61 血は争えない
アズールのギルド長への借金も無くなり、また手持ちのお金も出来たので本格的に俺自身を強化しようと思う。
方法は簡単だ、まだ見ぬモンスターを倒すことで経験を積み、捕食することで俺自身に幅を持たせ、余った魔石を売却し、金が貯まれば武器防具を買うという一石二鳥どころか一石三鳥な作戦だ。
しかしアズール周辺では出会ったことの無いモンスターに出会うことは難しい。
そこでモンスターの領域との境界にあるソヤパンの街を拠点としてモンスターの領域に侵入し、まだ見ぬモンスターと戦い、勝利し、遺伝子を奪わせてもらう。
というわけでソヤパンへ出発だ、さらばアズール。
長い間世話になった、暇になったらまた来るぜ。
ソヤパンは国内の北端の辺境にある街である。
アズールなどの他の街の違いとして、モンスターの大規模な侵攻に備えて街の外周が砦のように屈強な造りになっていることだろうか。
モンスターは領域線の何処からでも侵入してくるのだが、大規模な侵攻に限り街道というか獣道のような特定の道を通って侵攻してくる。
その最前線に位置するのがソヤパンであり、ソヤパンはここで侵攻を食い止めるための砦としての役割を有している。
しかしここで疑問が一つ生まれる、何故そんな危険な場所に砦だけでなく街があるのかである。
細かい理由はたくさんあるのだが特に大きな理由は精霊の問題だ。
人間にとって精霊は魔法を使うために絶対に必要な存在。
魔法は戦闘以外にもライフラインの一端を担っており、また精霊が少なければ同じ魔法でも魔力の消費が多くなってしまう。
故にこの最前線の砦であるソヤパンには多くの精霊がいてほしいのだが、精霊も人間を必要としているのでその地域の人間の数に比例して精霊の数も増える。
つまり人口の増加が魔法の負担の軽減に繋がるのだ。
もしソヤパンに街がなく砦に常駐する軍の兵士や職員だけで構成されていれば、精霊が多く集まることは期待できず、魔法を使用した際の魔力の消費が増えることが予想された。
またモンスターの大規模侵攻を事前に察知しソヤパンや周辺に大量の兵士や冒険者を集めたとしても、精霊不足により魔法を使用できない恐れがあった。
このことからソヤパンという砦に街も併設して人間を定住させることにより、安定した精霊の確保という問題をクリアしたのだ。
そんなわけでソヤパンは辺境に位置しているにも関わらずなかなかの規模の街となっている。
こんな危険な場所嫌だ、と引っ越しを考える者もいるが、このソヤパンは危険都市手当という名目で住民税等が安いので引っ越してくる者もいる。
またモンスターも当然数も種類も豊富であり、モンスターハンターのような連中が国中から集まってくる場所でもあり、俺もそのうちの一人になったわけだ。
ソヤパンに着いたらまずやることは情報収集。
そのために普通は冒険者ギルドなどに行くのだが、今回はギルドへ行く前に尋ねる人がいた。
俺が向かったのは軍が駐留する砦の一角、門番に用件を伝えると少し待てというのでしばらく待っていると懐かしい顔の男が走ってきた。
その男こそ俺の兄、3男のベイコブである。
ベイコブは軍学校を卒業してからこのソヤパンで領土警備を行っており、砦に駐留するだけでなく街の外でモンスターを討伐することもあると実家に帰省したときに言っていた。
つまりこの周辺のモンスターについてはある程度の知識があるはず、可愛い弟のためにその辺り詳しく聞かせておくれ。
とはいっても今はまだ仕事中、すぐに持ち場に戻らなければならないが、夜になったら時間が取れるそうなので待ち合わせの場所だけ決めておく。
あとこれお土産、海産物手に入りにくいと思って、昆布とさきいかと海魚の干物、魚は両面焼いてから食べて。
……酒と菓子類のほうが良かっただと? 街中で買えるでしょ、そんなもん。
じゃあ俺宿取ってくるからまた後で、と言ってその場は別れた。
弟が買ってきた土産なのだから素直に喜べばいいのに。
宿を取って冒険者ギルドで資料等を眺めて時間を過ごし、夜に兄と落ち合った。
