63 決闘は1対1だが1対1にあらず 前編
何か知らないが軍とギルドの決闘に巻き込まれてしまった、負けられない戦いが始まってしまう。
最初に大事なのは、如何に自分に有利な条件で決闘を行えるように仕向けることができるかである。
幸いなことにまだ決闘のルールは完全に決まっていない。
軍とギルドの責任者がいる今ならば俺の提示する条件を飲ませることが可能かもしれない。
まず決闘のルールは一般的なものだが一応1個ずつ確認していく。
その隙に俺は自分に有利になり相手が飲むような条件を考えておく。
基本ルールは簡単に言うと決闘者同士1対1で戦い武器は木製の物を使用、魔法は無し。
お互いに立会人がいて勝利条件は10カウントノックアウト又は30秒の押さえ込み成立、審判は軍とギルドで話し合い中立に行える者を用意する。
ここに俺に有利なルールを組み込むことが勝利への第一歩だ、さてどれだけ飲ませられるかな。
30分ほどの話し合いの結果、一見すれば平等だが俺にとっては有利な条件を飲ませることが出来た。
まず決闘の日時は1週間以上前に決定し、決闘日時に決闘場所に現れない場合は問答無用で不戦敗とすること。
これは俺が冒険者であることから日程は早めに決めること、予備日は他の依頼に支障をきたす場合があるので困ると伝え合意してもらった。
次に決闘に合意したらお互いの決闘者の変更、つまり代理や替え玉は無し。
すでに決闘で決着させるぞ! と言っている人の代理で戦うんだから、これ以上こんなことに費やす人間を増やすのは止めろという建前で禁止に持ち込んだ。
相手から体調不良とかあったらどうするのと聞かれたが、事前に予定ある日決めておいて体調崩してるとか普通に管理不備でしょ。
その程度の体調管理できないような場所に人を出向させるの?
自分のところの管理体制に脆さがありますって白状するの恥ずかしくないの?
といった内容を丁寧な言葉で包んで話したところOKが出た。
それから条件と言えるか怪しいが、決闘者が決まったら俺を連れて1回挨拶をしにいく。
俺だけ相手がどんな人か知らないのは不利だからね、これも多少の反発はあったもののあっさりOKが出た。
最後に俺は武器の切り合いよりも魔法が得意だから魔法を許可してくれ、と無茶ぶりをしたがさすがにこれは拒否された。
まあ普通に危ないからこの最後の条件は受け入れられないと分かっていたから予定通り。
それ以外の条件を飲ませるためにわざと無理な条件出して残りの条件飲ませやすくしただけだし。
というわけで日時厳守予備日無し、代理禁止、事前にお互いに挨拶という普通の条件を飲ませたわけだが、実は俺にだけ有利になっている。
勝負とは戦う前から始まっているのだ。
冒険者ギルドにも協力を要請し、可能なことであれば何でも協力してくれることを約束してくれた。
さあ決闘に勝つための活動を開始しなければな。
この話をした翌日、決闘日が2週間後の午前10時に決まり、決闘相手も決まったことから早速挨拶に行くことにした。
決闘相手はアデランという軍で若手の指導を行っている教官で、ソヤパン駐留軍内の模擬大会で3連覇して殿堂入りになっている人物だそうだ。
応接室でご対面したところ体ヤバい、筋肉が服着て歩いてるという印象。
見た目も怖い、スキンヘッドなうえ金色のネックレスをしていて余計に柄が悪く見える。
そんな街中で見たら暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律に引っ掛かりそうな外見をした人間が相手だ。
相手にとって不足無しというか、普通に強そう。
アデランから正々堂々やりましょうと握手を求められ握手を交わした。
手のゴツさがモンスターと大差無いんだけど、新種のモンスターとして登録しても良いのでは?
