは実行するのみ、覚悟したまえ、俺の本気を見せてやるよ。
決闘の4日前の深夜、ソヤパンの街の外で騒音が響いた、少数のひこうにゃんが来たのだ。
パラリラパラリラと大声を出しながらソヤパンに近づき、ソヤパンの外壁や街の外にある軍の演習場にある小屋に卑行娚参上! とイカスミらしきもので落書きがされていた。
更に演習場にある木製の的や看板がひこうにゃんにより破壊されていた。
被害は軽微であるが落書きを消したり新しい的や看板を作る必要があり、担当の人は仕事が増えた。
これが第一の作戦、ひこうにゃんによる襲撃である。
何故このようなことを行ったかであるが、俺を面倒なことに巻き込んだ軍への嫌がらせ。
ではなくアデランが訓練部の指導教官だったからである。
訓練部ということは訓練するための場所、つまり演習場の管理をしている可能性が高く、演習場の設備が破壊されれば修理の段取りをする必要がある。
そしてそのような仕事を担当するのは訓練部の中でも若手が担当する案件である可能性が高い。
街から遠い、重要度が低い、面倒くさいの3拍子揃った仕事は押し付けやすく、演習場で指導する若手指導教官が担当し、実質管理しているだろう。
アデランは経歴を聞く限り現場上がりで指導教官になっているのだから立場としては下のほう。
よってこのような施設修繕の仕事はアデランも担当になっている可能性が高い。
つまり演習場を破壊することでアデランの仕事を増やし無駄な時間を使わせることで、模擬戦などの時間を減らさせるとともに疲労とストレスを貯めてもらうという作戦である。
もちろん軍は俺の犯行だとは気づくことはない。
普通の人間がひこうにゃんに化けるわけがないのだからね。
さて他にもやることがある、アデランも忙しいだろうが俺も忙しいのだ。
《アデラン、酒を飲む》
決闘を明後日に控えた夜、アデランは馴染みのバーのカウンターで1人ピザをつまみながらワインを飲んでいた。
アデランは友人のバーテンダーに演習場が壊されて大変だったよ、などと雑談をしていたところ誰かがバーのドアを開け、カランと鈴の音が鳴る。
その音を聞きドアに目を向けてみれば、歳は20半ばほどの女性が1人で来店したのだ。
女性は肩までかかる長さの金髪をなびかせ、紺色のタートルネックにベージュのロングスカートを身に包んでおり、顔は正直、失礼ながらこのようなバーに1人で来るのが不釣合いなほど美人であった。
バーテンダーがどうぞと店内に通すと、質の良い香水でもつけているのだろうか、自分の後ろを通っただけで良い香りがした。
彼女は自分からひとつ椅子を空けた椅子に座り、メニューを一通り眺めてからカクテルを注文した。
あまりじろじろと見るのが失礼なのは分かってはいたのだが、どうしても見てしまうのは彼女の容姿に見とれていたからか、それとも彼女の香りに誘われてしまったのであろうか。
チラチラと彼女を見ながら、誤魔化すようにワインを飲むペースが早くなりピザをつまむと、それを見た彼女が、私もピザ欲しいけどちょっと多いなぁ、とバーテンダーに話した。
すると気を利かせたのかバーテンダーは自分に向かって、アデラン半分食わないか、と言ってきた。
そこまで腹が空いていたわけではないが、ピザ半分程度なら軽く食べることはできそうだったし、彼女がこちらを見ていて格好良いところを見せたかったという気持ちもあった。
じゃあもらうよと返事をすると、彼女からありがとうございますと魅惑的な笑みで感謝されるのだから全く悪い気はしない。
ピザが焼かれてカウンターに置かれ、どれくらい食べますか、と聞くと、食べながらでいいですかと言い店に他の客が来て混んできたこともあり、一つ分の開いていた椅子を詰めてきた。
ただ移動しただけでピザの匂いとはまた違う良い香りが鼻をくすぐる。
無意識にもちろんと答えて彼女と一緒にお酒を飲みながらピザをつまむことになった。
席が隣同士になったことで自然と2人で会話することになり、話した内容はたわいもないことであったが、不思議なくらい夢のように楽しい時間であった。
大事な決闘の前にひこうにゃんがやってきて演習場が壊されたりして良いことなくて、愚痴りも兼ねてバーに来たが今の状況を考えればひこうにゃんに感謝したいくらいだ。
一応念のためトイレに行って小便のついでに下着チェック、良し、悪くない。
ただ幸か不幸か彼女と別の場所に行くことは無く別れてしまった。
惜しかった、でも妻子がいる身としてはこれで良かったか、いやでもやっぱり惜しかった。
次会った時はもっと深い仲になりたいものだ、出来れば割り切った関係で。
そう都合のいいことを考えながら帰宅してそのまま寝た。
彼女の香りが残っていたのか夢に出てきた、彼女が妻子がいる俺を口説いてくる夢である。
悪い夢、いや、いい夢だった。