とりあえず店に入ろうぜ、と兄に店選びを任せると個室のある料金設定高めの料理店に連れて行ってくれた。
久しぶりの再会を祝って奮発してくれたんだな、と少し感激しながら酒を酌み交わす。
お互いの近況を語り合ったりしながら、本日のメインテーマであるこの辺りのモンスターについて話を聞いた。
まずソヤパン周辺は意外なことに他の街と大して変わりないらしい。
もちろんソヤパン周辺に出現するモンスターにも特色はあるのだが、それはソヤパンに限ったことではなく地域特性のようなものである。
なのでそこまで語るべき情報は無い、とはいってもそのような情報がとても有り難いのだが。
しかしソヤパンから離れてモンスターの領域、通称魔の領域に入っていくと話は変わってくる。
魔の領域奥深く入って行けば行くほど国内では見ることの無いモンスターや未発見や未調査のモンスターに遭遇する。
素性も特徴も分からない相手に殺し合いを挑むのはとてつもなく危険である。
また人間と同じように集落や街、砦や城なども存在するらしい。
あまり奥深くに行く者がいないので最新の情報は分からないが昔はあったそうだ。
なんでわざわざそんな危険な場所に行くの、と兄から尋ねられたが本当の事とも言えないので、未知への挑戦って楽しいじゃないと誤魔化しておいた。
予定の料理が全て運ばれしばしの時間が過ぎ、宴もたけなわというところでお会計の時間になったのだが、店員が料金の書かれた紙を持ってくると兄は俺のほうに手のひらを向けた。
そして料金の書かれた紙が俺の元に置かれたけど、俺が払うの? 嘘でしょ?
高い店を奢ってくれるんだなと思ったあの感動を返せ。
兄は色々な情報聞かせてやっただろ、と言うけれど俺は土産買ってきただろ。
あの海産物わざわざ寄り道して買ったんだぞ。
それに世間一般から見れば日雇い労働者のような弟に会計を支払ってもらう軍務めの兄ってどうなの?
兄の体の中には支払いを相手に押し付けるというケチの血が流れているのではないだろうか。
そんな不良遺伝子を誰から受け継いだのか、親の顔を見てみたいものである。
とにかくお支払いの優先順位において兄より優れた弟なんて存在しない、なので兄が支払って、と料金の書かれた紙を兄に押し付ける。
しかし兄も負けじと、Bランクの冒険者なら俺より断然稼いでるだろ、貧乏な兄に対する優しさはないのか、と再度俺に押し付ける。
確かにこの1年の年収は俺に比べて兄の方が若干低いのは事実である。
だが兄という尊厳の維持のためにここの会計を出す権利を譲っているという俺の優しき心遣いを理解していただきたい。
話し合いが平行線を辿る中、兄から色町の事はいいのか、教えてやらんぞと人間の三大欲求を盾にしてくるという悪質な行為が行われた。
そりゃあ、色町の情報は……必要だよ、オススメのトルコ風な浴場とかないの?
しかし兄は教えるわけないだろの一点張り。
何で? と聞いたところ俺と兄弟にはなりたくないと言う。
いや俺が生まれてきた瞬間から兄弟でしょ。
今更そんなこと気にしなくてもとも思うのだが、こっちの兄弟はよくてもそっちの兄弟は絶対に嫌だと譲る気配を見せない。
じゃあせめて色町に出てくるモンスター危険地帯を教えてくれよ。
俺はソヤパンにモンスターハントに来たけど街中でモンスターハントする趣味は無いんだ。
そんなことを話していると店員が再度やってきて事実上の退出命令をされたので、ここでの会計は痛み分けということで決着が着いた。
2軒目は兄の財政状況を考えて場末のスナックになったのだが、何故兄は財政状況が悪いのかが色町の話ではっきりした。
ソヤパンは軍が駐留していることもあり色町の規模はなかなかのものなのだが、兄は色町にとても詳しい、つまりそういうこと。
ここの支払いは兄が出してくれたが次は俺がおごれよと言われた。
安い場所でおごって貸しを作ったつもりかもしれないが、次に飲みに行ったとき俺がおごるつもりは全く無い。
何せ兄と同じケチの血が流れてますから、おごるよと言われた時はむしろ注意したほうが良いレベル。