事前に会うことが出来て良かった、正々堂々と戦っていたら勝敗はどうなるか分からなかった。
でも誰が相手か分かってしまえばこちらのものだ、仕込みをする時間はたっぷりと残っている。
まずは情報収集からだな、早速オゴリをダシに軍のスパイを召喚だ!
というわけでやってきてもらったのは軍のスパイであり俺の兄ベイコブである。
早速アデランについて知っていることを洗いざらい全部吐いてもらおうか。
兄に今度の決闘のこと知ってる? と聞いたところ何かあるとは聞いたけど誰がなんでやるとかはまだ詳しく知らないと言う。
俺がやると言ったら、えっ、フィヨルドなの、……あぁ、だからかと何か心当たりがあるらしい。
何かあったのか聞いてみれば、兄が上官に呼ばれて俺のことについて聞かれたようだ。
お前がスパイになってるじゃねえか、弟を売るな。
そこで兄は俺のことについて聞かれたようだが、兄は俺が冒険者になる前に軍学校に入っているので俺の戦い方や武器についてはほぼ知らない。
情報の流出は最小限で済んだのは不幸中の幸い、まあ知られて困るほどのものも無いけど。
じゃあ兄は俺の情報を全部ペラペラとしゃべったようだし……アデランについても全部教えてくれるよね、戦い方とか武器とか弱点とか全部。
しかし兄は、いや知らんよ、教官なのは知ってるけど話したことないし、指導してるところも見たこと無いから、と言うのだから全くもって役立たず。
そんなんじゃいつか冒険者に転職しても一生Sランクになれないよ。
まあ知らないのは分かるけど、でも弱点の1つや2つくらいあるでしょ。
魔法が苦手とかトマトが嫌いとか幼い子供がいるとかさ、何か知らないの?
そう聞いたところ兄は幼い子供ってフィヨルド何するつもりだよ、とちょっと引いた。
例えだよ例え、で本当にアデランのこと何も知らないの?
そう再度聞いたところ兄はしばらく考えて、単身赴任してるみたいなことを聞いた覚えはあるけど、と微妙な信憑性の内容、この可愛い弟のためにもっと情報集めてきて☆ミ。
だが信じがたいことに、この可愛い弟の頼みを兄はやだよの3文字で断ろうとしてくる。
やって、と、やだよの応酬が始まり、兄からそんな卑怯な手を使うな、なんて言葉が出たけど俺の情報を先に集め始めたのは軍のほうでしょ。
情報収集を初めとした計略も決闘の内なんだよ、なんのための準備期間だと思ってるんだ。
そんな俺の主張を聞いて苦い顔をしながらうーんと唸る兄。
でも親しくないとはいえ仲間を裏切るような行為はなぁ、とまだ渋るが、やってくれないと恐ろしいことをやるぞ?
俺がやろうとしている恐ろしいこと。
それは成人もとうに済ませた男が、大人げなく見知らぬ女の前で泣いて地面を転がり駄々をこねて兄の悪口をこぼす行為である。
いいのか、成人男性がやると誰が相手でも引くぞ、それでもいいのか、俺は本気だぞ?
兄は何のことか全く分かっていなさそうにポカンとした顔をしている。
もちろんそんな行為を何も考えずやったところで兄に対するダメージは無い。
だが場所と相手を選んだらどうなるかな?
俺がその大人げない行為をやる場所は、兄が足繁く通っている色町にあるデルヘルH、バブルバスY、キャバクラCに在籍している兄のオキニの女性3人の前だ!
兄が常連であるお店はすでに把握済み、本当はオキニの女性までは知らないが、まさかこの短期間に常連の店を把握されているとは思うまい。
そして釘を刺すだけなら店の名前だけ言えば十分すぎるほど効果がある。
面白いくらい動揺する兄は、1週間後また会うまでにアデランの情報や弱点を可能な限り集めることを当然のように快諾してくれた。
可愛い弟の為に職場の仲間を裏切ってくれるお兄様には感謝感激雨あられ。
じゃあ報告は1週間後ね、キリキリ働けよ。




